第30話 都合の良い召喚獣 2

 信じられん。

 このうさ耳女、俺を皿洗い要員で呼びつけやがった。


 それを逆らうことなくやらしているのは、前で鍋を振るう熊タイプの獣人のオヤジだ。優し気な顔だが、俺の太もも位あるぶっとい腕、二メートルを超えそうな背丈。略して熊オヤジ。

 今はおとなしくしておいた方が良さげだ。


 この世界には水道らしきものは無い。水瓶から桶に移した水の中でジャバジャバと洗う。洗剤的な物は有るが、ちゃんと洗えているか微妙なところだ。


「でよ。なんでこんなことしてる」


 横で俺と同じように皿を洗ってるスーに訊ねる。スーは「うっ」っと視線を外す。


「おうおう……。出発のとき親から選別貰ったって言ってただろ?」

「そ、そうなんだけどね……」

「まさか、ギャンブルとかやったんじゃねえよな?」

「違うわよっ! ……スられたのよ」

「……は?」

「スられたの! この店の客層が悪いのよッ!」


「んぁあ?」


 スーの言葉に、熊オヤジが振り返る。そりゃそうだ。見るからにこの店はこの熊オヤジの店だ。そんな事を言われれば気分を害するだろう。


「おめえも冒険者目指すんだろぅ?」

「そ、そうだけど」

「だったら、そんなスられる様なスキだらけじゃ駄目だぁ」

「だって、長旅してやっと食事を取れるって成ればどうしたって――」

「気を抜いた瞬間に殺される奴らなんて、クソ程いるぅ」

「んぐっ……」


 熊オヤジの言葉にスーが詰まる。


「はっはっは。ちげえねえ。もっと気を張れや。スー」

「わっ分かってるわよっ!」



 仕事は皿洗いだけじゃない。食堂が閉まれば散らかった店内の掃除も始まる。こんな事は用務員の俺に取っちゃ朝飯前だ。鼻歌交じりでこなせる。


 それを見ていたのだろう、熊オヤジが感心したように言う。


「坊主、なかなか良い働きっぷりだなぁ」

「当然だぜ。プロだからな」

「確かに、プロと言ってもおかしくないが……。お前は召喚獣? なんだよなぁ?」

「ん? 召喚はされたけどよ、『獣』か? って聞かれれば違う気がするんだな。むしろおっさん達と同じ人間枠として俺の世界では生きてるぜ」

「ほう……。面白いなぁ。もしかしてセイテンタイセイとか言うのかぁ?」

「またそれかよ。俺はシマシュウサクだぜ。俺の世界にもセイテンタイセイの話ってのはあるけどな。別の生き物だな」

「ふむ……。ま、それはそうとお前さんの働き方は気に入ったぞぉ。飯くってけぇ」

「おおお。マジっすか! おっさん。アザーッス!」


 熊オヤジがきれいになったテーブルの上に料理をどんと置く。皿洗いをしながら見ていたが、この世界の料理も基本は地球とそこまで違わない感じはする。多分、化学調味料の様な便利な物は無いだろうが、肉を焼いたり、野菜を炒めたりなどは変わらない。


 おそらく肉の切れ端を、野菜と一緒に炒めただけの一皿だろう。口にすると少し塩味が強めだが食欲をそそるいい味だ。米が無いのが少々残念だ。


「美味い! おっさん。なかなかいい腕だ!」

「はっはっは。ありがとよぉ。この道四十年だぁ。余りもんだが美味えだろぅ」

「ああ。流石だ……。ってお前も食うのかよっ」


 俺が食っていると横にスーが座り込みフォークを手にしていた。


「当然でしょ! 私だって働いたんだから」

「いやあ、でもよ。内容的にはほぼほぼ俺だぜ?」

「良いじゃない。私が召喚したんだし」

「相変わらず都合が良い奴だなあ。だがまあしょうがねえな。分けてやるよ」

「ホント、偉そうねアンタは」


 まあ話的にスーは食事したんじゃないのか? その時に財布をスられたって言うしな。それにしてもバクバクと良く食う。


 元々熊オヤジも気の良いおっさんなんだろう。数日働けば多少の給料も払うという。しかもこの食堂は宿屋も営んでいるとの事で、泊まるところも確保できる。


「良かったじゃんか」

「そうだけど……。けっこう大変なのよ。皿洗いも」

「でもまあ、毎日呼ぶのはよしてくれよ」

「えー。私一人でこれをやれっていうの?」

「明日と明後日はダンジョンに金を稼ぎに行く予定だしな。早く靴欲しいだろ?」

「え? シュウサクの世界にもダンジョンあるの?」

「てことは、こっちにも?」

「そうよ。いつかダンジョンに挑戦したいわね」

「あー。俺の行くところはもっと簡単な所だ。大して金を稼げるわけじゃないけどな」

「ふーん。ちょっと違うのね」


 なんだ。この世界にもダンジョンはあるのか。だがよく考えれば地球にあるのにこの不思議異世界に無いっていうほうが違和感あるかもな。


 ただまあ、土日は寮の食堂も閉まってしまう。おばちゃんも休みというわけだ。

 今日のように賄いが出るのなら、皿洗いくらいするぞと約束して地球に戻してもらう。



 用務員の事務所に戻った俺は、誰も居ない事務所で急いで帰り支度をする。真っ暗な学校は、こんな時代になっても気味が悪い。長居はしたくないものだ。


 ……。



 次の日。朝から三郷ダンジョンへ向かう。

 ダンジョンの周りには以前と同じように老人たちが準備運動をして中に入っていく。


 俺は、二度目と成ればある程度勝手は分かる。入場してすぐに奥へと走る。手前にいる『鬼火』と比べ、奥にいる『叢原火』の方が落とす魔石粒の値段も高くなるからだ。

 そして、前回覚えた手順で火の玉を警棒でバチンと叩き、落ちる魔石の粒を左手で受け止める。


 俺はダンジョン内を移動しながらどんどんと粒を集めていく。先日更にレベルが上ったせいで無茶をしなければ体力もかなり保つ。

 そしてこれを夕方まで続ければかなりの取れ高だ。


 そして夕方に皿洗いをして、まかない料理をゲット。食べたらすぐに地球へ戻り、魔石を売って帰宅する。


 完璧だ。稼ぎも受付のおばちゃんが驚く額だ。これなら明日には靴を買えそうだ。



 そして次の日も同じ様な一日を過ごすが、少し魔石の量も増えていた。動きもなんとなく変わった気がするのだけど、これは異世界でレベルアップした身体の能力に馴染んできたのだろうか。


 もしかしたら低レベルとは言え、数百匹の魔物を倒したんだ。もしかしたらこの世界でのレベルが上ってるのかもしれない。


 いずれにしても俺は帰りに量販店で靴を購入する事ができた。


 スーのあの様子だと、蟲を入れた指輪を買ってもらえるのはまだまだ先になりそうだけどな。

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