第37話 何故、ここに居るの?
その間、ずっと女性は背中を摩ってくれたり、頭を撫でてくれたりしていました。
落ち着いたところで、改めてお礼を言いました。
そして、何があったのかを聞かれ、全て話し終えた後、
改めて、感謝の言葉を述べました。
それに対して、彼女は微笑みながら、どういたしましてと言ってくれました。
その後も、しばらく二人で話をして過ごしました。
帰り際、名前を尋ねると彼女は神崎沙織、と名乗りました。
帰り道、私はずっと彼女のことを考えていました。
最初は、ただの親切心からの行動だと思っていたのですが、
どうやら、それだけではなかったようです。
あの日以来、頭の中から離れなくなり、気づけば、彼女を目で追ってしまうようになっていました。
その度に、胸が締め付けられるような気持ちになり、苦しくなるのです。
これは一体何なのか、いくら考えても答えは出ず、途方に暮れている状態です。
そんなある日、また、彼女と話す機会がありました。
そこで思い切って、自分の気持ちを伝えることにしました。
正直、断られても仕方ないと思っていましたが、
意外にも、あっさりと受け入れてもらえました。
むしろ、嬉しい、と言ってもらえた時は、天にも昇る気持ちでした。
こうして、私たちは付き合うことになりました。
付き合い始めてからは、毎日、幸せな日々を過ごすことができています。
ただ、一つだけ気になる点があります。
それは、彼女の態度が変わったことです。
以前は、明るく元気な印象だったのに、
最近はどこか物憂げというか、悩んでいるように見えることがあるのです。
「何か悩み事でもあるのですか?」
と聞いてみても、 なんでもないよ、と笑って誤魔化されてします。
心配になりつつも、それ以上追及することは出来ませんでした。
そんなある日、休日を利用してデートをすることになりました。
待ち合わせ場所に行くと、すでに待っていました。
声をかけようとした時、誰かと話していることに気づき、思わず隠れて様子を窺っていました。
どうやら、相手は男性のようで、親しげに会話している様子が見えます。
何を話しているかまでは聞き取れませんでしたが、
時折見せる笑顔を見る限り、かなり親しい間柄であることが窺えます。
やがて、二人はどこかへ行ってしまったため、
追いかけることも出来ず、モヤモヤしたまま帰路につきました。
翌日、会社へ行くと、何やら騒がしい雰囲気に包まれていました。
何事かと思って聞いてみると、なんと、あの男性が退職することになったとのことでした。
なんでも、海外へ転勤が決まったとか。
それを聞いた途端、ホッと胸を撫で下ろしました。
これでもう会うこともないだろうと安心しきっていたのですが、
まさか、あんな形で再会することになるとは思いもしませんでした。
その日を境に、なぜか頻繁に見かけるようになりました。
初めは、他人の空似だと思い込もうとしていたのですが、
どうしても気になり、こっそり調べてみると、やはり本人だとわかりました。
なぜ、ここにいるのか、どうやって入ったのか、疑問は尽きませんが、
まずは、直接会って話をするしかないでしょう。
そう思って、仕事終わりに待ち伏せすることにしました。
「こんばんは、お久しぶりですね。こんなところで何をしているんです?
ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ。
それに、この格好は何なんですか、まるで泥棒みたいじゃないですか、通報しますよ」
なるべく刺激しないように、穏やかな口調で話しかける。
しかし、返ってきた反応は全く逆のものでした。
いきなり飛びかかってきたかと思えば、首を絞められたのです。
咄嵯のことで対応できずにいると、そのまま壁に押し付けられてしまいました。
必死に抵抗しようと試みるものの、力が強く振り解くことができません。
徐々に意識が遠のいていき、ついに限界を迎えそうになったその時、
唐突に解放され、支えを失った体は、床の上に崩れ落ちました。
肩で息をしながら、相手を見上げると、冷たい眼差しを向けているのが見えました。
その表情を見た瞬間、背筋に悪寒が走るような感覚に襲われ、体が震え上がりました。
本能的に危険を察知したのか、逃げ出そうとしましたが、
足が竦んでしまい思うように動くことができません。
その間にも、じりじりと距離を詰められているため、焦りばかり募ります。
とうとう壁際にまで追い詰められてしまい、逃げ場を失いました。
絶体絶命の状況に陥った瞬間、不意に相手の手が伸びてきて、
顎を掴まれ、無理矢理視線を合わせられる形になりました。
至近距離にある整った顔を直視できず、目を逸らすと、耳元で囁かれました。
その声はとても冷たく、それでいて艶っぽい響きを持っていました。
その言葉を聞いた瞬間、全身が熱くなり、鼓動が激しく脈打ち始めました。
あまりの恥ずかしさに耐えられず、俯いていると、再び耳元に吐息がかかるほどの距離で囁かれました。
その瞬間、全身に甘い痺れが広がり、立っていることすらままならなくなってしまいました。
そんな様子を見かねたのか、腰に手を回され、抱きかかえられます。
いわゆるお姫様抱っこの状態ですが、抵抗する気力すら残っておらず、為すがままに運ばれて行きます。
辿り着いた先は、とあるホテルの一室でした。
部屋に入るなり、ベッドに放り投げられ、仰向けに転がされます。
起き上がろうとする間もなく覆い被さられ、唇を奪われました。
「んっ、ふぅ……ちゅぱ、れる、じゅぷ、ぴちゃ、んん、あむ、んんんッ!」
激しいディープキスを繰り返され、思考回路が完全にショートしてしまい、何も考えられません。
ただひたすら与えられる快感を受け入れるだけの存在となってしまいます。
ようやく解放された頃には、完全に脱力しており、もはや抵抗する気力など微塵も残されていません。
「キスの味はどうだった?」
「最高でした……」
素直に答えてしまう自分が情けないと思いつつも、それ以上に、もっとして欲しいという思いの方が勝っています。
そんな私の心情を見透かしたように、ニヤリと笑みを浮かべると、
さらに追い討ちをかけるかのように、耳元へ顔を寄せ、囁いてきます。
ゾクリとした感覚が背筋を走り抜け、身体が小さく跳ねてしまいます。
それを見逃さず、すかさず追撃を仕掛けてくるあたり、本当に性格が悪いと思います。
しかし、今の私にとっては、それすらも心地良いものとして受け入れられてしまっているのですから、救いようがないです。
その後は、ひたすら快感に溺れ続けるだけの時間を過ごしました。
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