８月１５日

「どうしても辞めるの？」

「ええ……」

　私は飽き飽きとして言った。すでにフリーターへ戻る覚悟だった。田戸葉はきっと困惑しているのだろう。さっきから泣きべそをかいて同じことを言っている。だが、田戸葉の情けない顔を覗いてみても何も解決したりしないように思う？　私の覚悟は案外硬いのかも知れない。真理は今のところ諦め顔でもしているのだろうか。

「ホントに？」

「ええ……真理にはもう言いましたよ」

　私は後ろのベルトコンベヤーを遠い目で見つめていた。今でも中村と上村がせっせと仕事をしているが、もう、あれに混じって、楽しくバイト。とは言えないようだ。

「やっぱり、給料？」

「ええ、やっぱり給料だと思いました」

「そう。……いっぱい頑張れば給料上がるかも」

「そうです、いっぱい頑張ればです」

　私はエコールの天窓からの日差しに目を細める。今日も平和だな。中村と上村には何も言わずにいた。このまま帰宅をして、次の仕事を探すまで、その間フリーターに戻るからだ。でも、どれくらいの期間だろうか？

　ここ株式会社エコールでは、やっぱりほんのちょっとしか働かなかったな。真理もこうなることを知っていたのかもしれない。何も言わないところからすると、きっとそうなのだろう。

　さあ、帰宅だ。帰宅だ。家帰って寝るべ。私と真理の家で。

……

　その時、田戸葉の顔面、目元だけを暗い幕が覆った。

　突然に、天空から夜が降りてきて地上に覆い被さった。辺りは暗闇の暗黒へと変貌する。

　私は驚いて、外へと出た。

　今は昼の１２時だというのに、空には星空が見える。気温も急激に下がり、その寒さで上着から肩を摩っていると、天空では太陽がどこかから現れた巨大な魚に喰われた……全てを闇夜が覆った。

　無数の七色の彗星が、闇の空から降って来きた。

　私は何が起きたのかさっぱりだった。頭を振って気持ちを切り替え、天空へと飛んだ。何故か空を飛べる。ここは夢の世界だから空を飛べることができるのだろうと考えるのは後にした。

　そう……今では現実は瞬時に破壊され、悪夢の世界となったのではないか？

　急に地上の所々から、悲鳴が鳴り響き、私は天から降る無数の巨大な彗星を右手を突き出し不思議な力で破壊していく。

　巨大な七色の彗星は、粉々になったあと霧散するように消えていった。

　けれども、数が多すぎて抑えきれなかった。

「赤羽さーん！！　無理だから降りて来て！」

　見ると、地上のエコールの駐車場で真理がこちらに大きく手を振っていた。恐らく藤代駅まで前もって来ていたのだろう。またいつもの直観なのだろうな。

　地上へと降り立つと、真理がいつもの調子で駆け寄って来た。

「赤羽さん。またウロボロスの世界樹に誰かが干渉したみたい。今度のはすごく不吉な感じがするの。いえ、もう絶望的かもね。さあ、恵ちゃんたちを探しましょう」

　そう、絶望感が漂う雰囲気どころか、明るく楽観的に言うと、真理はずんずんと歩いて藤代駅まで戻って行く。

　私はさすがに怖くなって、真理の後を追うが。