第53話 追憶の戦い 二

 『ズギューーーン』


 何かが“深淵の目”をつらぬいた。


 晃(アキラ)達以外、周囲には誰もいない。

 “深淵の目”ですら、何が起こったのか分かっていない様だ。

 自分達が認識できる外側から、それもかなり正確な制度で狙撃をする何者かがいる。

 その何者かは遠く離れた場所からでも、こちらの事が手に取るように分かっているのだ。

 晃(アキラ)達にとって唯一の救いは、その何者かが敵ではないということだ。


 『ピピピッ、ピピピッ』


 次は何かと驚く、晃(アキラ)と音波(オトハ)。

 それは、レムに備え付けられた通信機のコール音だ。


 『あ〜、私だ。無事かね?』


 堅苦しい聞き覚えのある声。


 「その声は、仁(ジン)さん!? もしかして、今の攻撃も!?」


 『その通りだ。アスカさんのE'sで光を屈折させて、標的があたかも目の前にいるように見えたのだ。そこで私のE'sを使い、即席の長距離狙撃電磁ライフルを作ってね。上手くいったみたいで良かった。援護射撃は、任せてくれ。あとは、思う存分戦いたまえ。』


 「ありがとうございます。」


 晃(アキラ)達にとって、これ以上心強い支援者がいるだろうか。


 遠く離れたビルの屋上には仁(ジン)が寝そべり、アスカがE'sで作り上げた望遠鏡をのぞきながら長身のライフルを構えている。


 晃(アキラ)は意を決して立ち上がり、音波(オトハ)はまたがるレムのスロットルを吹かす。


 『バルル〜ン』


 「さあ。レムさん、いくわよ!」


 『(TдT)ヒィ~∶ひぃ〜。晃(アキラ)より、こき使われる〜。』


 そして、音波(オトハ)とレムは、起き上がろうとする“深淵の目”に照準を定める。


 「えいっ!」


 『ブオォーーーン』


 音波(オトハ)のE'sによって変形したレムのフロントカウルの音波砲から、衝撃波が“深淵の目”を吹き飛ばしていく。


 『ズバーン』


 粉雪にのように弾け飛ぶ“深淵の目”。

 舞い散った粉雪が集まり、小さく無数の“深淵の目”のティア・フローズンS'bを作り上げていった。


 「細かく分かれたって無駄よ!」


 音波(オトハ)とレムが繰り出す衝撃波は、砲身の先にいる“深淵の目”を吹き飛ばしていく。

 そして、近づき攻撃を仕掛ける“深淵の目”には、晃(アキラ)が光の刃で薙ぎ払う。

 更に、遠距離から仁(ジン)とアスカが狙撃し撃ち落としていく。

 形勢が逆転し各個撃破されていく“深淵の目”は、攻撃どころか散在し逃げ回り始めていった。


 いよいよ数体というところまできた時だ。

 散り散りに逃げ回っていた“深淵の目”達が、一斉に動きを止た。

 晃(アキラ)達が最後の攻撃を仕掛けようとすると、“深淵の目”達は自ら砕け散り細かな氷の粒となり拡散していった。


 驚き戸惑う晃(アキラ)達。

 さらに砕け散った氷の粒は霧となり、辺りを覆い尽くしていく。

 またたく間に広がった霧は晃(アキラ)達の視界を遮るほど濃くなり、もはやお互いを認識できないほどになった。

 こうなってしまっては、遠く離れた仁(ジン)には援護狙撃をする事が出来ないほどだ。


 『あなた達がどれ程立ちはだかろうが、私はこの仮想空間にいる人々の願いをかなえてみせる。』


 霧の中にこだまする“深淵の目”の声に、晃(アキラ)が反論する。


 「願いをかなえるために、皆を食べるっていうのか!? だったら俺達は、何度もオマエの前に立ちはだかってやる。」


 『食べる………? あなた達には、そう見えるだけ。皆、私の中で生き続けるのよ。そして私は、新しい世界を創る。そう…、私が新しい世界になるのよ。』


 「見えているだけが、本当の姿じゃない。皆、本当の世界で生活が有り、本当に生きているんだ。」


 『それが辛いから、この世界を作ったのでしょ。それでも辛いから、もっとアップロードするのよ。』


 霧の中で晃(アキラ)と“深淵の目”が、言い争う声がこだまする。

 今度の“深淵の目”の声は、音波(オトハ)にとって特別聞き覚えのある声だ。


 「この声…、霞(カスミ)…!? 霞(カスミ)なの!?」


 『そうよ! 音波(オトハ)も一緒に行こ。』


 「霞(カスミ)はてっきり、あの時ティア・フローズンにやられてしまったのかと…。」


 『そう…。でも今は、“深淵の目”の一部として生きているわ。さあ…、音波(オトハ)も一緒に………。』


 霧の奥から聞こえる懐かしい声を探るように、音波(オトハ)は手探りであてもなく歩き続ける。

 それを追うように後ろから、モゾモゾと大きな影が続いた。


 「音波(オトハ)! 惑わされちゃあいけない! ソイツは、霞(カスミ)を模倣しているだけだ。それに霞(カスミ)は、はじめから音波(オトハ)を誑かそうと近づいてきたんだろ。」


 ハッと我に返り立ち止まる音波(オトハ)。


 『そんな事ないわ、音波(オトハ)。あなたと過ごした時間、とても楽しかった。また一緒に、カラオケ行きたいね。』


 「霞(カスミ)、私もよ。霞(カスミ)こそ戻ってきて。」


 『駄目なの…。もう…、こっちでしか生きられないの…。』


 音波(オトハ)の背後にいた影が、巨大な蛇の姿になり飛びかかってくる。


 「音波(オトハ)、気をつけろ!」


 『ドカーン』


 霧をかき分けて来た晃(アキラ)が、巨大な蛇の影に体当たりをした。


 「キャー! あっ…、晃(アキラ)さん。助けてくれたんですね。」


 巨大な蛇の影は、シュルシュルと霧の中へ消えていく。


 「やっぱりオマエは、音波(オトハ)を傷つけて思い通りにしようとしているだけなんだろ!」


 『違うわ…。音波(オトハ)だって、こっちにくれば分かるよ。』


 巨大な蛇の影が、シュルシュルと遠ざかっていく。


 「何処へ行く!?」


 『あなた達の友達のあの人も、こっちにくれば分かるはず。………だって、もう時間がないんですもの………。』


 「篤(アツシ)の事か!?」


 『そう…。あの人は、元の世界に戻れば死んでしまう。ここでの時間も、あと僅か…。あなた達に、あの人の苦しみが分かるの…? 私なら救ってあげられる…。何故なら…、私の中でならず〜っと生きていられるから………。』


 徐々にはれていく霧。

 すっかり“深淵の目”の気配は感じなくなっていた。


 「街の中心に向かっているんだ。あそこに篤(アツシ)もいるはずだ。」


 「晃(アキラ)さん、…待って………。」


 街の中心。

 お城跡公園へ向かい広がっていく霧に、再び晃(アキラ)は飛び込んでいった。

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