第三話 測定そして真実

 転移直後の王への謁見も終え、それから数刻して俺達は今、城の廊下を歩いている。先頭を歩くのは白ローブの奴らの中に一人だけいた女、というか少女だ。年齢は見たところ龍二と同じかそのちょい下くらいだ。


 とか言っても元の世界でも女と関わりなんてないし見たって年齢なんか分からん。適当に言ってるだけだ。名前は何て言ったか、そうだクレアだ。クレアなんとか。


「あの、今どこに向かってるんですか?」

「龍二様と龍一様の魔法適正を測るための場所へ向かっています。やはり訓練をする上でどの魔法を鍛えればいいのか分かった方が良いという話になりまして」

「クレアさん。様はやめてくれませんか。俺はそんな大層な人間じゃない。勿論こいつも」

「龍二様、いえ龍二さんがそう仰るならその様にします。それなら私からも一つよろしいですか?」

「何か?」

「龍二さんも敬語をやめて下さい。私はまだ16ですし、それこそ、そんな大層な人間じゃありませんから」

「……分かった。俺の負けだクレア。これでいいか?」

「はいっ」


 なーんて会話を後ろから聞く俺。会話に入るタイミングも見つからなかったので聞き手に徹しながら一つ確かめたかったことを試す。少し足を止め小声で呟く。


「ステータス」


 反応は、ない。なるほどなるほど、そういう世界ではないと。ステータスが見れれば自分の能力が確認出来るし、もしかしたら隠された能力とかそういうのも発見出来たかもしれないのに。まあ、無い物ねだりしても仕方ない。何かしらの能力があることに賭けよう。


「こちらです」


 クレアが俺達を連れて来たのは、大きな丸い水晶のある部屋だった。占い師が使ってそうなやつを巨大にした感じだ。


「この水晶に手を触れて下さい。そのときの光で適正を判断できます」

「じゃあ、俺から」


 龍二が水晶に手を伸ばす。


「待て待て、まず俺からだ」

「何でだよ?」

「その方が絶対にいいからだ」


 龍二とクレアの頭には?が浮かんでいるだろうが、俺からの方がいい。大体予想はついている。おそらく俺が触れても反応はない。龍二の後にやっても虚しくなるだけだ。それに水晶が割れて俺は測れない何てことにもなりかねない。俺は龍二を横にどかし水晶に触れた。


「……」


 やはり、反応はなかった。予想はしていたが、心の中で1%ぐらいは何かしらの適正があるんじゃないかと期待もしていた。しかし水晶は全くの無変化だ。


「よし、次だ」

「龍一、お前……」

「ほら、お前の番だぞ」


 俺に急かされた龍二が水晶に触れる。その直後眩しく光始める水晶。


「クレア。これは何の適正?」


 龍二が近くにいたクレアに尋ねる。俺の予想は光属性だ。勇者っぽいしな。


「これは……全属性に適正が……!?」

「それって凄いのか?」

「普通の魔法使いで1属性。才能がある魔法使いでも2属性がやっとですよ!」

「そうなのか……」


 再度何かを考えこむ龍二。後で聞いてみるか。しかし全属性とは、これが勇者の素質って奴か?しかし水晶は割れなかった。割れた方がよかった。ネタ的な意味じゃない。割れるってことはそれだけ強力ってことだ。勇者として戦う以上能力が強力であればあるほどいいはずだ。それこそチートレベルなら安心もできるが、それほどの力は無いらしい。それは少し気掛かりだな。


「すみません!私はレクス様に報告してきます!お二人は部屋でお休みになってください!」


 そう言い残すとクレアは部屋を飛び出していった。いや部屋の場所知らんけど……


 通りすがった侍女に部屋の場所を教えてもらい何とか部屋までたどり着いた俺達はそこで別れ、それから少しの時間が経った。元の世界ではもう十時過ぎだ。ベッドで横になり夢の世界へ行きかけていた俺を部屋をノックする音が呼び覚ます。


