Part,22 Is that really out in the open?
光斬は紗葵の後を追い、神の代行者専用の特別切符を使って改札を通る。
(地下鉄、あんまり乗ったこと無かったかもな……)
光斬はとりあえず、ホーム内にいるであろう紗葵の捜索を始める。紗葵は見た目からアホっぽいオーラが溢れ出ているため、知っている人からすればかなりわかりやすい。
紗葵を見つけた。黄色のヘッドホンを首にかけている、黒のセミロングヘアーの小柄な女の子だ。制服を着ているため、余計分かりやすかった。同じ車両にいては、追跡しているとバレる可能性があるため、1つ横の車両に乗って状況がわかるようにする。
「よー、そこの若いの」
おっちゃんが話しかけてきた。光斬は冷静に対処しようとしたが、話し続ければ面倒になるかとも思った。
「どうかしました?」
返事することにした。
「その制服、吉塚高校だろ?」
「まあ、そうっすね」
「制服で選んだ? それとも女の子?」
「いや、吉塚しか選択肢なかったんすよ」
「じゃああんちゃん、アホか?」
「まあ、自慢じゃないっすけど」
「アホなんか。高校の勉強はムズいから頑張れよ」
「あ、ありがとうございます……」
すると、そのおっちゃんは紗葵のいる車両へ移動していった。
(なんだったんだ……?)
光斬は一瞬、紗葵のいる車両から目を離した。瞬きレベルの、ほんの一瞬である。が、その一瞬の間におっちゃんの姿は消えており、紗葵のいる車両の1番奥に、消えたおっちゃんに似ている、明らかに異なった服を着ている人がいた。
(あの服、……まさか!?)
光斬の頭の中に思い浮かべたまさかとは、カラオケ店員の制服だった。が、見た限りあんな服を着ていた従業員はいなかった。
(……てことは、既にカラオケ店員の従業員を襲って、その服を着て擬態した気でいるってことか?)
光斬は急いでネットでニュースを見る。すると、さっきまでいたカラオケの店員が、何者かによって全裸になった状態で殺されていることがわかった。その何者かの正体は、目の前の奴だろう。
(狭いし人はいる……。なんなら紗葵がいる……。けど、やるしかないか)
制服の下には強化装備を装着しているため、大した問題ではない。一番の問題は、紗葵に神の代行者をしていることをバレるところだ。
光斬は紗葵のいる車両に移動すると、扉のすぐ横にいた紗葵の足元にカバンを投げた瞬間、丁度真ん中の通路が空いていたため全速力で走り、地下鉄の車両を突き破っておっさんを線路に叩き落とす。
(これで死ななかったら、確実にこいつはフェミーバーだ)
「お前、さっきの餓鬼か」
やり方は横暴だったが、フェミーバーを見つけることができた。そのため、光斬は斬奸を抜く。
「なるほどな。神の代行者か」
「そういうことだな」
「……にしても、神の代行者が一人でいるとは、珍しいものだ」
「そうらしいな」
「らしい、か。お前、入って間もないだろ」
「だからなんだよジジイ」
「ジジイだと? まだ143歳だよ」
「十分ジジイだよ。ここでくたばっとけ」
光斬は斬奸を構えると、フェミーバーは早速突進攻撃をしてきた。
(……斬れるよな?)
光斬は適正属性がない。そのため、福岡支部での稽古の際、皆が魔法に充てる時間を全て剣術に注いできた。その結果、短期間で急成長を遂げた。
光斬は1歩踏み込むと、射程内に入ってきた瞬間に一閃する。剣筋は上から下へ降りる。
「……斬れるもんだな」
赤い血のついた、ちょうど今振り下ろした斬奸を見て、ひとりげに呟く。一瞬だけ抱えた不安は、瞬く間にして消える。
「……やべ、電車どっか行っちまう」
急いで振り返り、真っ二つに分かれたフェミーバーを他所に、先を走る地下鉄を追いかけた。
――――――――――――――――――――――
地下鉄は次の駅のホームに止まるため、減速を開始する。車両は80km/hから60km/h、40km/hと、指数関数的に減速していく。その時、光斬は減速をしている車両に手をかけた。
「掴んだぜ」
割った強化ガラスの下の縁を掴むと、ダッシュヴォルトの要領で車両内に侵入すると、運転席と客席の間にある扉を挟んだすぐ向こうに、紗葵がこちらを凝視していた。その瞬間、光斬は全てを理解し、その上で諦める。
(……終わった)
元々バカな男が、隠れて人の事を助ける、隠れてフェミーバーを殺すなど無理な話なのだ。そう悟った光斬は、普通に荷物を取って違う車両へ移動した。
(もし、バレてるなら絶対に声をかけてくる)
そう意気込んだが、声をかけてくることはなかった。
2つ駅を通り過ぎ、3つ目の駅で紗葵は降りた。光斬もそこで降り、無事家まで隠れて送ることができた。
(……バレてないよな?)
紗葵は一切話そうとはしない。メッセージで確認しようともしない。性格的にも確認はしそうであるが、それが一切ない。といっても、光斬は紗葵をよく知っているわけでもないため、あえて送ってこない可能性もある。
「……ま、今気にすることでもないし。別にいいか」
紗葵の豪邸を目の前にして、光斬は楽観的に考え、帰路に着いた。
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