第53話 戦闘を終えた水上
『終わったのか?』
「ああ。途中で住人の気配が消えた。この世界から消えた以上、我の出番も終わりだな」
『お、おい、ちょっとまっ』
水上の制止も聞かずシャドウオクパスは、勝手にリンクを解いて元の世界へと帰っていく。リンクが解かれたことで人間に戻った途端、力の代償が彼を襲う。
「ぎゃあああああああ、し、痺れる」
突然叫びながら、仰向けに倒れて悶絶する。強烈な脱力感と一緒に全身の痺れが駆け回っていくその様は、長く正座をした後に立とうした時に起きる、せき止められていた血流が一気に走り出した痺れに似ている。
この状態だと動かせば動かす程強い痺れが襲ってくるため、長年の経験からじっと収まるのを待つしかないのだ。
『やれやれ、そうなりたくなければ、早く器を成長させるんだな』
不甲斐ない姿を見せられたシャドウオクパスは、呆れつつ捨て台詞を残して交信を切った。
「なら、そのやり方を教えてくれよ!」
水上の悲痛な叫びは空の彼方へと消えていくかに思われた。
「ほう、元気そうだな」
「さ、サウスリーダー! どうしてここに?」
視線を横へずらすとそこにはサウスリーダーの剛刃力が笑顔で立っている。
「水上を引き取りに来たんだ。お前はシャドウオクパスの全力を出すと、能力を解いた後は反動で動けなくなるだろう。いつもは無防備状態のお前を部下がフォロしてくれるが、ここでは誰もいない。だから俺が来たんだ。大事な部下を失うわけにはいかないからな」
「サウスリーダー」
「ちょっと痺れるぞ」
大の字で倒れている水上を剛刃力は軽く持ち上げて肩に担ぐ。
「ぐおおおおっ」
肩に触れる面積から痺れが流れていくのを我慢していたら、ふと剛刃力が尋ねてくる。
「前から思っていたが、どうしてシャドウオクパスは水上を選んだのだろうな」
「……分かりません」
言葉の意味が理解できるからこそ、水上もどうしてシャドウオクパスが自分を選んだのかが分からないでいる。
幻生界の住人たちが貸与する人間を選択する条件は、当然己の力を十全に発揮できる体――彼らの言い方では器――があるかどうか。そもそも彼らが人間に貸与する理由が、代理戦闘なのだから自分の力が発揮できない人間など駒以下なのだ。
それを考えると、シャドウオクパスにとって水上は自分の力を完璧に使いこなせないクズ以下であるはずだ。
しかしシャドウオクパスは水上の貸与を破棄することなく、むしろ自分の力を発揮できるよう器を育てている節がある。
そこまで水上に投資する理由は一体何なのか。
もちろん、シャドウオクパスに訊いても答えてはくれない。
水上がシャドウオクパスの力を完全に使いこなせるようになれば、その時にこそ質問に答えてくれる気がする。
だが、一つ問題がある。
「サウスリーダー、器って何でしょう?」
シャドウオクパスの力を開放した後は、必ず『器を成長させろ』と言ってくるが、その器というのが分からないのだ。だから毎回それは何かと問うと、『知らん』の一点張り。
お手上げ状態なのである。
だから同じ魂型の剛刃力へ尋ねてみることにしたのだ。
「あはは、俺にもよく分からんな」
「で、ですよね」
やはり自分で探すしかないようだ。
「そう落ち込まずとも、いずれ……むっ⁉」
言葉が終わり切る前に、何かを察した剛刃力は右手に『ソウルウォール』を展開すると、飛んできた真っ黒い刃を受け止める。
「うぬぬぬ……ふん」
力を込めて振り抜いて、黒い刃を空に弾く。
「さ、サウスリーダー、あれはまさか!」
「光岡嬢が暴れているようだ。あれのせいで、俺の敵が半分やられてしまってな。戦うのはいいが、周りの事も考えてほしいものだな。巻き込まれても困るから、俺たちは入口まで下がるぞ」
剛刃力に担がれながら二人は入口へと向かう。
その間も、真っ黒い刃が駆け抜けるたびに、絶叫と人が吹き飛ばされていく姿が水上の目に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます