track3♡The night is still young
「麺固め、味濃いめ、油少なめで」
「それ二つで」
残業終わりに彩子先輩と飲みに行けたりなんかして、と少しだけ期待していた俺は一人で帰るには喋り足りなく、仕事が終わっているはずの親友を召喚した。暇している大和は引くほどレスポンスが早い。大和と俺のアパートは路線が同じだから行き来しやすく、外食なら中間の駅前で落ち合えばお互い楽だ。結局、気心知れた友達と食べる安ラーメンが一番うまかったりする。
定時で上がった大和はスナック菓子をつまみながらゲームをして過ごしていたそうだ。風呂上がりでノーセットの髪が目に影を落としている。だらしないくらいだぼだぼのパーカーは逆に色っぽい。
提供を待つ間、心ここにあらず、手持ち無沙汰でスマホをいじっていた。
「海児、元気ない?」
「よくぞ聞いてくれた。彩子先輩がさ、上司のこと好きっぽいんだよね」
「職場じゃ遊ばないんじゃなかったの?」
「いやあそうなんだけどさ」
会話を割るようにラーメンが到着した。
大和と同時に箸を持ち、レンゲを構えどんぶりに向き合った。ここからは戦いだ。熱ければ熱いほどうまいのだ。ラーメンを前にして、お喋りなんかしている暇は一秒だってない。
「大和、お酢取って」
「フーッフーッ……あちー」
スープまで飲み干す。終演。冷水機の水が死ぬほど美味しい。カウンターしかないラーメン屋だ。入口付近で食券を持ち待っている客がいる。大和と目を見合わせ、無言でうなずき合った。胃の中で麺が踊っているが、食後だらだらとするような店ではない。
「「ごちそうさまでした」」
「あざーっす! またどうぞ!」
吹き抜ける夜風が気持ち良い。街灯に導かれるまま、繁華街を歩いた。
「うまかったな」
「安定だね」
彩子先輩を山田さんに取られた寂しさはスープで流し込んだ。気に入られたいだけで本気でもないのに、いじけるのはよそう。
帰ってもゲームするだけだという海斗を誘ってカラオケに来た。
「――愛したわけじゃないーただーあなたの笑顔がー素敵すぎてーええー……」
「おい、泣くなよ」
「泣いてねえよ!!!」
間奏の途中、思わずマイクに叫んでしまい、キンと鳴る。俺の不幸が面白い大和がマラカスを振り回して大笑いする。
あっという間にお時間になり、ぐっと深まった夜に放り出された。失恋した夜は終電を逃したい。大和が「わかってるよ」と言わんばかりににやりとした。こんな夜に行くところといえば、ひとつしかない。ああ、なによりも、大和みたいな親友がいて良かった。
コンビニで水を買い、ちびちび飲みながらゆっくりと歩いた。これからどんな楽しみが待っていようとも、あわてて動くには夜は長すぎる。
「あーあ、結局接待の店は見つけらなかったし、可愛いセンパイも逃したわ」
大和とは、無言でいても気まずくない。手持ち無沙汰の独り言だった。
「海児さ」
さっきから黙ったままスマホをつついていた大和が、ふいに立ち止まり俺を見た。
「海児、全然気にしてないだろ。どっちの事も。っていうか、何もかも」
「うるせえな」
俺はいつもそう。仕事はそこそこ、女のケツばかり追っかけてひとりでバタバタしてる。そんな自分が嫌いじゃない。ま、そのうちいつか、きっと痛い目に合うだろう。ははっ。
地下へ続く階段が口を開けて待っている。
深呼吸。胸の高鳴りを抑える。悩みなんて忘れて遊ぼう。遊び人の俺は傷付かない。今は仕事のことなんて忘れて踊ろう。
だってここは――
――「ようこそ!!!」
▶bonus track♡All You Want For ChrisAll You Want For Christmas Is Her by club L
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to be continue♡(?)
GRAY 水野いつき @projectamy
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