第4話

突然自分の名前を呼ばれて心臓が跳ねる。外しかけたベルトを渋々直さなければならない。

「もー、今は授業中なんだから。ほら戻るぞ。時間は短いかもだけどちゃんと参加しなさい」

先生の前だから、となけなしのプライドをはたいて、さっきまで散々押さえていたソコから手を離す。

じゅ…じゅ…

しかし、さっきまであった蓋がなくなったのだ。だん、だんと足踏みを繰り返し。バレないようにズボンを後ろから引き上げる。

「ほら、イライラしても仕方ないだろ。行くぞ」

チンコを押さえる大切な手首を掴み、歩き出す教師。きっと矢場は行き場のない感情を地団駄を踏むことで表に出している、そう思っているのだろう。

教師が前を向いて歩き出した瞬間、出口を鷲掴みにする。

じゅ、じゅう…

(くっそ、タイミングわりいっ、とりあえず止めねえとっ、)

しかし、一度緩めかけた括約筋は、いっぱいいっぱいの尿の重みに耐えられず、冷えたパンツに上乗せする様に、尿をこぼしていく。

(とまれとまれとまれとまれぇっ、)

じゅうう、じゅうううう…

一歩、無理やり足を前に出すたび、じょ、じょお、と水流の太くなるおしっこ。湿ってゆくズボンを、モミモミと一生懸命に握りしめる。

「んぁっ、っはっ、ぁ…離せってば‼︎!」

自分の歩幅に関係なく進むことに苛立って、勢いよく掴まれた手を振り落とした。

じょおおおおっ

「あ…」

大声を出した時の腹圧、手を振り払った時にかかった変な力。


ぷじゅうわあああああ…


120%にまで溜められたおしっこが噴出するには十分過ぎる負荷。パンツを悠に超えて、学ランの硬いズボンを濡らしてゆく。

「あっあああああっ、とまれっ、止まれってばぁっ‼︎」

腰を捩って、内股のまま、膝を高く斜めに上げて、足踏みを繰り返して。ぐじゅぐじゅに濡れた手で、涙をボロボロに流して大声を上げながら、ちんちんを上に、下に、引っ張って、グニグニと閉めようと画策する。諦めればいいのに、そんなにジタバタしてみっともない、これが先生を含めた観測者の意見だろうが、彼はまだお漏らしではないと思っている。お漏らしではなく、今止めればおちビリで済む、と。

(とまれとまれとまれとまれええええっ)

「あっ、ああああああっ、」

じょわわわわ…じゅうう…

温かい液体放出の勢いが弱まってゆく。それと同時に、濡れた部分(失敗のアト)が冷えて、いずれ失敗を自覚するだろう。

(とまった…けど、こんなの、こんなに濡れたら…)

「お前…公園のトイレは遠いから、ちゃんと済ませとけって言っただろ。どうせ寝てて聞いてなかったんだろうが」

「っ、うるせえ!!うるせえうるせえうるせえ!!お前がっ!!声かけたからだっ!!」

担任の呆れの含んだ声で、彼の感情は爆発した。

「お前が!!お前のせいでっ!!死ねよっ!!」

涙をいっぱいにして、下半身をびしゃびしゃにしながら放つその言葉に迫力なんてものはなく、ただ駄々をこねている大きな幼児と化してしまった彼であった。

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