「どうぞー」

「俺だ。少し話がしたい」


 入って来たのは龍二だった。話ね。ゆっくり話す時間はなかったもんな。俺も話したいことはあるしちょうどいい。


「で、話って何だよ」

「どこから話せばいいか分からないが……俺は神に会っている。この表現が正しいかは分からないが、龍一もだ」

「へー……は?」


 何を言ってるんだコイツ。神なんて会ったことねーよ。しかし龍二の目は真剣そのものだ。取り敢えず続きを聞こう。


「あっちの世界で意識を失った俺が次に目を覚ましたのは真っ白い空間だった。そこで神と名乗る男の老人に出会った。その老人が言うにはそのまま転移してもすぐ死ぬだけだらしい。そこで老人は俺に能力を与えた」

「それが全魔法適正か」

「ああ、それに身体能力もだ。この世界に来た時から変化は感じていた」

「起きたときや魔法測定の時考えていたのはそれか?」

「老人は俺に何を与えたのか教えなかったからな。だから確信が持てなかった」

「お前については分かった。それで俺も会っていたというのは?」


 龍二が神に力をもらったのは分かった。度々考えこんでいた理由も。けど今の話にも俺は出てきていない。


「その老人と話している時、気を失った龍一がスーッと通って行った」

「……」

「俺がいた空間はきっと魔法陣を繋ぐ通り道だったんだろうな」

「……」

「通り過ぎる龍一を見た老人は慌てて何かを唱えていた」

「……」

「そして老人はこう呟いた。間に合っていたらよいのじゃが、と。それにこうも言っていたな。巻き込んですまん。と」

「…………」

「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 じゃあ何だ、転移に巻き込まれたのもそいつのせいで、そいつのミスのせいで俺は無能力でこっちの世界に来たってのか!神は神でも邪神じゃねーか!絶対許さねぇぞ!!!クソジジイがァァァ!!!!!


「お、俺はちゃんと怒ったぞ?間に合った無かったらどうすんだって。でも老……アイツはもう無理だって開き直って……あ!希望はまだある!兄さん一つ聞いてくれ!」


 龍二は完全にビビッていた。だって兄さんとか聞いたことないぞ。普段キレない俺がキレて驚いているんだろう。普段、物静かで怒らない奴がキレたらヤバいという話は聴くが、今の俺は正にそれだった。クソジジイのふざけた対応にぶちギレている。覚えてろよクソジジイ!魔王倒したら次の目標はお前、神殺しじゃあああああああ!!!!!


 数分後。

 

「希望?」


 取り敢えずクソジジイへの怒りは胸に止めて龍二の話を聞くことにした。


「だって、言葉が通じてるのがおかしいだろ?」

「言葉?」

「兄さんに神の力が与えられて無かったら兄さんだけ言葉が通じないってことにならないか!?」

「確かに……!」


 その可能性は確かにある。ただ一つ懸念点が有るとすればただ巻き込まれただけでも言葉が通じるパターンだが、それも魔法陣や召喚というシステムに言語理解を組み込んでいるのだろう。この世界の魔法陣はあのジジイも関与しているものだ。それは無いだろう。転移先が日本語だったっていうパターンも考えられるが、この世界の文字は見たこともない。


「だとしたら、俺には何か能力があるってことか?」

「その可能性は高いと思う!」


 なるほど!じゃあ俺はその能力が何か探せばいいのか!……じゃねーよ!!龍二の時もそうだが何で教えないんだよ!クソジジイ!!!


「龍二、俺は決めたぞ」

「決めたって?」

「このままお前といても俺はお前に守られるだけ。そんなのは御免だ」

「兄さん……」

「兄さんはやめろ。いつも通りでいい」

「分かった、龍一」

「これからは別行動にしよう。お前は城で訓練、俺は自分でも何か出来ることがないかを探す」

「龍一がいうなら俺は構わないが、また会えるんだよな?」

「話が飛びすぎだ。俺はまだ城を出るつもりはねーよ」

「そうか」

「真面目な話、俺が音信不通になったとしてもお前は自分のやるべきことをやれ」

「やるべきこと……訓練、ひいてはその先にある魔王軍との戦い」

「分かってんじゃねーか。お前の話は終わりか?」

「ああ、龍一の方は?」

「俺の話はお前の話の中ですでに解決したよ」

「なら俺は部屋に戻るよ」

「ああ、そうか」


 龍二は部屋に戻っていった。自分にもできることを探す。それが今の俺のやるべきこと……ではない。今俺が真にやるべきことは、自衛手段の確保だ。今の俺は弱い。魔物に襲われたら終わりだ。だから俺は自分を守れる術を覚えねばならない。それが今後しばらくの課題だ。

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