第35話 捻れ
誓約書の無断使用がトドメとなり、遂にアルベルトは投獄された。
手続きを経て廃嫡されるだろう。
牢の中で考えるのは、憎き男と、愛しい女性の事だった。
ヴァンのせいでこんな目に遭ってしまった。
こんな失態をした自分を、ガルフォーネはどう思うのだろうか。
怨みと畏れが、交互に感情を揺さぶってくる。
次第に──アルベルトの思考は前向きになっていった。
もしカミラが魔王を復活させ、この国が攻撃されたとした場合⋯⋯ヴァンを殺せないまでも追い出したのは自分の功績だ。
アイツさえいなければ、魔王もやりやすいハズ。
それを上手くアピールすればチャンスはあるだろう。
またカミラも王が勝手に結婚を断ったとはいえ、自分に惚れている。
父さえいなければ結婚できる、そう伝えれば大丈夫なハズだ。
そう、俺はまだ終わっていない──。
こんな目に俺を遭わせたヴァンも、父にもわからせてやらないと。
その為にも、まずはここを出なければ。
そう決意した頃──何やら衛兵達が騒ぎ始めた。
しばらくして、王がアルベルトの牢までやってきた。
「アルベルト。恐れていた事態が現実になった」
「魔王⋯⋯ですか?」
「ああ。どこから連れてきたのか、数十体の魔族を率いて王都に攻め入って参った。今は騎士団が街の入り口で抑えておるが、時間の問題だろう」
「あの魔王相手に戦える者は、残念ながらそう多くはないでしょうな」
「うむ、そこでアルベルト──お前が魔王と戦え。仮に敗れようとも、それでお前の名誉も多少は回復する」
アルベルトはその意味をすぐに察した。
つまり父は、魔王相手に時間稼ぎをして──死ねと言っているのだ。
自分が討ち死にすれば、
冗談じゃない。
それならここで過ごし、魔王が目障りな父を殺すのを待った方が無難だ。
「お断りします」
「⋯⋯何?」
「いかに緊急時であろうが、例外を認めれば悪しき先例となりましょう。私に必要なのは名誉の回復よりも、まずは罪を反省し、刑に服する事です」
「⋯⋯そうか、わかった。それがお主の答えなのだな?」
「はい」
「アルベルト」
「何でしょうか?」
「私はお前の父だ。だがその前に──王なのだ」
意味深な言葉を残し、王はそのまま立ち去った。
そのまま牢で過ごしながら、アルベルトは考えていた。
いや、魔王と戦うと言って取りあえず牢から出て、父を害し、降伏すれば良かったのではないか?
そうだ、それがいい。
この城で、魔王と戦えそうなのは自分だけだ。
どうせまた頼ってくるだろう。
決行はその時に──。
ごきん。
「あ?」
音がしてすぐ、左手の親指から激痛が走った。
慌てて見ると⋯⋯親指が捻れ、爪が内側を向いていた。
「い、痛い、な、なんだ?」
ごきん。
次に人差し指が、同じように捻れる。
「あああああっ! なんだ、なんだぁあああ! い、痛ぇ! 痛ぇよおおおおっ!」
ごきんごきんごきん。
指が順番に捻れていく。
「や、やめろ、やめろおっ!」
ごきんごきん。
手首から先が捻れ、肘から先、肩から先と捻れが身体へと登ってくる。
そこで左手の捻れは終わり、次は右手に移った。
「はぁはぁはぁはぁ」
呼吸するだけで痛みが走る。
右手の次は左足に。
絶えきれずバタンと地面に倒れ、アルベルトは天井を見上げた。
痛みで思考が定まらないが、これは恐らく──。
(死に、至る、呪い、まさか⋯⋯)
間違いない。
父だ。
恐らくここから立ち去ったのち、ヴァンの罪を布告したのだ。
それによって約定を強制的に発動させたのだろう。
つまり──実の子である自分の命より、ヴァンの救援を優先した──。
ゴキゴキゴキゴキゴキゴキゴキッ!
「ああああああああああああっ!」
それまで以上の激しい痛みが腰を襲う。
そして──。
ごきん。
天井を見上げていたハズが、音とともに──強制的に床の方を向いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「王はヴァン様の罪を布告したのち、すぐに撤回なさいました。牢内でアルベルト様の死亡を確認し、すぐに私を派遣しました」
そうか。
王は我が子の命より、国を選んだか。
⋯⋯とはいえ、だ。
「だとしても、だ。
皇帝陛下の指摘に、騎士はうなだれた。
「確かに⋯⋯考えが足りなかったようです」
「むしろアルベルト王子の死により、双方同意による破棄の道は失われた、という考え方もある」
誓約の破棄には、双方が顔を合わせる必要がある。
まあ俺は破棄しなくても大丈夫なんだが。
ただ──。
アルベルトやカミラに思うことはあれど、王都に暮らす人はやはり放置しておけない、という気持ちはある。
馴染みの酒場や、俺の武器を手入れしてくれた職人、贔屓にしていた道具屋。
世話になった人は多数存在するのだ。
何より、エミリアはどうしてる?
父親は獄中死、母親は魔王の手先⋯⋯。
今さら他人だとわかった俺が行って喜ぶとも思えないが⋯⋯。
やはりここは俺が行くべきなのでは?
「ヴァン、気持ちはわかるがしばし待て」
俺の心境を見抜いたように、皇帝陛下から声がかかる。
「まず、救援の軍を編成する。使者どの、帝国軍が貴国に立ち入る許可を頂きたい」
「それは、私の一存では⋯⋯」
そうだよな、古来他国の軍が国境を超える許可をした場合、それを利用され、征服されてしまうケースなんて枚挙にいとまがない。
難しい問題だ。
「それができないなら、この話は終わりだ」
「⋯⋯わかりました。外交官として私が責を負います、ご随意に」
「うむ、よくぞ申した。あと、死刑囚を利用し誓約書の効果を実験する。その為に使用する誓約書は、後日王国から補填して頂く」
「了解しました」
なるほど。
王国を利用して、普段なかなか使えない誓約書の効果を精査する、と。
この辺の政治的な判断は流石だな。
「軍の編成は急がせる⋯⋯それでも一週間はかかるだろう。その間に、様々な懸案はクリアしておく」
マリアベルの誕生パーティーも近い。
つまり、俺の出自を明かしてからの行動、という事か。
しかし、もどかしい。
かといって、国外追放されてから御世話になりっぱなしの皇帝陛下の面子も潰せない。
俺は──どうするべきなんだ?
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