↓第25話 イベントのフラグ

「じゃあ、そっちはたのんだのじゃ!」


 迷子たちは、分担してビリーを捜すことになった。

 迷子とうららは農場周辺を。ゆららは街のほうを。そしてカミールは城に向かい、執事たちの力を借りることにした。


「ネーグルぅー! アルヴァぁー!」


 城についたカミールは、さっそく執事たちの名前を呼ぶ。

 ……しかし、二人が城から出てくる気配はない。

 この時間なら夕食の準備をしているはずだが、キッチンや食堂にも人の気配はなかった。


「おかしいのう、どこに行ったんじゃ?」


 端末の着信にも応答がないし、留守にするならせめて連絡くらいほしい。

 そう思いながら口をとがらせるカミールは、とにかく城を走り彼らを捜した。

 そんなことをしているうちに、一番上の階までやってくる。

 この階は、あまり使っていない部屋が多い。

 そのため常にカギが掛かっているのだが、なぜかその一つの扉が開いていた。


「……」


 中に二人がいるのかもしれない。

 そう思ったカミールは、とりあえず中に入ってみる。


「……な、なんじゃ?」


 目の前には豪奢な天蓋つきのベッドや、貴族が使うような高価な食器が棚を飾っていた。

 おそらく大昔に使われていたものだろうが、家具や床などが傷んだ様子もなく、部屋は時が止まったような静寂さに包まれていた。

 普段は誰も使っていないハズだが、ホコリひとつ落ちていないところを見ると、執事の二人が密かに管理しているのだろうか?


「ここはいったい……」


 仕事でほとんど家にいない両親からは、この部屋のことは聞いたことがない。

 ――というか、ホコリだらけで放置してある部屋が多すぎて、カギをかけたまま無関心になっている場所は多かった。


 ここもその一つだが、なぜか今、妙な衝動に駆られている。

 不思議と懐かしい気分になったカミールは、導かれるように歩みを進める。

 その先、窓から射し込む淡い光が、あるものを照らしていた。

 カミールの背丈ほどある、大きなキャンバスだ。


「…………」


 被せられていた布に手を伸ばし、まるで操られたように剥ぎ取る。

 そこに描かれたものを見て、ぐっと息を呑んだ。

 なぜだかわからないが、胸のあたりがざわざわして手が震える。

 描かれていたのは、あまりにも神々しい一人の女性だった。

 長い銀髪と、赤い瞳の美しい女性。

 芯の通った凛々しい眼差しで、こちらを見ている。

 あたかもそこにいるかのような存在感に圧倒され、しばし言葉を失っていた。

 が、肖像画に添えられたタイトルを見て、カミールは無意識にそれを口にする。


「――メリーダ・リ・ファニュ……」


 それは女性の名だとすぐにわかった。本能や直感とでもいうべきか。

 身体をめぐる血液が熱を帯び、再び肖像画の女性と視線を交わす。

 わからない。

 わからない――が、涙が止まらない。

 この女性が見つめる先に、もう触れることのできないなにかがあるような気がして。

 それに語りかけるように、手を伸ばして。


「せ……セルジュ……」


 咄嗟に口をついて出た言葉に、理解がおよぶはずもなかった。

 それがこの絵を描いた者の名だとわかるはずもなく。

 でも、頬を伝う悲しみは確かに心に訴え続けた。


「お、お主は……」


 やり場のない胸の痛みをこらえながら、カミールは肖像画に問う。


「お主は……誰……じゃ?」

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