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この時代には全くそぐわない、なんの変哲も、区切りもない名前。ただ、私には名字というものがない。両親はいない。だけどなぜか私は物心がついたときから「ユキ」だった。幼少期の記憶が私にはないのだが、この名前は親がくれたのだと、そう思っている。友人は「おばあちゃんになったときに恥ずかしくない名前じゃん」と励ましてくれたが、別に私が今存在する老人達の仲間入りするわけじゃないし、私がおばあちゃんになったときの流行りはまた違うはず。そう思ったけど、友人には言わないでおいた。

 再び話を戻す。私は何も言えず、ただA男の目を見つめた。ここに来て、何度か別れを経験したことはあったが、こんなに息が詰まって苦しくなったのは初めてだった。私にとってA男は同僚というより、共に戦った同士だから。ずるい。彼はもういなくなるのに、私には「戦え」という。

 言葉の通じない人を前に焦る私を助けるために、翻訳をしてくれたA男。理不尽に怒り出した客をなだめてくれたA男。記憶の中のA男はいつも朗らかに笑って、なんでも乗り越えていた。なんてずるいんだろう。私に託すってなんだよ。その場で地団駄を踏みたくなるほど悔しかったが、彼を恨むなんてできない。昨日いた人が今日、同じ場所で生きているとは限らない。ここで生きるということは、まさにそういうことだ。私たちは無力だ。だけど、だからこそ一緒にここで戦いたかった。

 これが、「A男薄茶色ゴロゴロ事件」が巻き起こした顛末である。私は知りたい。苦痛を伴ってまでこの世界に生きる意味があるのか。このスーパーは、何のために存在するのか。そんな思いから、私はこの見聞録を執筆することを決めた。その場の感情に左右されることもあるだろうが、なるべく客観的事実を記すことをここに誓う。

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