知っている事は万能ではない
私が香水を売るなんてどういうことだと思っていたが何となく話は見えてきていた。それが分かったのかジャックは話を続けた。
「俺が新しく事業をしたところで貴族連中は安く売るように指示してくると思うし実際にもう売ってしまっているから価格交渉は俺が分が悪い。じゃあ、アシュリーが事業を立ち上げたら文句を言ってくる人はいるかもしれないけど、まともな価格設定は出来ると思うんだ。」
それに売るにはうってつけのイベントだってあるわけだしねと彼が言うと成程と頷いた。
「リリアナの作った香水を結婚式の時につけてその後のパーティで話題が出るように誘導すればいいんですね。」
言いたいことが伝わったのが嬉しいのかジャックは嬉しそうにこちらを見ていた。また掌で転がされている様な感覚に陥ったけど意外にも興味を示したのはリリアナだった。
「お母様の結婚式の時の香水を作れるの!? いえ、お母様とお仕事が出来るって事よね!! 私はやってみたいわ!! 」
「だってさ。やってみようよ。」
二人のキラキラとした表情は私が同意することを疑っていない。いや、これまでの私ならすぐにでも作業に入ったはずだ。
「……少しだけ考える時間をください。」
---今更になって怖気付くなんて本当にどうかしてるわ。
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心配そうな二人に見送られて自室に入ると頭を抱えながらしゃがみこんだ。
「主人公が事業を立ち上げるなんて小説で何回も見た展開! 香水を売るときってどんなことを注意してたっけ!? っていうか、この世界で重要人物になるような香水売りの人ってそもそもいた!? 」
改めてだけど、ここは小説の世界だ。知識があるのだから出来るだけ物事をスムーズに進める事だって出来る筈だわ。
「この物語でヒロインが贔屓にしていた香水とかあったかしら……? いや、それよりも未来で事業が大きくなって成功する貴族を思い、出して……。」
もう1つ思い出したというより、気づいた事があった。それは、この世界は確実に原作から乖離しつつあるという事だ。
(本編では死んでいる筈の私がマリアベルに復讐するなんて筋書きを作ってしまった)
この世界が物語の世界である事すら疑っていたのに都合の良い時だけ頼ろうだなんて余りにも虫が良すぎる。
「どうなるかじゃない、どうしたいかを決めるのよ。」
今までもこれからもしたい事をしてその責任を取る。物語の矯正力が働いたとしても、誰かが邪魔をしてもその気持ちは変わらない。
「大学生だった前世の私じゃなくてこの世界で生きるアシュリーとしての私が決めるのよ。」
ーーー知識なし上等よ。首を洗って待ってなさいな、マリアベル。
もう前世の知識は頼らないと決めてジャックたちの元に向かうのだった。
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