第19話 はにとらっ! そのに
「えらいえらい、ひとりでよく契約出来ました~♡ ……じゃ、続きは夜にしよっか♡」
「こんのっ……!」
可愛いお顔を寄せて悪戯げに囁いたレンリさんが、とことこと廊下を先導する。ひとしきり俺で遊んで満足したようだ。
……つまり俺は今日一日、このメスガキのぷにぷにすべすべなちっちゃいお手々の上で転がされていたということになる。
いやね? 正直なところ、俺も薄々察してはいたんよ。
別にティアちゃんに不満があったわけじゃないけど、彼女が記入用紙の内容に即したメスガキか? と問われれば……まあ諸説あるよねって。
「しかしそうなると、ギルドの相性診断とは一体……」
「おにーさんさぁ、
つまり元々のマッチングサービス自体はちゃんと機能しているものの、不正にならない程度の忖度は働いている、と。……うーむ、金は規律より重い。
まあ冒険者ギルドが舐められる分には構わないのだが、その流れで俺まで侮られるってのはちといただけない。
ここはいっちょ、大人の凄さってやつを見せつけてやらねばなるまいて。
「これだから世間知らずのメスガキは……。生憎だが、俺はもう昨日までのオニキスくんじゃないのさ。こいつを見てもまだ同じ台詞が吐けるかな?」
つい先程更新されたばかりのマイ魔力カード。それも縁のデザインが一般向けとは違う、追放者仕様の限定版だ。
射幸心を煽りすぎた結果、盗賊とのエンカウント率が上昇するとも噂される曰く付きのレア物である。
それを印籠の如くレンリさんに突き付ける。
彼女は両手で口元を覆いつつ、驚愕をあらわにして、
「ええっ……!? び、Bランク冒険者!? すっごぉ~い、流石おにーさんだねっ♡」
「はっはっは! そうだろう、そうだろう」
「ついこの間までSランクパーティのエリート冒険者だったのに、こんな短期間にふたつも下のざぁこ♡ ランクに転落しているだなんて……なかなか出来ることじゃないよ?」
「あっこいつ、人があえて目を逸らしていた部分を的確に……!」
仕方ないじゃん! パーティーと個人じゃ評価基準が違うんだからさぁ!
それにロイたちと知り合う前──つまり転生直後の話になるが、その頃にはもうエルフの冒険者(男)の世話になってたから、個人のランク上げに関心を持つ機会もなかったし……。
まあ俺の素人冒険者時代の話は追々するとして、だ。
目下の問題は、うっとりした表情で俺のカードを眺めるこのメスガキである。
「やだー、こんなの初めて見たんですけど♡ ホントにだいじょーぶ……? やっぱりわたしが守ってあげよっか?」
「ガチの心配のやつじゃん」
つか、俺の追放事情にはレンリさんだって無関係じゃないからね? もはや寿退社だろ、あの流れ。
「だっておにーさん、わたし以外の竜と契約しても相変わらずよわよわのまんまだし……ぷっ、かわいそー……♡」
「レンリさんや、君ちょっと喜んでない?」
「え~? そんなことないですけどー?」
弾んでるんだよなぁ、声色が!
……竜と契約すると、その力の恩恵に与れるというのは有名な話だ。
ただしその内容は、契約したドラゴンの性格や属性に影響を受ける以外は完全ランダム。要するにガチャである。
この世界でよく見るような
聖竜に溺愛される村娘、あらゆる傷や病を治してしまう──
火竜の加護を授かりし戦士、剣に炎を纏わせてメラメラする──
野生の竜王を餌付けした善人おっさん、あらゆる生き物に愛される──
とまあ大体こんな感じだろうか。
さて、ここで俺ことオニキスくんが今現在契約を抱えているドラゴンさんを改めて見てみよう。
レンリさん──ハートアイズメスガキドラゴン【契約状態:
ティアちゃん──血統書付きドラゴン(自称)【契約状態:パーティー雇用】
……わからせいただけただろうか。
つまり後者はともかく、前者に関して言えば──ぷーくすくす、メスガキの加護で自分自身がつよつよになれるわけないじゃん♡ 実に浅薄♡ この様子だと新しい契約ガチャも爆死では? ──ってな具合である。
本来であれば、メスガキの加護とは!? とツッコミたいところではあるが……俺にはひとつ心当たりがあった。
魔法の効果が上昇している実感と、時折聞こえる奇妙な幻聴。
いや、でもなぁ……。あくまで可能性の話とはいえ、何だよメスガキの幻聴が聞こえる加護って。それはもうシンプルに呪いでは? そりゃあ性癖って、目を背けても追い縋ってくる
ま、まあ優れた鍛冶師や錬金術師には素材の声が聞こえるって言うしな……。
それにオニキスくんは転生者。外れ判定はむしろ最強スキルへの布石みたいなモンよ。
「そう考えるとティアちゃんに関しても納得出来るな。あのレンタルお姉さん、自分が何ドラゴンなのか頑なに口を割らなかったし……。変身後の姿も知らないから、能力の推察もクソもねえや」
あと単純に、まだ契約直後だから絆レベル的なアレが不足しているって線もあり得る。
「能力目当てに契約しないおにーさん格好いい♡ でも良く知りもしない相手と勢いで契約結ぶとか、チョロすぎてひとりにするのが不安になるくらい雑魚のカモだね♡」
「それは本当にそう」
月並みな言い訳になるけど、ティアちゃんに関しては誰かに似てるというか、初めて会った気がしなかったんだよな……。向こうもこっちのこと知ってるっぽいし。
「で、そのティアって子は可愛かった?
