第12話 大空に舞うデス畳【第一章完】
“ゴリラ”がデス畳に放った、衝撃波が発生するほどの超高ゴリラエネルギーが圧縮されたぶちかまし……
そのゴリラ・インパクトによって舞いあがった
しかし――そうしてようやく姿をあらわした黒い影は、あろうことか、
ご存じの読者も多かろうと信ずるが、ゴリラという動物は長方形ではない……。
つまり、激突のすえに生き残ったのがデス畳であろうことを、サークルのメンバーは見てとった。
「イヤァァァ!!」
“愛・ゴリラ博士”の
リビングから見ている“わけ知り顔”たちもまた、くやしそうにうつむき、くちびるを噛んだ。
「待て……見ろ!」
声をあげたのは、“カタブツ”である。
爆風で吹き飛んだことにより
思えば、これまではデス畳に挟まれることで即座に被害者の肉や血が飛散していたが、どうも、今回はその様子が見られない。
さらに
たしかに、たしかにシルエットとして浮かびあがっていたのはデス畳であった。
そして、「挟まれれば死」を意味するその二枚の畳のあいだには、まちがいなく“ゴリラ”がいる。
しかし、見よ。
ゴリラ・インパクトを正面から受けとめ、サメが鋭い歯を立てるように“ゴリラ”の
デス畳の面積では“ゴリラ”の巨体をまるごと挟めなかったのみならず、これまでのように獲物を瞬殺することがかなわなかったのである。
“ゴリラ”の心臓の鼓動は――まだやんでいない!
その熱き血潮は、まだ、力強く全身をかけめぐっている。
おのれをとりまく
そのうえ――徐々に、いぐさに挟まれた“ゴリラ”的立体が動きはじめたではないか。
一同はどよめく。
「あれは、ドラミング……デス畳に挟まれてなお、ドラミングをしようとしているのではありませんか!?」
「さすが“ゴリラ”だぜ! 勝利のドラミングってわけだな!?」
「バーニー、お願い、あなたなら勝てる!」
力をこめて、声援を送る面々。
デス畳が人間であったならば、あるいはこの“ゴリラ”のたくましきあらがいに、「敵ながらあっぱれ」と手心を加えることもあったやもしれぬ。
しかし、デス畳に人に
デス畳は、はあと
「……奥義、〈
あまりにかぼそい声量だったため、
つぶやくやいなや、一瞬でデス畳のからだが風船のごとくふくれあがる。
両側からのデス畳の圧が
「やめろ、デス畳……!」
たおれながら、血をぬぐいながら、“カタブツ”がかすむ視界でデス畳を制止しようとする。
が、やはりデス畳に、軟弱なる
バグンッ
無惨な音を立てて、“ゴリラ”はその血を肉をまき散らした。
まさにドラミングの最中の、勇ましき“ゴリラ”の姿を、飛散した血がえがき出す。
「ウウウワァァァァァ!!」
“びびり八段”が腰をぬかし、“愛・ゴリラ博士”の
“ゴリラ”は腰から下だけがのこっており、その断面から血を噴出させていた。
衝撃波の影響で、“愛・ゴリラ博士”はまともに立てぬのか、それでも彼のもとまでのたうつように這いずり、“ゴリラ”の太くたくましい足首へと腕をからませる。
「バーニーが、バーニーがいない世界なんて……」
そうつぶやくと、
バグンッ
“ゴリラ”の下半身ごと、デス畳にのみこまれた。
あまりにもあっけなく、ふたりはその命を散らした。
「“ゴリラ”が、あの“ゴリラ”まで
“びびり八段”はハラハラと涙をながした。
“わけ知り顔”も、もはやわけ知り顔を保っていることができず、メガネだけをクイッとあげる。
いつのまにやらこちらへもどってきていた“可憐”は、くちびるを噛んで、気絶してしまっている“お嬢さま”を見おろし、無言で立ちつくす。
「に……げろ……いまうごける人たちだけで……」
“カタブツ”が、声をしぼり出した。
それに対して、“わけ知り顔”が一度口をひらくが、おのれの無力を噛みしめるように押し黙った。
――そのときであった。
デス畳がギヌロンと周囲に視線をめぐらせ、またかすかにつぶやいたのである。
「……愚かな」
今度は、ほかの者にも聞こえる声量であった。
「おまえ、しゃべれるのか……?」
“カタブツ”の問う声に、しかしデス畳はなんの反応も示さない。
ため息のような音をもらすと、デス畳は和室のただなかで、突然二枚の畳をその場で何度も開閉しはじめた。
まるで、鳥が翼を羽ばたかせるのに似た動きである。
「まさか……っ!」
そう驚愕の声をあげたのは、だれだったか。
その「まさか」に付随したであろう推測そのままに、そう、デス畳はまさしく鳥のごとく浮きあがったのである。
バサッ、バサッ、という音を立て、和室の窓からもはや日の沈みかけている空へとデス畳は飛び去っていった。
「あいつ、飛べるのか……」
絶望の吐息をもらすと、“わけ知り顔”が
「謎がとけました」
とつぶやいた。
「実は、バスが、バスのエンジンがなにものかによって破壊されていたのです。巨大なワニに噛みちぎられたかのような跡があったことから、人間のしわざではないのでは、と
言葉を切り、わずかに目を伏せる。
「おそらく、もうこの別荘から生きて出ることは、できないでしょう……」
そうきいた“カタブツ”は、張りつめていた気もちの糸が切れたのか、ふっと意識を失った。
リビングにいるひとりひとりの肩へと、重い静寂がのしかかる。
だれかがあえぐように呼吸をした。
だれかが押し殺した声で泣いた。
だが、だれからも、なぐさめのことばはあがらない。
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