第21話 アリスの気持ち



痛い…


あんな非力な男に……ぶたれた…だけなのに…なんで…


どんな戦いの傷より……痛い…





月の光を見ていた。





廃墟の瓦礫に腰を落とし…ただ呆けていた。




思考が纏まらない。




あの男は狂っている、おかしいのは…あの男だ…



私を真人間にする?冗談はよしてほしい……でも嬉しかった……なんで…



私は力の殆どを使い…街を…あの男を護った…なんで…



あの男が昏睡から目覚めない時は気が気ではなかった…なんで…



私は死にかけた……あの男の中にある人格が、それを救ってくれた…なんで…






「アリス様〜やっと追いつきましたわ〜」



ソフィア……


逢って間もないのに人懐っこい子…


私は…あれくらいの頃には…



「はぁ…はぁ…お隣り、よろしいですの?」


「好きにすれば…」





隣に腰掛け、ふぅふぅと息を整えてからソフィアは呟く




「とても、優しい方なのですねタカヤ様は」



「あれの…どこが…」



「私、初対面でも、ある程度人柄が解りますの」



「妖兎族の神通力…かしら?」



「はい、非力な種族なので生き残る為に発現するのかもしれません」


「もちろん全てが解る訳じゃないのですけど…」





…………沈黙する…そちらが解っても…こちらは何も知らないし話すことなんてない…





「タカヤ様は、あなたの事が好きですね…」





「それも…読んだの……」


「いえ、普通の女の子なら分かりますわ♪私の場合、耳年増なだけですけど」


クスクスとあどけなく笑う少女



好き…?



「ただスケベで、カラダを求めてるだけだわ」



「あの方は本気で誰かを傷つけたり襲うようなことは、しませんわ」



「ただ好き…というより…親のような…その…愛情みたいなものを感じます…何よりも大切にしたい気持ち」



親……?



遠く…凄く昔に感じる…小さな時に似たような……でもそれは幻だった。



「凄い方ですよ!!あなたの為に必死で駆けつけて、そして護った…」



「私なんて、震えるだけで……こんなことでは…無理ですわ…」



目を閉じるソフィア


なにか思う事でもあるのだろうか?



「なぜ、そんなにタカヤ様を恐がっているのですか?」



恐い?タカヤが?あんな脆弱な男を私が恐れている?





「申し訳ないのですけど、あなたの心を読んでみました、固く堅牢に閉ざされた心が少し綻びていますわ」



「直接思考を読めませんが、感情は伝わってきます…あなたはタカヤ様を恐れている…」




『すまない…アリシア……人狼族の為なのだ…』




なぜ…かつて親だった者の顔を思い出しているのだろう…




「意味が分からないわね…恐れてなんていないわ……」




『さようなら……姉様…お達者で』



なんでルークまで……



ポタ……



涙…?なぜ私は泣いているのだろう?





ああ…そうだ……恐いんだ…大切な人に傷つけられ…大切な人を亡くす…




あんな思いを……もう……





パリン…





何かが私の中で割れる…




ボタ…ボタ…ボタ……




涙が止まらない………



同時にとてつもない、感情……後悔が溢れて……




「う…ぐ…うぅぅ…ぐぅぅ」




彼は…いつも…私を想ってくれていた……



弱くて……スケベで…下品で…


でも…いつも…私に笑いかけてくれて………自分がどうなろうが……私を護ってくれて……大切にしてくれて……



大切な人………



私には、大切に想うことも……想われることも……許されない……




あまりにも多くの命を断ってきた…





その命は…誰かの大切な……





「これ以上読むのは止めておきます…あまりにも悲しくて…辛い…」



「ぐっ…う…はぁ…ごめん…なさい…」



ソフィアを抱きしめていた。


こんな小さな女の子に抱きつき泣いていた。



「あえて、お姉様と呼ばせてください…あなたは大切に想われるべきです、大切に想うべきです」



なぜ……私には…そんな……



「私は、あなた達が好きになりましたわ、こんな力のせいで見たくないものまで見えてしまう…」



「でも、あなた達は温かく面白いです♪前向きになれます、それはあなたも含めて」



「私はお姉様に幸せになってもらいたい、そして…きっとタカヤ様はお姉様を救ってくださる……あなたの心の英雄になってくださる……」



私の…英雄……



「罪を償うのなら、大切に想ってください…想われてください…自分の気持ちを恐れないでください」



「こんな若輩者が偉そうに、すみません……でも正直な気持ちです」




正直な…気持ち……




………………………






タカヤのニオイを追っていた。


テントに帰ると、もぬけの殻…


何を伝えればいいのか分からない…


ただ逢いたかった。



森を抜けると湖畔にタカヤが居た。


気がついたタカヤは、月を背に…いつものヘラヘラした少し申し訳なさそうな顔で近づいてくる。




どうすればいいんだろう…

何を言えばいいんだろう…




正直な気持ち…




私はタカヤに駆け寄り




キスしていた…




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