第24話 side 千両寺冬也
鳥の視界を通して映る光景は、部下たちがお昼時に行くオアシス公園。
あの場所はたくさんの店が立ち並び、味も値段もいい人気のスポットで毎日選ぶのが大変だとうれしい悲鳴を上げていると聞く。
そんな彼らの憩いの場所から連絡が入った。
『ターゲットを発見しました』
すぐに鳥を飛ばしたところ、時田走矢と川本の娘が呑気にお昼ご飯を食べている途中だった。
(そんなことをせずに、さっさとあの二人を殺して奪えばすむことだろう)
うるさい奴が突然口出しをしてくる。
本当に忌々しい奴だ。
「黙れ! 俺のやり方に口出しするんじゃない!」
自分の世界を壊し、運命を捻じ曲げた、この世でもっとも憎く、自分よりも強大な相手へ怒鳴りつける。
(ふふふ、いいぞ。相変わらずお前は我を楽しませてくれる。その心地の良い怒りを、もっと見せてくれよ……あ・い・ぼ・う)
「はっ、相棒だぁ? 気持ち悪いこと言うな。盤面上の駒程度しか見ていない癖に、俺たちが仲間のように言うのはやめろ!」
(ふふふ。冬也――)
人の名前を呟いて、目障りな声が途切れる。
勝手に現れて、勝手に住み着いて、我が物顔で欲しくもない力を寄越してきた、傲慢でこの世で一番殺したい相手でもある。
しかし、自分よりも格上の存在に勝てるわけもないので、忌々しい気持ちを抱きながらも、千両寺冬也は得たその力を利用することを選んだ。
「まったく、気分最悪だ」
感情のまま大声を出した気持ちを何とか抑えつつ、鳥の視覚へリンクして映像を眺める。
先ほどの戦いで時田走矢の感知範囲が高いことは、鳥を破壊されたことで分かっていたので、少し離れた電線柱に止まって観察をしていると、さらに男女の二人と合流をする。
どうやら、彼らと合流をするためにここで待っていたようだ。
さらに女性がノートパソコンを取り出し、USBメモリを川本の娘から受け取っている。
このままではUSBメモリの内容が彼らに知れ渡ってしまい、今回の犯人が自分だとばれてしまう――と一瞬考えたが、そのリスクよりもこちらが何の労をせずに、USBメモリの内容を確認できるメリットの方が何倍もいい。
ジャーナリストはみな用心深く、川本みなとの前にも他の国から四匹ほどの小バエを捕まえ、そいつらからUSBメモリを奪い取り、中身を確認しようとしたがパスワードを解読できず、結局中身を見ずに壊した経緯があった。
だからこそ川本みなとが、一体何をUSBメモリに残しているのか気になった。
ここは静観するのがいいだろう。
『現在ターゲットは、オアシス公園で何かを話し合っています。社長、いかがなさいますか』
「待機しているメンバーに連絡。今は静観をするが、俺の合図でいつでも動けるようにしていろ」
『かしこまりました』
部下にスマホで指示を出した冬也は、次に勇気に連絡を取る。
『はいよ。俺はどうすればいい?』
「一緒だ。車でDIFのメンバーと一緒に待機。俺の合図で移動できるようにな」
『了解だ。しかし、奴らも運が悪いな。俺たちがいつも使う駐車場の公園に来るなんて』
「もしかしたら、天が俺たちに味方してくれているのかもな」
『だといいな――』
通話を終えた冬也は、屋上からオアシス公園の方角から東方向へ視線を向いた。
「よし、これで準備は完了だな。後は、あちらの状況次第かな」
左目を閉じ、右目に意識を集中して、列車と並走している黄色い鳥の視界を共有する。
映し出されたのは雄大な海が広がる中、大きな橋の下を走る十両編成の東京行きの列車が走っている。その左の窓には、青山を暗殺するため人の形をした何かが、彼の車両のドアの前で警備の黒服とやり合っているところだった。
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