第19話 千両寺冬也の能力

「よし、千両寺冬也のデータへアクセスできた」


「読み上げてくれ」


 DIFの成り立ってでまだランクを持っていないももとトネール、人間の七海はスマホを向けられてもDIF図鑑は見ることができない。そのため全員に情報を共有するには、水上が口頭で伝える必要がある。


「千両寺冬也、ランクB、魂型。貸与の住人は、幻生界のオスカーイル」


「オスカーイル? どんな住人か分かるか?」


「常に雷雲が発生している広大なイナツルヒ山脈。その中で最高峰を誇るマラカンボの頂きを根城にしている雷鳥。オスカーイルが戦闘をする際は、雷雲を操りながら敵に雷を落としたり、体中を雷で、纏い目にも止まらぬ速さで敵に鋭い爪で切り裂き、口から出す雷で相手を焼き焦がす……だそうだ」


 電話で青山に報告をした時、『雷の精霊とは相性が悪い。理由は相手が同じ雷だからだ』と伝えられていたが悪いってもんじゃないな。


 話を聞く限り、このオスカーイルはトネールよりも全ての能力面において上回っていると思うのだが、本人はどう感じているのだろう。


「トネール……この話を聞いて、オスカーイルに勝つことができるか?」


 念のため聞いてみると、トネールは力なく首を横に振った。


(まさか相手がオスカーイルだとはね。残念ながら私では無理ね)


「えっ、トネールはオスカーイルのことを知っているの?」


 ももがびっくりしながらトネールに顔を近づける。


(精霊は技を会得するために、階級の精霊から教えてもらうの。その時、お手本として幻生界の住人の技を見せられるの。どれくらいの人数を見せられるかは分からないけど、私たち雷の精霊は十人の技を見たわ。その中で精霊たちがこぞって見本としたのが、オスカーイルだったわ。生まれてから、常に雷と共に育ち、その雷で幾多の猛者たちと渡り合って培った技は、雷から生まれた私たち精霊からしても、強力で美しかったわ。とても悔しいけどね)


 上級精霊であるトネールが嫉妬するほどの強さを持つオスカーイルか。


 そりゃ、暴走したら百五十七名の命を刈り取ることも可能かもしれない。厄介な奴が敵になったものだ。


(それにしても、ちょっと意外ね)


「意外?」


(ええ。オスカーイルは自分が最強だと自負するほどの自信過剰で我の強い奴なの。性格も最悪で悪知恵も働くから、幻生界の間での評価は最低な奴ね。そんな奴が人間に力を貸すだなんて……絶対に何かあるわね)


 ももの綺麗な肌を優しく撫でながら、小難しい顔をしている。


 自信過剰で我の強いって言うのは幻生界の住人らしいけど、性格はかなりあくどい奴のようだな。確かにトネールの言う通り、オスカーイルには何か目的があって千両寺冬也に力を貸しているような感じだな。


 少し考えていた走矢の視線が水上と合う。


 同じ幻生界の住人と貸与している水上なら、何かしらオスカーイルの目的が分かるかもしれない。


「どう思う?」


「何が?」


「オスカーイルの目的?」


「知らん。どうせ悦楽にひたりたいだけなんじゃないのか? 幻生界の連中はそんな奴ばかりだからな」


「つまり考えるだけ無駄なわけね」


 どうやらここで考えても答えは一生出てこないだろう。


 先へ進もう。


「話を戻そう。半年間の刑期を終えた千両寺冬也は、一ヵ月後に千両寺貿易会社を設立しているな」


「元々、千両寺家は貿易会社を東京で経営していたようだな。千両寺家の長男として生まれた冬也は、千両寺家の跡取りとして育てられていたが、DIFとなったことで一転、跡取りは次男に移っているな。だが、その次男も不慮の事故でこの世を去っているとのこと――ってDIF図鑑には書いてある」


「親の敷いたレールを走っていたが、DIFになったことでそのレールから外れてしまったというわけか」


「みたいだな。で、その後三枚目の記事でその親の会社を合併して会長になったことが書かれている。DIF図鑑では、経営していた一族は全員解雇しているな」


「ふーん。次の記事は貿易をしている国か。アメリカを筆頭にヨーロッパ、東南アジアと幅広く行っているね。他の国の人工島ともしているのか」


 貿易する国の多さを見ると、経営者としてはかなり優秀だったようで、資産は数千億円と言われているようだ。さすがは、千両寺家の跡取りとして育てられてきただけのことはある。


 しかし、ここまでの記事の内容では青山が警戒するほどの事件を起こしているとは思えない。至って優秀な経営者としか思えず、千両寺冬也が川本みなとを殺害するような動機が見当たらないのだが――。


「最後は殺害された三名……嘘でしょう」


 殺害された三名の名前と顔写真を見た七海がさっと青ざめる。


「どうした、七海。こいつらを知っているのか?」


 走矢が聞くと一拍おいて、七海は神妙な面持ちで口を開いた。


「彼らは裏取引屋と呼ばれる人たちで、名前の通り禁止薬物、武器販売、非合法な物を主に扱っているのね。で、この三名はとある物を世界にバラまいたことで、秘密裏にによって粛清されたの。その物とは……


「なっ‼」


「それか! 青山が千両寺冬也を調査していたというのは!」


 驚く水上と声を荒げる走矢。


 この情報は千両寺側と青山側とで大きな違いが出るが、双方絶対に手に入れなければならないのは変わらない。


 青山側の手に渡った場合は、千両寺冬也の破滅が確定。


 シンプルである。


 問題は千両寺側に渡った場合、当然千両寺側はこの情報を闇に葬るだろう。そうなったら今度は青山側がヤバくなる。とりあえず、青山が責任を負わされて市長を解任されるだけならばまだいいが、最悪のパターンはニューライトブルーシティー事態が消滅する可能性がある。


「このUSBメモリの情報は、今や恐ろしい爆弾に見えて仕方がないな」


「ああ」


「同感よ」


 事情を知る水上と七海は首を縦に振ってくれる。


 ただ、事情を知らないももとトネールは首を傾げる。


「みなさん、顔色が悪いように見えるんですけど、一体どうしたんですか?」


(本当よ。私たちにも教えなさいよ)


「もちろんだ。なぜ、君のお父さんが狙われたのか。千両寺冬也がどうしてこれを手に入れたいのか。それを説明しようじゃないか。一応私が説明するが、水上と七海も独自の情報を持っていると思うから、その時はフォロを頼む」


「ああ」


「分かったわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る