第十六話 王都へGO

 長老はそう言って頭を下げてくる。


「そうですか。随分早く決心しましたね。何かそうさせるものが有ったんですか?」

「実は昨日、龍一様が就寝なさった後、集落の者達を集めて、話し合いました。そこでメイリアから貴方の話を聞いたのです」

「そうだったんですか。それで話し合いでは何と?」

「これは良くないのですが、皆口裏を合わせたように長老に任せると」


 良くないって長老的にはもっと自分で考えて欲しいってことかな。今の調子じゃ長老が亡くなったら集落を纏める人材がいなくて集落の崩壊に繋がりかねない。


「とりあえず分かりました。出発時間は長老の準備が出来次第、出発します。メンバーは俺と長老。不安だでしたらあともう一人か二人くらいエルフを連れて行くのは大丈夫だと思います」


 あんまり大勢で押し掛けても向こうも警戒するだろうしな。


「分かりました。ご配慮感謝します」

「いえいえ、無理矢理誘ったのはこちらですから。あ、一つ確認して置きたいことがあります」

「何でしょうか?」

「集落の中に馬に乗れるエルフはいますか?」

「ええ、確かロンが昔馬車を引いてたとか」


 とりあえず御者はいると。ならアッシュを使わずに済みそうだ。


「それは良かった。ならもう1つ。アッシュ……捕らえた人間はまだ生きてますよね」

「ええ、牢の中にいますよ」

「連れて行くので行く前に牢から出しといてください」

「分かりました」

「これくらいですかね。では俺はこれで失礼します。家に戻ってますので準備が出来たら家に来てください。別に明日でも明後日でも構いませんので、お願いします」


 長老の家から出るとメイリアとキキ、ララ、ルル、の子供三人衆、その親の三人が待っていた。子供三人衆が何話してたの?と聞いてくる。この集落にとって大事な話だ、と言い聞かせた。じゃああれは?と聞かれた際には転んだだけだよ、と言って切り抜けた。その話に納得したのか、キキ、ララ、ルルがそれぞれの母の元へ戻っていくなか、俺はメイリアに向き直った。


「メイリア……あれはだな……」


転んだだけだよ、じゃあ納得してくれないだろうな。


「別になんとも思ってないわよ。あの時は龍一の奇行に引いてたけど。だけどよく考えたら龍一の奇行なんていつものことだなっと思ってね」

「うーん……嫌われていなかったのは嬉しいけど、手放しで喜べないな。複雑な気分だ」

「あんな程度で嫌いになるわけ無いでしょ。まあ奇行は止めて欲しいけどね」

「気を付けてはいるんだけどなあ……テンション上がるとオーバーリアクションになっちゃうんだよな……」

「テンション上げるな。これで完璧よ。……あれ?長老が呼んでるわ」


 メイリアは長老の家の前で話していたから真っ先に呼ばれた。長老の家を見ると長老がドアの前でメイリアに手招きしている。これは長老が集落のエルフ達を集めているのだろう。王都に行くことと側近のエルフについて話し合うのだと思う。


 俺はその間、借りてる家に帰り自分の手持ちの整理をしようとしていた。袋に詰められた金貨十枚程度に銀貨と銅貨がそれなりに。後はナイフ、腕輪の魔道具、弓の魔道具、矢筒の魔道具。こんなもんか?拐われたからだけど、荷物が少ないな。整理は速攻で終わった。

今外に出ても誰もいないし……こうなったら究極の時間潰し、寝るしかない。


 しばらく仮眠を取っていると家のドアが開いた。すぐさま起き上がり眠っていた脳をたたき起こす。学習する男、岡崎龍一。同じミスは二度とせん!……はずだ。……と思います……。ドアを開けたのは長老だった。


「大変お待たせしました。話し合いの大まかな内容を説明しますと、私は王都に行くことを伝えました。皆、長老に任せると話していたので反対意見は出ませんでした。しかし昨夜と違った展開もありました。龍一様を信じているから私は王都にいくのは賛成だ。という人任せではない本人の意見も出始めたのです」

「それは良いですね。昨日はそれを憂いてらしたようでしたし。俺の事を信じるって言ってくれるのはちょっと恥ずかしいですけど」

「はっはっ。そうですか。警戒心の高いエルフ達も龍一様には少しは心を開いてるようですね」

「だと嬉しいんですが……。同行するエルフの話はどうなりました?」

「王都にはメイリアとロンの2人ほど連れて行こうかと思います」


 ロンって人は確か馬車を運転できる御者経験のある人だよな。メイリアはまあ、そんな気はしてた。マルスが来ないのは意外だな。


「外に大体の準備はしてあります。どうぞ外へ」


 長老に促されたので慌てて腕輪を着け、弓を背負い、矢筒を背中に引っかけて、軽い荷物入れを懐にしまい込み、外に出る。


 そして長老の後をついて、集落の唯一の出入口へ歩いた。出入口には集落の殆どのエルフが集まっていた。エルフ達が囲う真ん中にはアッシュが入っている檻を乗せた馬車、その側にメイリアが立っていた。


「メイリア。お前も来るんだって?」

「一応道覚えてるのは私だし、それに……」

「それに何だよ。居なくなると寂しいから来たのか」

「そ、そうよ!!私が居ないと龍一が寂しがるから!!」


 俺はちょっとからかうつもりで言ったんだが、何故かカウンターで俺が寂しがってるって言ってきたぞ……しかも何か顔赤いし。まあ確かに友達に会えないのは寂しいか。それにここでちげーし!!そっちが寂しいんだろ!!と言い争っても意味がない。


「そうだな。メイリアに会えないと寂しいかもな」

「でしょ!!だからついて行ってあげるの!!」


 メイリアさんや、隠してるつもりかもしれないけど口元笑ってんの隠せてないわよ。しかしメイリアも友達と少しの間別れるのが寂しいって変わってんな。人のこと言えねーか。


「イチャイチャしてるとこ悪いが俺も話していいか?」

「もしかして、ロンさんですか?」

「ロンでいい。御者をすることになった。よろしくな。龍一」

「はい。よろしくお願いします」


 ロンと軽く自己紹介をしていたら長老がゴホンッと1つ咳払いをして注目を集める。


「私達はこれより王都へ出発する!必ずいい知らせを持ってくると約束しよう!!私がいない間、集落の防衛は任せたぞ。ドイル、ランド、ウォル、サザ、そしてマルスよ」


 櫓で戦っていた老齢のエルフ達の真ん中に剣を地面に刺し柄に手を置くマルスがいた。すぐさまマルスの元へ歩く。


「マルスが行かないのは意外だったよ」

「俺まで行っちまったら誰がこの集落を守るんだよ」

「……確かにそうだな。用が終わったらまた来るわ」


 俺は手を差し出す。マルスは間髪いれずに手を握った。


「ああ、お前もメイリアをちゃんと守れよ」

「任せろ」


 マルスから振り向いて再び馬車の側へ。


「龍一様。もうよろしいですか」

「はい。お待たせしました」

「それでは、参りましょうか。ロン!!馬車を出せ!」


 動き始める馬車。それに手を降る集落のエルフ達。ここにいた時間は短かったけど、色々な事を経験した。それは一生忘れ無いだろう。


「また来るよ」


 集落から離れていく馬車の中でぽつりと呟いた言葉。それは馬車の音にかき消されて虚空に消えていった。

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