第3話 協力者

「……こんな役立たずを、一体どうするつもりだ」


「私は冒険者であり、魔装具師でもあります。まだ試験段階ではありますが、欠損した手足の代わりになる義手や義足の開発にも取り組んでいます。その開発に、お嬢様にご協力いただけないかと思っています」


「義手、義足……。こんな状態だぞ? それを着けて、また自由に動けるようになるとでも言うのか?」



 どうやら興味は持ってもらえた。いい兆候だ。



「その可能性はあります。ただし、完全に元通りとはいかないでしょう」


「……ふん。まぁいい。確かに、奴隷商に売ったところで二束三文にしかならん。即金で五百万デリー払えるのなら、こいつをお前に売ってやる」



 奴隷商に持っていっても、おそらく二十万デリーにもなるまい。そして、売値も五十万デリーほど。


 正直、こちらとしては奴隷商経由で購入した方が安上がりだ。でも、一度でも奴隷に落ちるのは、この世界では酷く自尊心を傷つけられること。あえて自尊心を失わせるような扱いも、奴隷商人から受ける。特に女性の場合、裸に剥かれたり、触られたり、色々あるらしい。それを避けてやることも悪い話ではない。



「いいでしょう。払います」



 今朝稼いだお金の半分以上を失ってしまうことになるのは惜しい。でも、ここで値引き交渉などするのも愚策。この男性はそれに応じるかもしれないが、女性の方が傷つくに決まっている。自分には値引き交渉されるような価値しかないのだと。


 私は革製のショルダーバッグから財布代わりの小袋を取り出し、小金貨五枚を取り出す。お金は冒険者ギルドに預けられるけれど、私の場合はロボット用の材料集めで急に大きな出費をすることもあるので、一千万デリーくらいはいつも持ち歩いている。



「……いいだろう。娘を貴様に売ってやる」


「ありがとうございます。よい義手と義足ができましたら、一度会いに行かせますよ」


「ふん。好きにしろ」



 私が五百万デリー渡すと、男性は背負子を地面に置いた。そのまま、娘に言葉をかけるわけでもなく去っていく。


 その背中が見えなくなったら、私は女性の前にしゃがみ込む。


 彼女の髪は美しい白雪色で、腰まで届くロング丈。瞳は空色。優しい顔立ちをしているけれど、今は随分とやつれている。手足を失って、精神的にもかなり消耗しているに違いない。


 服は、少し野暮ったいカントリードレス。平民にも見えてしまう。貴族の娘らしく着飾っていないのは、どうせ奴隷として売るからだろうか。


 そして、手足がないというのは、両肩の少し先、両太ももの半ばから先が、存在しないということ。実に哀れな姿だ。



「改めまして、私はメディ・ドラーナクです。あなたのお名前は?」


「……オリビア・レンツ。レンツ子爵家の三女です……」


「何歳か訊いてもいいですか?」


「今、十八です……」


「訊くまでもないと思いますけど、義手と義足、欲しいですか?」


「それがあれば、また、自力で歩いたり、食事したり、できるようになるんですか……?」


「その可能性は大いにあります。試してみますか?」


「……はい」


「わかりました。それじゃ、私の家へ行きましょう」



 オリビアを固定している背負子を背負う。私の体は小柄だし細いけれど、その見た目に似合わずかなりパワフルだ。三十キロにも満たないだろう重量は、運ぶだけなら大して問題にならない。



「あの……奴隷落ちから救ってくださって、ありがとうございます……」


「お気になさらず。私は魔装具師としての協力者が欲しかっただけですし、払ったお金の分はオリビアさんに働いて返していただくつもりです」



 オリビアの状況を見過ごせなかったという気持ちもあるが、協力者が欲しかったという気持ちが強かったのは確か。


 両手足を魔装具で置き換える。これすなわち、サイボーグである!


 サイボーグだぞ、サイボーグ! 全男子の憧れ、サイボーグ!


 健常な人間を改造してサイボーグにするのは流石にクレイジーすぎてできないが、手足のない人間なら心置きなく改造できる! ひゃっほう!


 なーんてテンション上がっているのは、内緒にしておく。怖がられたいわけではない。


 なお、私は巨大人型ロボットを造りたい人だが、サイボーグやメカ娘にも大いに興味がある。前世が男なら当然の嗜みである。



「あ、その、は、働いて返すことになるんですね……」



 何をさせられるのか、と身構えている雰囲気の声だった。



「私は慈善家ではありませんから、五百万デリー分、きっちり働いてもらいますよ! でも、変な仕事をさせるつもりはないのでご安心ください! 家事とかしてもらうだけです!」


「……それができるのでしたら、もちろん、やります」


「よろしい! 期待してますよ!」



 高額出費ではあったが、それだけの価値はあったはず。


 人間をお金で売買するな、という批判は、一旦忘れよう。だって、ここはそういう世界だし。世界が違えば常識も違うし。


 娘さんを無償で私に預けてください、などとあの男性にお願いしたところで、受け入れてくれるわけもない。お金で解決する問題はお金で解決してしまえばいい、というのがこの世界における私の方針。


 サイボーグサイボーグ、と心の中で呟きながら、私は帰路を急いだ。

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