この現代奇譚を読んでいる間ずっと、かつて、誰の事も理解しようとしないくせに誰からも理解されたがった思春期の俺たちにとって教室内での唯一の居場所だった、そんな文庫本の匂いがしていたのは何故だろう。サナトリウムのように消毒された無機質さを纏う冷めた文体。掴みどころのない、底知れない主人公。現代奇譚を奇譚たらしめる「能力」概念とその機序。そのどれもがレガシー。俺は祝福する。この懐かしき手触りの「新しい物語」の幕開けを。