醜い姫 1生誕日
吊るされた男の独白。
「悪い風が吹いた季節にわたしは生まれた」
黄金のような王妃から姫が誕生し、国は祝いに湧いた。
若芽のような瑞々しさと咲きぞめの花のような愛らしさを兼ね備えた祝福に満ち満ちた赤子だった。
姫君の八歳の生誕祭のことだった。
空に二つ目の金色の太陽が現れた。
かと思うと二つの太陽が争いを始めた。
地上にも飛び火して人々は逃げ惑う。
そして気がついて見ると太陽は再び一つだけになり、姫君は残骸と成り果てていた。
もともと往来の激しい場所でもあり、姫君の遺骸を王宮にお返しするためにはヘラでこそげとらなければならず、遠くまで散らばった片々のために捜索隊が出た。
そのマリオネットのようなギクシャクした動きの黒ずくめの男は、いつの間にか事態に呆然とする王と王妃の背後にいた。
「姫君は八度馬車にひかれ、逃げ惑う国民に踏まれました」
ひぃあぁぁっ、ひゅいいぃぃっ。
男の聞き取りにくい低い声に、正気を失った女の笑い声のような響きが伴っていた。
男は取引を申し出た。
「姫君の上を通った八台分の馬と御者と乗客の心臓と引き換えに姫君を生き返らせてあげましょう」
まるで全て見ていたかのように男は御者と乗客の名前と、馬の居場所を告げた。
王は承諾出来なかった。
男のあげた名前の中に強大な隣国の要人も含まれていた。
自国の安泰のために必要な人間だ。
そもそも一つの命のために、別の命をなどと邪悪な行いではなかろうか。
「構いませんよ」
男は言った。
「なにも払いたくないないというなら、それでもいいでしょう。それでも、今後いかなるものにも損なわれないように姫君を蘇らせてあげましょう。今日は姫君の生誕日ですから」
ひゃああぁっ、ひぃいいぃぃ。
あの時男の声に織り混ぜられていたのは、未来の自分たち苦しみの悲鳴ではなかったかと、後年王は考えたものだった。
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