第31話 勘違い
この世界において、鉄も割と貴重な金属だ。鉄の材料になる鉄鉱石は採れるとしても、それを精錬するのは大変。いくらでも溢れているわけではない。その辺のお店に行って、鉄を二十トンくれ、などとお願いしても、入手はできない。
というわけで。
「じゃ、私はナナと一緒に大急ぎで里帰りしてくるから、明日の夕方くらいまで家を空けるね」
諸々を話し合った後、私は早速出かけることにした。
私はドワーフであり、故郷は鉱山と鍛冶の町、ギール。ベンギルヌで鉄を二十トン購入するのは難しいが、故郷ならなんとかなる。とりあえず鉄鉱石だけでもあれば、私はスキルでそこから鉄を抽出できる。スキルって便利だねー。
そして、里帰りにはナナが付いてくることになった。一人旅は危ないし、購入した鉄を持ち帰るのにも人手がいる。オリビアも一緒に来たいと言ったのだが、それは我慢してもらった。オリビアには、ルエのお世話をお願いしたかったのだ。
そのルエには、時間が許す限りひたすら雷撃の魔法石を作ってもらう予定。魔物から採れる魔石を少々加工し雷属性の魔力を込めまくる、という地味な作業である。地味ながら大変ではあるので、オリビアに諸々のお世話をしてほしかった。
オリビアは不満そうだったが、私が真剣にお願いしたら、渋々従ってくれた。オリビアとルエが喧嘩しないか少し心配だけど……二日間くらいならきっと大丈夫だろう。
旅の荷物を手早くまとめ、私は雷電に、ナナは焔に乗って、私たちは北東へ向かう街道を走る。地球の自動車ほどのスピードは出ないが、時速四十キロくらいで延々と走り続けられる。時速十キロにも満たない馬車移動が一般的なこの世界では、非常に速い乗り物だ。いっそ荷運びの仕事でも大活躍できるくらいだ。
「メディと二人旅だ! 邪魔者はいない! ずっと二人きりならいいのに!」
焔のスピーカーからナナの声が聞こえる。私も、雷電のスピーカー越しにナナに話しかける。
「邪魔者って言うなよ……。オリビアもルエもいい子だよ……」
「それはそうだけど、ぼくからメディを奪おうとするから嫌!」
「元々私はナナのものでもないけども」
「オリビアがいなかったらぼくのものだった! そして、ルエは後から来てメディにベタベタしすぎ!」
「……なかなか不満が溜まってるなぁ」
ナナがオリビアに嫉妬するのはまだわかる。オリビアはナナに対して明確に牽制しており、一定以上に私に近づくことを許さない。ナナからすると不満を持ちやすいだろう。
でも、私はルエとベタベタしているわけではない。ルエにあげた義手、義足、義眼、人工心臓、集音器の調子を見るための接触はしているが、特別な親しさを感じさせる接触はないはずだ。
ないはずだが……ナナからすると、私とルエが近すぎることに不満を覚えるのだろう。
「ねぇ、メディ、二人でどこかに逃げちゃわない?」
「逃げないよ。私は暗黒竜を倒さなくちゃいけない」
「……じゃあ、暗黒竜を倒した後、オリビアを置き去りにして逃げるとか」
「どんだけオリビアを敵視してるんだよ。仲良くできないもんかね……」
「ぼくとメディが特別な関係になれたら、オリビアとも仲良くなれると思う!」
「特別、ねぇ……」
ナナはどこまで求めているのだか。
「ナナは私と恋人にでもなりたいわけ?」
「特別になれるなら、なんでもいいよ。とにかく、ぼくはもっとメディと仲良くなりたい」
「……じゃあ、特別な友達でもいいわけ?」
「いいよ。オリビアよりも大切に思ってもらえるなら」
「オリビア基準かい……。まぁ、私たちも関わり合うようになったばかりだし、じっくり行こう……。あ、魔物の反応だ」
雷電の魔物探知機が、魔物の気配を察知。目の前の画面に、魔物の位置とアラートが表示される。十一時の方向、距離は三キロ。避けようと思えば避けられる相手だろうが……どうやら馬車が襲われているらしい。
望遠機能で確認すると、人間側がやや劣勢か。魔物の数が多い。ホブゴブリンが三体、ゴブリンが二十体。ホブゴブリンはEランク、ゴブリンはFランクの魔物だが、群れになると全体でCランクくらいの脅威になりうる。街道沿いでCランクの脅威と接触することなど滅多にないので、あの馬車も備えが足りなかったのだろう。
魔物の出どころは、おそらく街道近くの林。こういうのも、暗黒竜の存在が影響しているのだろうか。
