本編

第1話 なぜ谷間が俺の目の前にあるのか!

 瞼を開けると俺の目の前に深淵があった。比喩ではない。谷間だ。暗い場所だったがすぐに目が慣れて、その谷間をじっくり見ることができた。


 大きい。果てしなく大きい。


 おそらくそれはJカップ。金属の胸当ては申し訳ない程度しかなく、それを外せば、ぼろりとこぼれ、おっぱいの洪水を起こすに違いなかった。


「起動したか!」


 巨大なおっぱいの背後から声がした。


「ああ。成功だ! 今、指令を与える! 合図をしたらセットだ!」


「了解!」


「早くしてくれ! もたん!」


 背後の声は2つ。どうやら切羽詰まった事態にあるらしい。閉鎖空間であることだけは分かる。追われているくさい。


「おい、お前、今から急速チャージするからな! 頼むから耐えてくれよ!」


 そして巨大なおっぱいは俺の顔に迫り、たちまちのウチに俺の視界はおっぱいだけになり、直後、温かく、柔らかく、弾力のあるそれが俺の顔を覆った。それだけでは留まらず、押しつけられた。押しつけられても暴力的ではない。それには使命感と愛が溢れている。


 そして俺の語彙ではとても表現することができない力に満ちていた。


 おっぱいに覆われていたはずの俺の視界の中に何やらゲージが現れ、赤かったそれがオレンジ色になると、たちまちのウチに青くなった。フルチャージとはいえないが稼働可能だと何故か理解した。


〔1発分のチャージ完了がしました〕


 視界に文字が浮かび、俺は無意識のうちに復唱していた。


「よし、バスターだ!」


『ラーサー』


 どうやら俺自身とは違う制御系統がこの身体にはあるようだ。この身体? どういうことだかよく分からないが、俺自身の身体が瞬時に変形したのがわかった。視界に変形形態が表示される。


 長く伸びた砲身と防御盾からなるガンモードだ。要するに特撮ヒーローが巨大ロボットに乗る前に発射するあれの類いである。


「来い! セットだ!」


 巨大なおっぱいが防御壁の裏側に回り、乳を押しつける。俺にもその感覚が分かる。そして2つの声の主と思われるちっぱいと美乳も彼女の左右につき、おっぱいを俺に押しつけた。計6つのおっぱいに俺はもうたまらなくなり、リビドーが完全に満たされるのが分かる。


「すごいぞ! こいつ!」


「いいから早く!」


 正面の狭い通路いっぱいにファンタジーRPGで見るような巨大な人型生物の群れが迫っていた。暗い通路の奥に無数の後続も見える。


「トリガー! バスター!!!」


 巨大なおっぱいが叫ぶと俺の砲身から白い光が轟音とともに放たれ、目の前の巨大な人型生物の群れを一掃しただけでなく、その奥の通路まで一直線に貫き、人型生物もろとも崩壊させた。崩落したのは通路の天井と壁だ。しばらくは人型生物もここには来れまい。


 瞬時にして光は消え、俺は人型モードに戻った。ゲージはまた赤に戻っていた。


「本当だ。こいつ、すごい」


「女神の加護だな。この局面でこいつが動くとは」


「ありがと!」


 ちっぱいが俺の頬にキスをしてくれた。


『いやあ。俺、何をしたんでしょうか?』


「うわ、しゃべった」


「すごいなあ。さすが失われた女神の神殿の従神だ」


「一縷の望みが湧いたな」


 どうやら巨大、美乳、ちっぱいの3人は危機的状況を俺の力で脱したところらしい。


 ここがどこで、俺がどうなってしまったのか、そして何が起きているのか、これから少しくらいは聞けるのではないかと思う。


 そして俺は自分の頬をつねろうとしたが、とてもではないがつねることは出来なかった。生身の身体ではない。強固なフェイスガードだと分かる。


 うん。でも夢というわけでもないようだ。


 俺は巨大、美乳、ちっぱいの6つのおっぱいを眺めながら、どうしたものかと考えたのだった。

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