Part,13 Remember the moon at that time



 光斬の家に帰っている途中、ネセントは夜に包まれた街並みを眺めながら歩いていた。



 「ねぇ、光斬」


 「どうした?」


 「この街並みってさ、何か守りたくなるものがあるよね」


 「住んだり愛着を持ったりしたら、なんであれ守りたくはなる。にしてもお前……、愛着とか特にねぇだろ」



 居候を始めて3日。旅行とそれほど変わらない期間の中でネセントがこの街に愛着を持てたのか光斬は疑問に思った。だが、彼女の口から帰ってきたのは光斬の考えていた回答からかなり斜め上の回答だった。



 「私ね、愛着には期間はそんなに関係ないと思うんだよ」


 「期間とか言ってねぇのによくわかったな」


 「光斬のことはだいたいわかるよ」


 「凄いを超えて怖いわ」



 光斬はそんな可能を少し怖がりつつも、話の続きを聞いた。



 「愛着っていうのはさ、この街を気に入ったかどうかっていう意味だと私は思うの。確かに、長い期間この街にいれば愛着を持つとは思うよ。けど、短くても『この街が好きだ』『この街を守りたい』って思ってちゃうこの気持ちも、ひとつの愛着じゃない?」


 「まあ……、そうだな……」


 「それに、光斬は『この街を守りたい』って思ってるでしょ?」



 光斬は、彼女がここまで自分の思ってることを的確に当てられることに恐怖すら感じるレベルにまで到達していた。だが、共に暮らした中で何かしらわかったのかと思うと納得がいった。



 「そ、そうだな……」


 「……じゃあ、私も守りたい。光斬の笑ってるところが見られるんだったら、なんだってやるよ」



 ネセントは光斬の顔を見て言う。光斬は途中まで冗談だろうと思って聞いていたが、彼女の言うことが、声が、雰囲気が本気になっていくにつれ、光斬も本気になって聞く。共に過ごした中で彼女の色んな側面を知った光斬は、今が本気になったネセントなんだと感じる。



 「じゃ、俺らでこの街守んねぇとな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 光斬達2人は家の近くまで戻ってきていた。住んでいる町名が標識に書かれているのを見て、2人はもうそろそろ家に着くと安堵する。そんな時、家とは逆方向から悲鳴が聞こえてきた。何事だと2人は振り向くと、もう一度悲鳴が聞こえてきたが途中でぶつりと悲鳴が消える。その消え方があまりにも不自然だったため、家とは逆方向の悲鳴が聞こえた方向へ2人は走った。



 (何があった……!?)



 走ること2分、2人は悲鳴が聞こえた場所に着くとそこには10体のフェミーバーがいた。そのいずれもが人型で、ルナティック・マーダーやショッピングモールで戦ったあのフェミーバー達に似ている。

 光斬は私服の下に強化装備を着ていたため、腰に差していた魔剣を抜いて戦おうとしたが、魔剣を抜こうとしている間にネセントが戦闘を既に始めており、8体のフェミーバーを既に殺していた。戦闘準備が終わった頃には10体全て殺し切っており、実力の差を身に染みて感じた。



 「これは……」



 身体中が引きちぎられている女性の死体。しかも3人分。2人はそんな死体を見て、ただ手を合わせることしかできなかった。

 光斬はそんな彼女の手を見ると、そこにあったのは今日手にした信愛ではなく最初に持っていた魔剣。なぜその魔剣を使っているのか疑問に思った光斬は、聞いてみることにした。



 「なんでその魔剣使ってるんだ? 今日魔剣取ったじゃねぇか」


 「あー。こっちの魔剣の方がより速く取り出せるのよ」


 「なるほどな」



 2人はその場から離れ、家に帰った。

 家に着くと、2人は早速荷物の整理を始めた。ネセントは昨日買った分の荷物しかないため、すぐに整理が終わって光斬を待っていた。



 「こうやって過ごすのも最後なんだ……」


 「……場所変わるだけだからな?」



 光斬は家中を歩き回って必要なものを取り揃えながら、彼女の茶々に対してリアクションをとる。そんなことを続けているといつの間にか荷物の整理が終わっていた。



 「終わったぞ」


 「もう終わったの?」



 整理に要した時間はなんと8分。ネセントは20分くらいここでゆっくりしていくつもりだったため、少し予定が狂ってしまった。そのため、彼にとある提案をする。



 「ここにいるのも最後なわけだしさ、ちょっとゆっくりしていかない?」


 「そうだな」



 2人はしばらく、ここでゆっくりしていくことにした。2人は床に直接座り、窓の外に浮かぶ月を眺めながらここで起こったことを話す。



 「初めて会った時はかなりの衝撃だったぞ」


 「そう?」


 「そうだろ。まずまず重慶時代の記憶なんてないしな。実質初めてフェミーバー見たのがあれだぞ。マジで死ぬかと思ったわ」


 「あそこで光斬を助けられなかったら……、多分今頃ひとりで月に殴り込みに行ってるかも」


 「死ぬぞおい」



 光斬は月を眺めていると、殺されかけたあの日の夜を思い出す。あの夜は脳裏に焼き付くような衝撃的な出来事だったから、何があっても忘れることはない。だからここから見る月は特別な感じがする。



 「……こっから見る月な、お前がここに来た時の深い話を思い出すわ」


 「私がフェミーバーって事を明かした日だよね」


 「ああ。何回も殺そうかと思ったからな」


 「光斬の恨みを共に背負うって言ったからね。何があっても最期まで一緒に戦うよ」



 そのまま2人はしばらくそこで月を眺めた後、整理した荷物を手にしてゆっくり福岡支部へ向かった。


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