「ナナ! 人間側が劣勢みたい! 加勢するよ!」
「う、うん! わかった!」
窮地に陥った人を見かけたら必ず助けなさい……なんてルールは、冒険者にはない。基本的には自分の命を優先する。でも、助けられるなら助ける、というのが冒険者の基本方針だ。
「ナナ! もう少し近づいてから、ナナに狙撃をお願いしてもいい?」
「う、うん! わかった! やってみる!」
焔の左手は、狙撃用のライフルに変形できる。焔にはない装備だったが、先日の魔物の襲来を踏まえ、戦力を拡張しておいた。
ライフルの射程は一キロくらい。でも、一キロ先の的を狙うなんて、私でも難しい。狙撃するなら三百メートル以内に近づきたい。
カション、カション、カション、と街道沿いに走って、魔物に接近。十分狙える距離になった。
「ナナ! 私はもっと近づくから、ナナはそこで止まって狙撃して! 人に当たらないように、離れた場所に立ってるやつ!」
「わかった!」
ナナが焔を操り、その左手をライフルに変換。焔の狙撃機能も利用しつつ、狙いをつけて、撃つ。
ドン、と爆炎の魔法石が破裂する音と共に、鉛製の実弾が射出される。十二ミリ弾の威力で、ホブゴブリンの胴体に大穴が空く。血と内臓が弾け跳ぶ様は、かなりグロい。
地球のライフルだと、十二・七ミリの五十口径の弾といえば、対物用だ。アンチ・マテリアル・ライフルとも呼ばれる。厚さ一センチくらいの鉄板も、ちょっとしたコンクリートの壁も、ぶち抜く威力がある。人体に当たれば体が弾け飛ぶ。
ただ、ここでは銃器用の火薬など売っていないので、私は魔法石で代用している。地球のライフルほどの威力はない。それでも、ホブゴブリンくらいは簡単に粉砕できてしまう。
その一発で、魔物も人間も動きを止める。異常事態に困惑しているようだ。
ナナはさらに他のゴブリンを狙撃し、その間に私は敵に近づく。雷電なら、三百メートル進むのに二十秒もかからない。
接近したら、周りの人の安全も考え、私は雷電でゴブリンたちをぶん殴っていく。普通に殴るだけで、ホブゴブリンもゴブリンも潰れてしまう。五トンの機体が生み出す破壊は、生身で耐えられるものではない。
ほどなくして全ての敵を退治。危うげない勝利だ。ただ、圧倒的な虐殺感が出てしまい、馬車に乗っている商人らしき人も、その護衛である冒険者たちも、唖然としている。
「……えー、深刻な怪我をしている方はいらっしゃらないですよね? では、私たちは先に行きます!」
急いでいる身なので、余計な会話もせず、さっさと立ち去ることにする。
「これがゴーレム纏いの力か……」
「この前の戦いもすごかったよな……」
「あ、何か、お礼を……」
お構いなくー、という意味を込めて雷電の右手をヒラヒラ振って、その場を離れる。サッと助けて、見返りも求めずサッと去る。これもまた少年のロマン、なんて。
ロマンはさておき、ナナが追いついてこられるよう、ゆったりした歩調で雷電を動かす。ナナが追いついてきたら、私も雷電を走らせる。
「お疲れ様、ナナ」
「うん。メディも。……それにしても、あの銃、やっぱりすごいね。魔物の群れをあんな簡単に倒しちゃうなんて……」
「……強力すぎるから、あんまり人前で使いたくないんだよね……」
銃器という概念くらい、この世界にもある。でも、火縄銃というかマスケット銃というか、とにかくまだ未発達な武器だ。連射性もないし、狙いもつけづらい。魔法も発達しているので、主力武器になるとは認識されていない。
そんな中で私が強力な銃器を世間に認知させてしまうと、銃器は実はすごい武器だ、という話になり、急発達してしまうかもしれない。優秀な武器は戦争に使われるのが定番なので、私はあまり好ましく思わない。
かといって、武器を隠すために救えるはずの命を救わないという選択肢もない。なんとも難しいところだ。
「なんだか、このゴーレムに乗ってると、自分が強くなったって勘違いしちゃいそう」
「その勘違いは危ういから、自分を見失わないようにね。本当に」
強力な武器を持ったせいで道を踏み外す者も、前世にはいくらでもいた。身近にはいなかったけれど、そういう話はたくさん聞いた。ナナにそんな風になってほしくない。
ナナに注意を促しつつ、私たちは先を急ぐ。
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