第十七話 帰還、今再びの王都

 王都行きの馬車の雰囲気は重々しかった。それもそのはずだ。面子が集落の為これから王に援助を得られるかの交渉に行く長老、その長老の緊張の面持ちに当てられ迂闊に話すことのできないメイリア。絶賛監禁中アッシュくん。これじゃ、そうなるわ。


 俺はというと軽く話は振ってみてはいるが、空返事しか返ってこない。そして俺もまた、沈黙族の仲間入りを果たすのだ。


 そんな重苦しい雰囲気の中、馬車はようやく王都に到着した。馬車も通れる南門から王都に入る事になるが、御者はエルフのロンさんだ。当然門兵に止められた。俺は荷台のメイリアと長老に一声かけて荷台から降りた。


「すみません、ジェームズさん。岡崎龍一です」


 南門に立っている彼は門兵のジェームズ。騎士団だけど門兵を任されている。人手不足なのかな。


「龍一!本当に生きてたのかよ!レクス様も騎士団も心配したんだぜ?まあ、龍二は気にしてなかった様だけどな」


まあ、龍二はそういう奴だろう。表情には出さないが心の中では流石に心配してると思う。……してるといいなぁ。


「この度は大変ご迷惑をお掛けしました」

「まあ死んでなかったなら良かったぜ。あ~と、それでな?……このエルフはお前の友人か?」


 ジェームズがロンさんを目で牽制しつつ尋ねてきた。王都に来るエルフは珍しいからか警戒の色が見て取れる。となると、王都の鍛冶屋でメイリアに会ったのは運命的な何かなのでは!?……っとそんな場合じゃないか。


「……はい。彼はロンさん。俺の友人です。それと馬車にエルフがもう二人います」

「エルフが三人か。買い出しって訳じゃ無さそうだよな」

「はい。乗っているのは王都近辺に存在する西のエルフの集落の長老とその護衛です。レクス様と王都近辺の森の魔物数増加や防衛について話がしたいと」

「了解。今若いのに伝令に行かせるからちょっと待っててくれ」

「はい」


 それから三十分も経たない内に王都の門は開かれた。思ったより早かったな。龍二が口利きとかしてくれたのかな?そんなくだらん疑問を持ちながらも馬車は進んで行き騎士団の厩舎まで到着した。ここからは徒歩だ。そしてアッシュくんとはサヨナラ。泣きながら騎士団に拘束され連れてかれました。まあ、しょうがないね。


「視線が気になるわね……」


 横にいたメイリアがぼそっと呟く。彼女にとってフードを外した姿で人前に出るのは初めてなのだろう。俺と鍛冶屋のおっちゃんクロードを除いて。騎士団の皆に悪意はないだろうが、自分に奇異の視線が集中するのは少し不快だ、と思っても不思議ではない。


「エミリアよ。堂々としてなさい。私たちは西の集落を代表して来ているのですよ」

「はい!すみません!長老!」


 そこんとこ長老は冷静だ。伊達にエルフ歴を積み重ねてないな。堂々とした様子で歩いている。流石だぁ。


 案内人の騎士団員オルガンを先頭に、俺たちは王城内部までたどり着いた。いやぁ、数日ぶりだけどなんか懐かしく感じるなぁ……。あとなんか落ち着くわ。すれ違う騎士団員や使用人も声を掛けてくれるし。


 ……使用人といえば、イレーナさんを見かけないな。帰ってきたって知らないのかな。それとももう面倒見きれないとかで御付きを辞めたとか。正直そんくらいされても何も言えない程のバカをやらかしたからな……。はぁ、我ながらどうしてこんなさぁ……。


「龍一!!すっごい豪華ね!!」


 隣ではメイリアが内装の絢爛さに目を輝かせている。なんかもう護衛というより癒やしだな。見てるだけでほっこりする。


 しばらく歩いて謁見の間の前まで辿り着き、そこで案内役のオルガンが足を止め、俺達に振り返る。


「皆様、此処より先は謁見の間となりますので、私は入る事が出来ません。案内役はここまでとさせていただきます。勿論の事、話はレクス様にお伝えしたとのことですのでご安心ください」

「はい。お忙しい中私達の為にありがとうございます」

「いえ、仕事ですので、お気になさらず。……では失礼します」


 そう言ってオルガンは去っていった。


「さて、長老。心の準備は良いですね。メイリアもあまり失礼の無いように」

「ええ、行きましょう」

「分かってるわ。私は唯の護衛。口出しなんかしないわ」

「そうか。なら行きますか……!」


 二人には問うたくせに自分は「今から怒られるのかぁ……」と、内心ビビりながらも謁見の間の扉に手をかけた。そして、謁見の間の扉が開いた。


 謁見の間には王様、宰相、騎士団長、魔道士長、それと龍二の姿があった。自然と龍二と視線が合った。


「……」

「……」


 玉座前まで歩いていく俺、メイリア、長老。それに対して龍二は俺に向かって真っ直ぐ歩いてきていた。その目付きはあえて語るべくもない。あちゃー、これめっちゃキレてるわ。


 そして玉座前に着く前に俺と龍二は邂逅した。俺は笑顔で話しかける。あえて普段通りにだ。


「……よぉりゅ―――」


 その瞬間、龍二の拳が俺の顔面に突き刺さった。

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