第8話 謎解きの通話
「まずはこの爆弾騒ぎで、一番初めに起きた事件からだ」
俺の指示で
最近は女の子でも、軽々と持てる樹脂製の軽い素材なんかもあり、正直、驚いてしまう。
さらにコンパクトに折り畳むことも可能で、時代の流れを感じてしまうぜ。
あー、まだ若い24歳のくせして、発想が昭和のおじさんだな。
でも、その方が探偵としての箔が付きそうだけどな。
『──記念として、近場にある舞台に設置した爆弾を16分後に起動させるよ』
俺は手持ちのタブレットに、持ち前のタッチペンで文章を書き込み、現国の先生になった気分で推理を続ける。
「この犯人からの通話に対し、俺はそのままの意味かと初めは思ったんだ」
そう、俺はこの犯人との会話を自然体で受け止めていた。
でもそれは、大きな間違いだったんだ。
相手は言葉の中に犯行のヒントを残し、何も知らない俺を
幼馴染みだから知れた愛理の裏の顔みたいに、どんだけ腹黒い性格なんだよ。
『教会の警鐘といったところかな。早くしないと青い果実が血に染まるよ。まあ、その方が美味しいんだけどね。アハハハ……』
俺はタブレットを椅子の上に静かに置き、スマホの録音アプリを起動する。
そして録音機能を再生しながら、周囲に最新の注意を払う。
この推理で相手が犯人にされる前に危害をくわえて、問答無用で黙らせるという寸法もあるからな。
過去の事件の解明でもあったことだしな、油断禁物だぜ……。
犯人を暴くつもりが、逆に命を奪われる。
追い詰められたネズミは、何をするか分からない。
場合によっては、依頼料に危険手当を上乗せする……常に崖と隣り合わせな探偵業ではよくあることだ。
「それで教会の敬称で神様の神輿、つまり祭りの神輿と推測し、青い果実が美味しいという言葉から、屋台のリンゴ飴売り場と推理した。そして現場に居る店主、
あっ、弄ってごめんよ、おじさん」
「良いってことよ。大半の男の将来はこうなる宿命で、おじさんはちょっと無くなるのが早かっただけさ」
「ありがとう。東日流おじさん」
若い頃はフサフサだったと、名残惜しそうに坊主頭を撫でる東日流おじさん。
俺はおじさんの寂しい頭に向けて、拝むように両手を合わせて謝る。
「でもおじさんの周囲で、爆弾の予兆はなかった。鳴ったのは爆竹の音で見当違いだったんだ。そこで東日流おじさんの一言──」
すかさず俺はスマホを作動させる。
こうして、口頭だけでは伝わりにくい状況をフォローするためだ。
『だから車道でぶつかり合う、男同士のロマンの喧嘩神輿でな……』
「この車道というワードで16分ではなく、十字路ということに気付いたんだ。ひらがな表記でじゅうろっぷん、分を無くしてじゅうじろく、簡略してじゅうじろってね」
ここではちょっとした引っ掛けをしてきた、通話からの声。
変声期で機械的に声を変えても、これは大きな動かぬ証拠となる。
お陰様で犯行現場がダダ漏れだぜ。
「なるほど。ちょっとした謎掛けだったんだ」
「下手に考えた上でか。犯人も中々やるじゃんか」
「この後、現場でシャーロット警視と初対面し、警視がピンクのキャリーケースから、赤の導線だけが外れた箱を取り出す……という流れになるんだけど。少し変だと思わないか?」
「ああ、そうだな。普通キャリーケースに爆発物は入れられないな。近年、爆破テロが増えているから、ここのお祭りでも厳重警戒してるからね」
「ふーん。つまり空港の持ち物検査みたいなもんね」
仕事柄、よく海外出張に飛び立つ東日流おじさんが、詳しく解説してくれた。
口下手な俺にとっては、非常にありがたいぜ。
一方で発言からして、海外旅行が未経験らしい水橋は腕を組みながら、一人で納得していた。
「そうさ。じゃあ、次の動きなんだけど」
──ケーキ箱のフタに取り付けてあるデジタル時計のタイマーは、残り一分の表示でぴたりと停止していた──。
「ここもちょっとおかしいと思わないか。普通の人間なら、時間ピッタリじゃなく、多少のタイムの誤差があるのが自然なんだ」
「確かにストップウォッチで、ジャスト1分00秒なんて難しいよね」
「そうなのさ。実はストップウォッチで、ピッタリの秒数で止めれる確率は1/30なんだ。前もってやるにしても、リスクが大きすぎる」
ましてや爆弾解体という、緊張感が張り詰めた時にだ。
よくTVドラマである、残り一分ピッタリなら合わせられるが、きっちり一秒は、狙って出せるものじゃないぞ。
「
「そうさ、愛理の言う通り。
俺はこの犯行の頃から、あんたに不信感を抱いていたんだ」
俺は椅子の上で足を組み直して座る、シャーロット警視に視線を向けた。
「なっ、貴様、下らない言いがかりはよすんだな。わたくしは世界一の暇人じゃないんだぞ?」
すると急に不機嫌になったシャーロット警視が立ち上がり、胸ポケットにあった警察手帳を見せつける。
あのなあ、そんな手帳なんて証明書見せても、裏稼業で好きに書き換えられるだろ。
「確かにな。ここまでの推理では、あんたが犯人と断定出来なかった。ここで次の予告の通話が来る」
俺はシャーロット警視をひとまず座らせて、再び録音機能を再生する。
生半可な反論よりも先に、事件の解明が先だからな。
『──とりあえず外からでは見えないよう、金閣寺の金箔でも奪って、10分後に、そこを爆破しようじゃないか』
「ここでも、さっきの十字路のような謎解きの流れとなるんだが、愛理、分かるか?」
「ええっ、ここにはない名所だよね?」
「そうさ。金閣寺というのもワードであり、きんかくじと、ひらがな表記にしてみると……」
俺の問いかけで愛理が、ファンシーなピンクのメモ帳に、ボールペンを走らせる。
「きんかくじ……きんかく……一番後ろの文字を、一文字入れ替えて(底を奪って)、きんしかく……」
ブツブツと小言を口にしながら、頭をフル回転させる愛理。
「なるほど、金の四角というもんか」
「その通り。青葉君も中々冴えてるね」
「へん。そうでもねえよ。事件の謎掛けが簡単すぎるんだよ」
青葉君の名推理に、愛理が悔しそうな顔をする。
案外、青葉君を助手にしてもいい気分だが、ご存じのように貧乏探偵だし、愛理一人で手いっぱいだからな。
「それで龍之助は、お金が入った金庫と判断したわけね」
「ああ。だから金庫がある場所を尋ねてみたのさ」
愛理が青葉君を座らせて、ようやく解けた謎かけの答えを口に出す。
「くっ、
「まあね。
さあ、いつまでしらを切れるかな。シャーロット警視!」
シャーロット警視が腕を組んで、冷ややかな目で俺を見る。
何があっても、自分はこの事件には関わっていないときたもんだ。
いいさ、今からそのプライドの高い鼻っ柱をへし折ってやるぜ。
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