第58話 走矢VS千両寺冬也

「宝槍の三、風槍連弾ふうそうれんだん!」


「食い殺せ! 我が分身たちよ!」


 誰の手も届かない自由な大空で互いに距離を取った二人は、各々の攻撃を放ち中央で、激しい攻防が始まる。


 風を纏わせた副翼を広げて無数の風の槍を展開し、冬也へ向けて一斉照射。


 対する冬也は、自分の体毛から小型のオスカーイルを出し、迫りくる風の槍に突撃させる。


「むっ!」


「これでは……」


 走矢の風槍連弾と冬也の小型オスカーイル力が拮抗しているせいで、それぞれ中央で食い合ってしまい、相手に届くことはなかった。


 このままでは互いに力を消耗させるだけで意味がない。


「それならば!」


 右手を握り締める光の力が集まり眩しく光る。それを大きく後方へ引き、そのまま光る右拳を振り抜く。


「ナックルシュート!」


 振り抜いた瞬間、光弾となって真っ直ぐ冬也へ飛んでいく。


「うおっ! あ、危なかった」


「チィ、あれを避けるか」


 一撃与えるつもりで光の速さを持つナックルショットを選んだのだが、まさか絶叫をあげながらギリギリのところで回避されるとは思わなかった。悔しさのあまり反射的に舌打ちをしてしまったが、どうやら冬也の展開した『ソウルウォール』のせいでスピードを殺されたことが原因のようだ。その『ソウルウォール』は、ナックルシュートの威力に耐えられず綺麗に砕け散ったところを見ると、ナックルシュートは有効なようだ。


「よし! 決まりだな」


 風槍連弾を維持しつつ、光の精霊ラディの力を両手に宿した走矢は、自身を見上げる冬也に向けて、両手を振り抜いて連続で攻撃を放つ。


「っ‼」


 冬也も小型のオスカーイルを維持しながらも、大きな翼を羽ばたかせて、空中を舞って飛来するナックルシュートを縦横無尽の動きで次々と回避していく。その代償として『ソウルウォール』を何度も破壊されながら――。


「ああ、もう、やってやるよ!」


 何かを決めたようで、逃げ回っていた冬也は突如、進路をこちらへ向けて迫ってくる。


「これは……」


 風槍連弾とナックルシュートで追い払おうと試みるが、風槍連弾は小型オスカーイルに相殺され、ナックルシュートには、全開の『ソウルウォール』でスピードを落とした後に、当たりそうな場所を見極めて紙一重で避けくる。


 これでは距離を詰められるのも時間の問題だ。


「これでも喰らえ!」


 よく観察してみれば、迫る左翼には目に見えるほど強力で大量の電気が溜められているのが分かる。


 あれは危ない。


「悪いが当たってはやれないな」


「いいや、当たってもらうぞ!」


 その瞬間、冬也が突然加速する。


「なっ⁉」


 その速さは尋常じゃなく、まるで雷が地上へ落ちた時みたいだ。

 

 まさにだ。


 必殺の間合いと、逃れられない最高の一撃が走矢へ迫る――が、


「もらった!」


「甘いわ!」


 その瞬間、走矢が冬也の視界から消える。


「なっ、消えた!」


 走矢を見失いパニック状態の冬也の真下に当の本人は出現。そのまま並行しながら無防備な腹部へ触れてからのナックルシュートを打ち込む。


「ぐうう⁉」


 頼みの『ソウルウォール』の内部からではまったく意味をなさず、ナックルシュートを受けた冬也は回転しながら地上へ降下していくが、翼を大きく羽ばたかせてバランスを取り、製鉄所の屋根をスレスレで滑空して、再び大空へ舞った。


 しかし、その隙を走矢が見逃すはずもない。

『宝槍の三、風槍連弾。さらにシャイニングレイン、そしてメガバスターのおまけつきだ!』


 副翼からは風の槍が飛び、広げた主翼からは光の光弾が雨のように降り注ぎ、両手の指先からはビームが発射。


 おびただしい数の攻撃が態勢を立て直した冬也へ襲い掛かった。


「くうう」


 苦悶の声を出しながらも力強く羽ばたいていく冬也。風は防げても光の攻撃であるシャイニングレインとメガバスターを防ぐ手段はないようで、『ソウルウォール』が次々と穴だらけになって砕けていく様は、弱い者いじめをしている気分にもなるが、これは殺し合いなので、攻撃の手を緩めることはしない。


「これでチェックメイトかな?」


 もう終わりだ、という意味を込めて少し煽ってみたら、まだまだ心は折れてなかったみたいだ。


「舐めるな!」


 その声と共に雷の軌跡だけを残して、今度は冬也が走矢の前から忽然と消える。


「なっ……どこへ行った」


(ご主人様、上です!)


 ラディに言われ見上げれば、冬也が急降下しながら口に電撃を溜めているところだった。


「この位置取り! あの野郎、地上にいる奴ら関係なしかよ!」


 どれだけの威力があるか分からないが、少なくても走矢にダメージを与えられるぐらいあると予想するならば、地上の製鉄所が吹き飛ぶ可能性も否定できない。そうなったら、製鉄所にいる仲間の命が危ぶまれる。


 つまりこの攻撃は、走矢が避けないようにするための策略か。


 走矢は悔しそうに唇を嚙みしめたまま、放たれる攻撃を受け止める体制を取る。


「ライトニングブレ――⁉」


 今まさに冬也が攻撃を撃とうとしたタイミングで、真下から何かが壊れる音と共に巨大な生物が飛んでくる。


「シャチのショーかよ!」


 水族館の映像でよくシャチが高く空に舞い上がって水面に落ちている場面が映るが、まさにそれと似たようなことが起きている。技を出すことも忘れて見入っていた次の瞬間、視界の端に何かが光ったと思ったら、


(マスター、逃げて!)


 とラディエンスの鬼気迫る叫びに反応して移動した刹那、ビームみたいなのが巨大な生物に直撃し、表面を焼き付くしていく。


「な、なん、うおっ⁉ 今度は白いビーム? 地上で何が起こっているんだ!」


 何とか『エレメントフィールド』を展開したおかげで、ビームは背後をかすっていったが服が少し焼ける程度で終わったが、真上にいた冬也はどうかなと見上げる。


 どうやらちょうど真上にいた冬也も攻撃を止めて、全力で体を思いっきりひねってビームを交わしたようだ。


「あれを避けるか。それにしても、あれは――」


(シャドウオクパスのビームですね)


「なるほど。見たことあるビームだと思ったわ」

 

 どうやら、水上の相手も中々手強い相手らしいが、あいつが本気を出せば問題なく勝てるだろう。


 水上の強さを知っている走矢だからこそ、彼に絶対の信頼を寄せている。


 だから今は、目の前の敵に集中することが大事だ。


 照準を再び冬也へロックオン。彼の方も神妙な表情を浮かべながらこちらへ視線を向けたと思った次の瞬間、走矢の目の前から再び消える。



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