↓第36話 城の前で一枚を

 3日目の朝。天気はくもり。

 伝説が本当なら、今夜、暁月がのぼるころに吸血鬼が復活する。

 はたしてそんなことが起こるのだろうか?

 カミールがエントランスを出ると、迷子とメイドの二人がいた。

 迷子は高そうな一眼レフカメラを構え、うららは撮影用のレフ板、ゆららは撮影用のアンブレラを持っていた。


「……なにしとる?」


「見てわかりませんか? 撮影ですよ」


「というかどっから持ってきたんじゃそれ……」


「お城にあったのを貸してもらったんですよ」


 迷子がドヤ顔で答えると、うららとゆららはこう続けた。


「今晩、吸血鬼が復活するんだろ? ぜっこーのシャッターチャンスじゃん!」


「よかったらカミちゃんもどう?」


「くだらんことやっとらんで捜査せい!」


 すかさずツッコむカミールだが、そこへ向けてパシャリとストロボが焚かれる。

 迷子がファインダーから視線を外し、カミールに微笑んだ。


「よかったです。いつものカミらんです」


「アホ毛、もしかしてこれを狙って……」


「いい一枚が撮れました。今日は縁起がいいかもです!」


 カミールは肩をすくめたあと、手をパンパンと鳴らした。


「ネーグル! アルヴァ! こっちじゃ!」


 二人がやってくる。


 ネーグルが「どうかしましたか?」とたずねると、「記念撮影じゃ。みんな並ぶぞ」とカミールが言う。


 アルヴァが「だれかの誕生日ですか?」と尋ねると、「『なんでもない記念日』じゃ。はようせい」とカミールが続けた。


 迷子が「どうしたんですカミらん? エモいですね。最終回ですか?」と言うと、「これって死亡フラグじゃね?」と、うららが目を細める。


 カミールは呆れた様子で、「気分じゃ。たまにはこういうのもよかろう」と言う。ゆららは側で、「ふふふ」と笑っていた。


 カメラを三脚に立てると、タイマーをセットする。

 パシャリと、みんなが集まった、『なんでもない記念日』の一枚を撮影した。


「おお、いいかんじですねぇ」


「なんかいいな。マジで誰か死ぬんじゃね?」


 迷子とうららが撮影のアーカイブを観賞していると、


「くだらんこと言っとらんで行くぞ」


 と、カミールが二人を引っ張る。

 執事たちに見送られ、捜査に出掛ける迷子たち。

 ひっそりとした草原を、風が抜ける――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る