恋愛カレンダー

「ああカナヤくん、最高!」

 私はうっとりしながら彼の画像に見とれる。


 真っ暗な部屋の天井をスマホの明かりがぼうっと照らしていた。

 寝る前の日課である目の保養を終えて、私は布団をかぶる。


 彼と会ってから、はや一年が経とうとしていた。

 明日は告白の日だ。


 ちゃんとできるかな。

 カナヤくんはなんて答えてくれるかな。


 そんなことを思いながら眠りについた。




「ああカナヤくん! 眼福! 眼福!」

 寝覚めの挨拶


 これも日課。


 身支度を整えながら「恋愛カレンダー」を一つめくる。


 今日は告白の日だ。

 昨日はカナヤくんが初めて友達と一緒にカラオケに言った日で……。


 延々と過去にまでさかのぼってしまう。

 私は途中で区切りをつけて、家を出る。


 通勤電車の中では、また「恋愛カレンダー」をたどってしまった。

 先週はカナヤくんが塾に通い出した記念日で、その前は……。


 私は恋をすると相手のことを徹底的に調べる。

 SNSで相手の情報を調べて、カレンダーを埋め尽くす。


 それが私の恋愛だった。




「はあ、ただいま」

 誰もいない真っ暗な部屋に向かって、声を出す。


 冷蔵庫から、冷たいチョコレートの箱を出す。


 一人でそれを食べ始める。

 今日はバレンタインデー。


 告白の日。


 私は泣きながら、チョコレートを食べる。

 告白なんてできるわけない。


 いつの間にかチョコレートは全てなくなっていた。


 机に突っ伏して、思いっきり泣く。




「はあ、すっきりした!」

 声に出して気持ちを切り替える。


 すぐにスマホをいじる。


 カナヤくんとは今日でお別れ。

 次のアイドルを探して検索をかける。


 私は恋多き女だ。

 たいていは一年で熱が冷めてしまう。


 でも、世にアイドルの数は五万といる。

 相手には困らない。


 正直、たまにむなしくなるけど、こうでもしてないと、やってられない!


 こうして、また誰かを推して「恋愛カレンダー」を埋めていく作業が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

砂の霊に恋をする 月井 忠 @TKTDS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