ネコミミ魔法使いはエリンギを食べないし、絶対に負けない

シンシア

第1話 ネコミミ魔法使いの身支度

「うーん。似合っていますかね」


 エリンジュームは鏡の前で色んなポーズを取っては首を捻っている。


 病弱そうな白い肌に青色の髪。


頭の上で大きな獣の耳がぴょこぴょこと動いている。


長い青髪は両側で三つ編みにして肩に下げている。


 どことなく幼さを感じるが、それとなく妖艶な雰囲気も持っている。


年齢不詳な見た目である。





 三つ編みを摘まんでは離したり、ローブの端を持ちながらくるりと回ってみたり。


にこやかな笑顔を作ってみたり、前髪をいじったり。


彼女なりのチェックの項目があるらしく、念入りに確認している。



 ワイシャツに青色のネクタイ。


黒色の長いローブを着ている自分の姿を何度も鏡に映す。


頭の上の耳を確認して、エリンはあることに気がつく。帽子を忘れていた。



 机の上には黒色で丸く大きなつばがついているトンガリ帽子。


魔法使いといえばこの帽子である。右手で前側のツバを掴んで首を傾げてみる。


耳を隠すと同時に、魔法使いらしさも生まれてくる最重要アイテムである。



 彼女は今日から魔法都市ディルクナードで魔法学校の教師として働くのだ。



初めて生徒の前に顔を出すので、最初くらいは魔法使いらしい格好をしようと彼女が頭を悩ませた末に選んだ服装であった。



 エリンはどこからか現れた青髪の青年に後ろから声を掛けられた。



彼の名前はルガティ。



「主そろそろ出発しなくていいのか?」



 彼は訳があってエリンの眷属をやっている。


彼の頭の色はエリンの髪色とよく似ているのだが、これはエリンから発せられる魔力の影響である。


眷属である彼はその影響を色濃く受けている為、髪色が変わってしまったのだ。



「ルガー! 良いところへ来てくれましたね。この格好がおかしくは無いか見て欲しいのですが……」



 ルガティは顎に手を当てながら、エリンの頭の上から爪先までをゆっくりと見る。



「あのー、そんなにジロジロとは見ないで欲しいのです」



 エリンは自分の両腕で体を隠すように抱きしめた。



「おかしいところを探せと言ったのは、主の方ではありませんか。そういう目では見ていませんよ」



 ルガティはやれやれというように首を振る。



「それでどうなのですか。おかしくはありませんか」


「はい。よくお似合いですよ」



 青年はわざとらしく、ほがらかに笑って見せた。


口から覗かせる鋭い犬歯はキラリと輝く。



「──やっぱり、服を変えます」



 その笑顔に気持ち悪さを覚えたエリンは慌ててクローゼットの扉を開けに行った。


 ルガティはそれを急いで止めに行く。


クローゼットを開けようとするエリンの後ろから羽交い絞めにする形でルガティは彼女のことを抑える。



「やめてください! 私が本気を出せばあなたを突き飛ばすことなど造作もないのですから。それに、先程の気持ちの悪い笑顔がすべてを物語っているではありませんか」



「これは生まれつきですよ! なんでオレはこんな朝っぱらから酷い扱いなんですか! 早く行かないと遅刻ですよ。服を気にしている魔法使いなど、どこにもおりませんよ」


「都会の魔法使いがそうだとは限らないではありませんか!」




 西の森と称される場所の奥深くに建てられているログハウス。


 そこから今日もにぎやかな声が聞こえるのであった。

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