290話 決起集会



 二十一時。イルネスカドル本部の会議室に、会社のメンバー四人と上司二人、ほろ酔いのレヴォリオ、少し眠そうなガノンが一堂に会した。肝心の俺はくたびれきってるけど。



 レヴォリオはうちの上司達へ挨拶に行った。ダンカムさんがイジった事で、レヴォリオの『諸刃もろはほむら』と言う二つ名を知った。久々に見るレヴォリオの営業モードは、鼻につくと同時に、少しだけ微笑ましかった。




 全員が席に落ち着いた頃。ガノンと俺は司会台へ出る。


 ガノンが、ここまでの表向きな事情と皆への協力依頼を説明してくれた。既に了承済みのカルミアさんとレヴォリオを除いて、驚き戸惑う皆。ただ項垂うなだれて手を合わせるしかない。




 ケインが尋ね、ログマが追従した。


「あの。この件、ルークは口外禁止を貫いてたんです。機密に触れる話だと理解してました。なのになぜ今こんな依頼を?」


「同感だ。要は裏仕事だろ? ヒュドラーの時の連携とは全く違ぇぞ。私的な制裁の方が好都合って、明らかにロクでもねえ話だよな」


 二人は特に不服な様子。……それでも退席せずに質問しているのが、協力の意思の表れだ。ありがたいが申し訳なくて、不参加を促してしまいたくなる。違う気もして黙ってはいるが。



 困ったようにツノの根本を掻いたガノン。


「鋭い、つ当然の疑問っすねぇ。ご理解の通り、契約してんのはあくまでルーク個人ですから、背景の大部分はお伝えできません。でも、今回の話は全く独立と思って頂きたい」


 そして、苦笑いではっきりと告げた。


「これは、ルークから一同への『救援のお願い』です。我々防衛機関は、彼が私怨で殺されては不都合なので、内々ないないに協力する事にしました。多少の手荒な真似くらいは綺麗に揉み消す形で。皆さんも任意参加ですが、どうしますか? ――そう言う集会っすよ」



 ややあって、ログマが鼻で笑う。


「そもそも仕事じゃねえと。俺達とカス四匹、平民対平民の小り合いが起こった時、国は俺達へつく、てだけの報告か?」


「はい」


「ハハ! 権力ってヤツは怖いねぇ。ルークの為ってのがしゃくさわるが、面白そうな話ではある」


 よく見ているウィルルが絡む。


「本当は怒ってないでしょー」


「ああ? 分かったようなツラして絡んで来んなクソガキ!」


「や、やんのかあ」


「……今回はもっと良いストレスのけ口がありそうだ、見逃してやるよ。運が良かったな」


「にへへ、やっぱりー。頑張ろうねぇ。やっとルークの助けになれるんだもん」



 ケインは大きなため息の後、口の端を歪めて頬杖ほおづえをついた。


「……ま、何かしらは出来るかな! 手荒でなくたって、痛い目見せる方法はいくらでもあるでしょ」


「あっはは! 俺はケインが一番怖いかも。味方なんだから頼もしいばっかりだね」


 嬉しそうなカルミアさんを見て、ケインも笑顔から苦さを消した。



 レイジさんが淡々とガノンへ尋ねる。


「もうこれは権力争いの外で、ルークが自分の保身に集中する局面。うちと契約をわす訳でもない。で、合ってるな?」


「その通りっす」


「うん。なら俺とダンカムは、把握した上でシラを切る事にしよう」


 判断はドライだが、眼鏡の向こうの黒い瞳は温かかった。


「会社とは無関係の話だって体裁ていさいを保つためだ。ルークが守りたいもんには、ここでの生活も入ってるだろ? お前らが攻めるんなら、俺達は保守しとく。――それでいいか、ルーク?」