そうそう、お前も家族にしてやろうか──って違うわ! どこぞの閣下じゃあるまいし、そんな恐れ多い……。あ、そういやこの子の母親も公爵閣下か……。
「最後だけ無視して答えると、まあドラゴンだけあって顔は良かったな。あと
「あ、じゃあ敵だね♡」
「巨乳に対して当たりが強い……」
その割には屋敷の使用人とか、ミコっさんとは普通に仲良さそうに見えるけど。
「メイドやミコトは身内なんだから、実質わたしのおっぱいだしいいの! それよりおにーさん、いつまでその格好のまま歩く気なの……?」
「いや、どうせならパンチラのひとつでも拝んでおかないと、さっき捨てた分のプライドが勿体ないと思って……」
今の俺は野生の魅力に溢れた四つ足スタイル。
単に戻るタイミングを見失っただけとも言えるが、それはそれとして俺は米粒ひとつにも勿体ない精神を発揮する民族性の持ち主。
捨てられて良かった~、とプライドくんが納得出来るだけの成果が欲しい。
「なになに? おにーさんってば、そんなにわたしのパンツが気になってたの〜? もー、早く言ってくれればいいのに〜♡」
あ、ダメだわこれ。好感度高すぎて、俺に下着を見られることになんのデメリットも感じてないわ。
俺は心を鬼に──もとい、"おじ"にしてお説教を始めた。
「はいストップ! 一旦手を止めて下さーい。……このパンチラは出来損ないだ、トキメキがないよ。レンリさんさぁ、俺は別に下着が見たいんじゃなくて、チラッ……が欲しいの。見えそうで見えないからこそ、追い求める浪漫が生まれるわけ」
準備して挑んだ迷宮のボスとかがさぁ、置きっぱなしの宝箱を指差して『ご自由にどうぞ』とか盛り放題のメシ屋みたいなこと言い出したら、ええ……? ってなるじゃんね。それと同じよ。
「うっわ、訊かれてもないのに急に早口……♡ 勝手に拘りとか押し付けて来るの、ちょっとキショいね♡」
キショくない。
「ま、メスガキ初心者のお子ちゃまドラゴンにはまだわからないか……この
仮にもメスガキを名乗るなら、無自覚パンチラと小悪魔パンチラのどちらか一方は必修科目だろうに。
全く……頼めば笑顔でパンツ見せてくれる可愛い彼女とか、そんなの単なる男の夢じゃねーか。最高かよ。
「じゃあ別にいいじゃん!」
毎秒の勢いで掌を返す俺にレンリさんが吼えた。
悪いが大人には『それはそれ、これはこれ』っていう便利な言葉があってだな……。
「えー、とにかくオニキス先生の採点では、先程の振る舞いはメスガキとして赤点を付けざるを得ません。悔しかったら再提出して、どうぞ」
「むむむーっ! お、おにーさんなんて……おにーさんなんて……」
俺のダメ出しに対し、頬を膨らませた彼女は負けじと指先を杖のように突き付け──反論の言葉に代わり、必殺の呪文を唱えた。
「──わたしでドーテー捨てるくせにぃ~……!」
「唐突に未来を予知するのは止め給え」
…………。
……。
Take2
大声を上げたレンリさんが、内股でスカートを抑えながら勢いよく飛び退いた。
「あ~!? このおにーさん、今わたしのパンツ覗こうとした~!」
「は? み、見てないが!?」
「言い訳とかダッサ~♡ さてはおにーさん、彼女とか居たことないでしょー? 大人のくせして、そうやって負け犬みたいに這いつくばらないと、女の子のパンツを見ることも出来ないんだ~? カッコ悪~い♡」
「わァ……あ……」
「あーあ、泣いちゃった♡ いい大人がなっさけな~い♡ うーん……何だかカワイソーになってきちゃったし、ちょっとだけ見せてあげよっか? ……はい、どーぞ♡」
自分の可愛さには特別な価値がある。そんな世間を見下した態度を隠そうともせず、彼女はスカートの裾をゆっくりと持ち上げ……あともう少しといったところで、その手をパッと離してしまう。
「あっ……!」
「はい、おしまーい♡ ぷぷっ、『あっ……!』だって~♡ あれあれ~? もしかして、本当にパンツ見せて貰えるとか思っちゃったんですかー? くすくす、そんなことあるわけないじゃん♡」
「ぐっ……このっ!」
「きゃっ……!? あ、あれ? おにーさんってばそんなに怖い顔して、どうしちゃったのかなー……? あはは……も、もしかして本気で怒っちゃったり? やだなー……ほんの冗談なのに……」
「ガキが……! 大人を舐めたらどうなるか、身体でわからせてやるっ!」
「あっ……♡ や、やだやだっ♡ 謝るっ! 謝りますからぁ……♡ お願いだから、ひどいことしないでっ♡ わたしまだ、彼氏とちゅーもしたことないのに……♡」
その瞬間──ガチャ、と近くの部屋の扉が開いた。
自らの邸宅であるにも関わらず、恐る恐るといった様子でジョナサンが顔を覗かせる。
「うぐぐ……顔が良すぎて力が出ない……!」
「センセー、まだ時間掛かりそうですか~? オトナを舐めたらどうなるのか、早く教えてくださーい♡ あ、もしかして今日は自習ですか~? ──それじゃあお耳から順番に舐めてみよーっと♡」
彼が目撃したのは……マウントポジションで両手をがっぷり四つに絡め、ニヤニヤと余裕の笑みで迫るレンリさん。
そして廊下の床に押し倒され、今まさに耳舐めF◯NZAドラゴンの餌食にならんとする、か弱いオニキスくんの姿であった──。
不思議なことに、義父殿はヤベー奴に遭遇した時のような表情を俺たちに向けつつも、ゆっくりと言葉を絞り出した。
「……君たち、さっきから僕の部屋の前で何をやってるのかな……?」
ええまあ、メスガキとわからせごっこを少々。
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