『老い草の道』というタイトルに惹かれてこの作品を手に取り、紐解いて見つけたのは一つの異世界でした。
この作品の中にはたしかに一つの「世界」がある。
このように書くと異論が出るかもしれません。このカクヨムには既に数多の異世界ファンタジー作品があり、その中には作品の数と同じ数だけの「世界」があるのですから。
たしかにそれはその通りなのですが、それでもこの作品ほどの確固たるリアリティを備えた異世界作品は、それほど多くはないのではないでしょうか。
それに主人公の目的からして変わっています。主人公ライドラの目的は新しい街道ができて以来使われなくなった寂れた古道、その名も〈老い草の道〉を500年前に敷設した人物について調査すること。それはトルパースンという名前の老造営官なのですが、彼がどういう理由でどのようにしてこの道を敷設したのかは伝わっておりません(眉唾ものの噂以外は)。
つまりはその謎をめぐる話なのですが、とはいえ既に使われなくなった古道の話。その世界の住人の大多数にとってすらもさして興味を抱けないような謎です。それをなぜ主人公が調査するのかといえば、どうやら純粋に学術的な興味のためのよう。その謎が過去の恐ろしい事件の真相に繋がっている、という訳でもないのです。
この話を聞いて多くの読者は戸惑われるかもしれません。胸躍るような冒険やカッコいいバトルはないの? 魅力的な異性とのラブロマンスは? と。……ありません。残念ながらそうしたものを期待すると肩透かしを食うでしょう。そうしたものに代わる、この作品の一番の魅力は細部に至るまで緻密に築かれた確固たる世界観――丁寧な筆致で克明に描き上げられた、リアリティのある一つの異世界なのです。
僕はこの作品からなんとなくダンセイニを連想しました。
一応解説しておくとロード・ダンセイニは現代ファンタジーの源流の一人に数えられる作家です。どれくらい源流かというと、トールキンが彼の影響を受けたといえばその源流っぷりが伝わるでしょう。『指輪物語』が出る50年以上も前にダンセイニは『ぺガーナの神々』という神秘的な創作神話を世に問うているのです。
そんなダンセイニ作品のような印象を僕はこの作品から受けたのですが、作者様いわくダンセイニは未読とのこと。けれどラヴクラフトやクラーク・アシュトン・スミスには入れ込んでおられるのだとか。なので僕の直感は当たっていなかった訳ですが、その二人はダンセイニの影響を強く受けていますから、まあ当たらずとも遠からずということで……。
話を戻しましょう。
僕が思うこの作品の魅力は既に述べた通り、文面から匂い立つような実在感のある異世界の描写です。それは或いは作者様の意図とは異なる感想かもしれませんが、一読者としての本心です。
読み終えた後に目を瞑れば、あたかも実際に目にしたことがあるが如く異世界の情景が瞼の裏に浮かび上がる。――いや、〈老い草の道〉に佇んでいる自分自身を発見する。
……かもしれない。
そんな不思議な味わいの作品です。