第8話 フレンドしたい
わたしはコミュ症だ。自分でもそれを自覚している。
自覚しているからこそ、ソシャゲのフレンド機能さえ、利用するのをためらう。
適当な人を選んで、あとはいっさい交流せずに放置したっていいのだと分かっていても、それだけでちょっとしたゲーム内アイテムがもらえたりするのがわかっていてもだ。
だから、
「わたしのフレンドになってくれませんか!」
だからわたしは、それを利用することにした。
※
『もうっ、いきなり電話がかかってきたから、何かと思っちゃいました!』
「す、すみません……」
本当にそのとおりなので、わたしは謝るしかなかった。
もっとも、琴田さんの口調は穏やかで、怒っている様子は微塵も感じられなかったけれど。
なんでもいい、まずは話しかけるきっかけが欲しい。
そう思ったわたしは、琴田さんに電話をかけた。
電話をする口実としてわたしが用意したのは、琴田さんにシャイミュの、わたしと彼女が共通でプレイしているゲームのフレンドになってもらえないか、というものだった。
『ふふっ、いえいえ。フレンドですけど、もちろんいいですよ。あとでIDを送りますね』
「ありがとうございます……!」
『先生もシャイミュ、プレイされていたんですね』
「は、はい。一応……」
シャイミュとは、シャイニングスターズ Music!というゲームの略称で、ざっくり言ってしまうとシャイスタの音ゲーバージョンだ。
ここ最近になってサービスが開始されたスマホ向けゲームで、キャラクターが3Dで歌ったり踊ったりしてくれるうえ、こちらでしか見られないストーリーもある。
だからシャイスタを昔からプレイしていたわたしも、サービス開始時からずっとプレイしていたのだけど、フレンド機能はいっさい利用していなかった。
とはいえこのゲームは、フレンド機能を利用することによるメリットがバカにならないので、ずっともったいないなと思ってもいた。
……と、そんな感じの説明をして、琴田さんにフレンドになってもらえないか頼んだのだ。
依頼主(厳密にいえば依頼主は彼女ではないが)にわざわざ電話してまですることでは絶対にないが、琴田さんは嫌な顔ひとつせず(いや電話だから相手の表情は分からないんだけど)了承してくれた。やったぜ!
……まあ、これは話しかけるためのきっかけにすぎなくて、本当の目的は別にあるんだけど。
ただ、ここから先は完全にノープランだった。
……だって仕方ないじゃんか! いくら考えても何を聞けばいいのか、なんて切り出せばいいのかなんか分かんなかったんだから!
などと、何も言えずにもんもんとしていると、
『……ふふっ』
沈黙を破るように、琴田さんの笑い声がスマホ越しに、わたしの耳をくすぐった。
「? えと、琴田さん?」
『ああ、すみません。先生の方から電話をくださるなんて初めてだったから、びっくりしちゃって、つい』
「す、すみません本当に突然……。他にお願いできる人のあてもなかったので」
『いえいえ。むしろ頼っていただけて嬉しいです。先生にはわたしのワガママでご負担をかけてしまいましたし、少しでもお役に立てるのなら喜んで!』
「いえ負担だなんてそんな! ……あのっ!」
聞くなら今だと思って、いやなんでそう思ったのか分からないけどそう思って、わたしは切り出した。
……のは、いいのだけれど、
「琴田さんは…………」
なんて聞けばいいか分からないまま口を開いて、でもそんなだから、問いかけるべき言葉がいつまで経っても見つからない。
ご両親についての話題を振ってみる?いきなり?なんの脈絡もないのに?
結婚、とは言わずとも彼氏がいるかどうか聞くのは? いやこっちも同じだ。なんの脈絡もないうえに、いきなり聞くのはキモすぎる。
じゃあ、じゃあなんて聞けばいい?
「…………」
わたしが焦って何も言えずにいる間も、琴田さんは黙ってわたしの言葉を待ってくれている。
「琴田、さんは……」
黙ったままでいるわけにもいかなくて、わたしはとりあえず口を開いた。
「……ええと、シャイミュのプレイ配信って、またやってくれる予定とかありますか?」
ごめん! おれ! 逃げた!!!
しかも沈黙しまくった後に言ってしまったせいで、めちゃくちゃシャイミュ配信をして欲しい、配信内容に口を出す厄介ファンみたいになっちゃったじゃん! 終わり!終わりだよ!
『……あの、先生』
「はっ、はい!」
違う、違うんです! わたし普段はこんな……いえ、普段からこんな感じではあるんですが、こんなことを言いたかったわけじゃなくて!
……なんて、口には出せない言い訳を頭の中でこねくり回している間に、琴田さんは話の続きを口にした。
『もし、もしよかったらなんですが』
「は、はい……」
『今度、わたしの配信に、一緒に出てくれませんか?』
…………へ?
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