第49話 セイテンタイセイの最期の地
先日のあの青鬼と赤鬼の事件。
ああいった件は、この学校の教授陣らにバレるわけにも行かず、上への報告だけで終わっているようだ。
とりあえず、学生たちがあの鬼たちと遭遇したという話は出てこないので良いのだが、あれが俺達だったから対処できたのか。それとも学生たちでも有資格者だったら割と普通に対処できたのかと、悩むところだ。
正美ちゃんはどうするか悩んでいたようだが、あれ以来特殊個体が出てきたなんて話は無い。少し揉めたりはしたようだが、結局次の週の木曜会は普通に開催される。
そして特にイレギュラーが起こることはなかった。
……。
……。
そして久しぶりに俺は異世界へと召喚されていた。
呼び出された俺が周りを見回すが、特に魔物などの気配を感じない。ていうか、こないだ見たのと同じ行商の馬車が数台止まっている。眼の前には小さく焚き火がたかれており、馬車の向こう側にも同じ様に焚火の火が見える。
夜番なのだろうか。獣の相手なら焚き火は獣よけになりそうな気がするが、魔物相手だとどうなんだろう。よくわからないが普通に焚いているって事は大丈夫だとは思うのだが。
「どうした?」
「どうしたって、蟲が切れそうなのよ……。ちょっと潜るから見ててもらいたくて」
「なんだ、そんな事か……」
「そんな事って何よっ」
「いや、良いぜ。ていうかここはどこだ?」
日数的には先日の護衛の帰りか、あまり魔物なども出ることなく楽でいいわなんて言っていたが。
護衛は通常行きと帰り、というのが多い。
昔のノコギリ商いってやつだ。行きに荷物をいっぱいに積んで地元のものを遠方に売りに行く。そして、そこで取引などを終えると、今度はその遠方の特産品などを買い集め、また下の街へと戻っていく。そのため、護衛の往復は一ヶ月とかかかるような仕事になる。
期間的に、向こうでの商いを終わらせて、下の街へと帰るくらいだろう。
たしか、同族のデルのパーティーが一緒にいるはずなんだけど、こんな事は頼めないか。
「あたしが蟲を集めてる間に変なことしないでね」
「変なことするようなやつを呼んだのか?」
「うーん? ……微妙なところね」
「うっせえ。良いからとっとと行って来い」
スーのワガママにはもう慣れたもんだ。適当にあしらうだけだな。
スーが意識を異世界へと飛ばすと、あたりは静けさの中に沈む。俺はスーの横に座り、焚き火を見つめる。パチパチと爆ぜる焚火の火は、やさぐれたオレの心を癒してくれる。
俺が焚き火に木を放り投げたりしていると、ザッザッと足音が聞こえた。
「ん? やはり君か……」
足音の正体はデルだった。デルは俺を見ると無邪気な笑いを見せて俺の横に座る。
「やはりって。分かるのか?」
「召喚時の波動ってのはね。なんとなく。次元が歪むんだ」
「なるほどね。同業者ならではか」
「そんなところだね……」
ま、夜番をしているスーが召喚魔法を使えば一応確認に来るのは当然なんだろう。そのスーは意識を異世界へと飛ばしているため一見寝ているような感じだ。
「蟲の補充かな?」
「そうだね。デルも蟲は使うのか?」
「一応ね。我々召喚師は空身だと対抗手段はないからね。大抵は蟲は持ってるよ」
「へえ……」
ていうか、なんだこいつ。
原因がわかったら戻ればいいのに。焚き火の前で随分とくつろいでるな。
「……早くあっちいけって感じかな?」
「ん? そんな事は思っちゃいねえけど。せっかく夜番じゃないんだから寝れば良いんじゃねえのって」
「ははは。寝てたさ。そしたら君の召喚で目が冷めちゃってね。一度目が覚めるとなかなかね」
「そうか」
まあ、そうか。一度目覚めると二度寝をしにくいのはなんとなく分かる。
デルは、なんとなく言葉を探すように俺に聞いてくる。
「……君は否定していたが、セイテンタイセイは知っているのか?」
「まあ、俺の世界のむかーしの伝説だからな」
「君の世界でも?」
「ああ、西遊記って話に出てくる。三蔵法師って坊さんを天竺って、まあ神様の国みてえなもんだな。そこへ行くのに護衛で付いていくって話だ」
「へえ。そんな話が……。それは面白いね」
「この世界では、結構ヤバかったのか?」
「そうだね。ヤバいと言うより世界の趨勢を変えるレベルの戦力だったという感じかな」
「ははっ。それはヤバい」
まあ、小説の西遊記の孫悟空そのものなら何でも出来そうだしな。
「でも、結局我々召喚師自体は無力だからね……」
「ん?」
「最後は召喚師が暗殺されて終わりだったと聞いている」
「……まあ、そうなるか。そんな化け物みたいなのを召喚できるなら」
「この先に、その召喚師の最後の場所があったはずだ。ギリギリで召喚されたセイテンタイセイが石に突き刺したと言われている杖が今でも残っててね」
「……杖?」
「ああ。セイテンタイセイの意のままにその長さを変えられるという杖だ」
「うぉ。まじでっ! それ見てえな!」
「ははは。と言ってももう千年以上前の話でね本物かもわからないだよ」
おいおいおい。孫悟空の杖と言えばもう如意棒しかねえよな。そんな伝説的な品物拝見できるなら見てみてえ。
石に突き刺した状態で召喚魔法が切れたとすれば、全然現物があってもおかしくない。
「なあ、ちゃんとスーに言っておいてくれよ。ていうかこの行商人にお願いしたほうが良いのか? その杖がある場所さ」
「ははは、わかったわかった。この街道からそんなに離れていないからね。今もそこに召喚師の住まいが残ってるんだよ、見てみたいと言えば問題ないと思うな」
「おお。サンキュー」
なんだ、デル良いやつじゃねえか。
そこはセイテンタイセイの遺跡としてちょっとした観光地にも成っているという。その如意棒はどうやらその時、敵を倒した後に石に突き刺したもので、その後瀕死の召喚師へと駆け寄った時に、召喚師が亡くなり、そのままセイテンタイセイも元の世界へと還っていったという。
俺がデルとの話に夢中になっていると、スーが戻ってきた。
「……男二人で何してるのよ」
「おいおい、お言葉ですね。貴女の護衛をしていたんですよ?」
本当に失礼なやつだぜ。
「ん? 何かあったのかい?」
デルはなんだ? 紳士なのか? そんなスーにも優しく話しかける。
「失礼なのはいつものことさ。な。スー」
「アンタも大概よ」
「そうか? おれは普通だぜ」
「どこが普通なのよ……」
スーはちょっと何かを言い淀んだ後にデルに話しかける。
「多分、なんだけど。もう一本紐が出てるかも」
「え?」
「アンタに言ってない。デルに聞いてるの?」
「お、おう……」
確かに召喚師の話など俺には分からない。俺は焚き火の番をしながら召喚師二人の話をなんとなく聞いて過ごしていた。
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