 最適解のように思う。唇を噛んで無言で頷いただけになってしまったが、彼は満足げに微笑んだ。


「うん。じゃあそう言う事で」



 ダンカムさんも笑顔を見せてくれる。


「賛成だ。少しもどかしいけど、表彰で目立ったばかりだもんね。会社ぐるみで荒っぽい世直しを始めたとか言われ出したら困る」


「くはは、放っといても何かと言われがちな事業だしなー。あくまで保身が目的ってんならこれがベストな協力だろ」


「そうだね。……ルーク、僕達にも話してくれてありがとう。安心して支援できる。嬉しいよ」




 ガノンが俺へと向き直り、首をすくめた。


「さ、俺からの説明は済んだぜ。全員参加みたいだよ。ルークが号令かけなきゃ始まらないっしょ? ……頑張れ」



 頷いて、一歩前に出る。誰も見えなくなるくらいに頭を下げた。


「迷惑かけて、ごめんなさい。集まってくれて、考えてくれて……本当に、本当にありがとう」


 また浮かんだ涙が床へ落ちる。


「…………頼らせて、貰えますか……」



「勿論だ。でも甘えは許さない。お前がしゃんと立たないと意味がないだろう」


 間髪入れずに答えたのはレヴォリオ。隣へやってきて肩を組まれた。伏せたい頭が持ち上がってしまう。


 カルミアさんがニヤニヤと便乗する。


「お、いいね。うちは円陣が慣習かんしゅうなんですよ。皆でやろう」


 遠慮の隙もなく、九人全員が円になってしまった。



 ダンカムさんの太い掛け声。


「ルークを守るぞォ!」

「おおー!」



 俺だけそのまま崩れ落ちて、小さくなった。一年前――あの日の土下座にそっくりだ。


「……この先、どれだけ生きたって、こんな幸せな事ないよ。なのに……こんなにされちゃ、まだ死ねないじゃんかあ……」


「円陣を一瞬で水の泡にすんなァ!」


 ログマに丸まった背を蹴られた。ガノンと違って容赦ない。けれど、ウッズに蹴り上げられた時のような屈辱もない。



 今ここで俺を囲む笑い声の全てが、俺を想ってのものだと知っているから。






 活発な意見交流によって、作戦は思いの外スムーズに決まった。


 基本方針は『やられる前にやる』。迎撃ではなく襲撃だ。既に街へ実害が出ており、俺の拠点も知られている状況で、敵方を泳がせるのは危険だとの考え。



 四日間で四人、毎日一人ずつ狙う。俺の知る各人の性質とバデリーさんの調査結果から計画した。


 俺達は、勢力を大きく見せるため、そして責任を分散するためにも、担当を割り振る事にした。もちろん俺だけは全日参加。



 一日目、長剣士ヒーワン。レヴォリオが酒場で聞いたのはこいつの噂だった事もあり、味方はレヴォリオとガノンとする。長剣士対決だ。武器の相性を言い訳にはさせず、最も小知恵の回る参謀を確実にへし折る。


 二日目、精霊術士フニッツ。ケインとウィルルが抜擢。全属性霊術を警戒したのもあるが、女好きにつけ込んだ精神攻撃がメイン。こいつを落とせば、奴らの取れる戦法はかなり限られる。


 三日目、格闘術士ミザリーズ。これはバデリーさんによる強制決定。肉体強化霊術を使いこなすが……裏社会の有名人であるバデリーさんの方が強いだろうな。今から不安で気が重い。


 四日目、戦鎚せんつい士ヨシフォ。単騎にして叩くのが最適と見て最終日に置いた、ミザリーズに負けない危険人物だ。カルミアさんとログマ、慣れた二人と組んで、多彩で性悪な戦法に対応する。



 ダンカムさんは炊き出しと拠点警備役。レイジさんは通常営業と対外的な窓口。


 加えてバデリーさんからは、今夜は四人の動きが無かったと連絡が来た。ウッズの唐突な方針変更を承知こそしたが、当日中に妙案みょうあんがひらめく事はなかったようだとの事。




 ……こんなんで、良いのかな?


 決して舐めてはいないけど、負ける気がしないんだ。



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