第8話 神。

《何しに来たんですか、死んだ筈ですよね、鈴木さん》


 小林君、中村君の事でピリピリしてるのは分かるけど。

 鈴木さんは無関係なのにコレって、やっぱり子供だよね、中身も外見も。


「散歩だが、問題か」

《いえ、ですけどアナタもハーレム、ですか》


「いや、彼女は友人だ」

《森って言いますー、どうもー》


《小林です、どうも》

『僕は、何?』


「友人で、恋人だ」

『半ば君達のお陰で結ばれたんだ、有り難うね小林君』


《それで、メリッサさんとは、どうなんですか》

《スズキ様、発言の許可を》

「許可する」


《メイドで正妻、男性器が無いので彼を許容しているに過ぎませんが、それでもハーレムだと仰いますか》

《結局は1人に絞れない、複数人を相手にしている時点で、同じだと思いますけど》


《あのー?純粋に疑問が浮かんだんですけど、良いですか?》

《何でしょうか森さん》


《ココには居ないそうですけど、多重人格者と結婚したら、ハーレムなんですか?》

「あぁ、確かにな」


《後は、出会う前の記憶しか無い、記憶喪失の夫や妻を相手にするのって浮気?ハーレム?》


 うん、確かに森さんは面白い。

 それこそ異色、大罪には最適なのかも知れない。


《森さん、茶々を入れたいなら》

『いや、僕も確かに気になる、君の考えはどうなんだい?』


《ハーレム、だと思いますが》

《でも見た目は1人だけ、なんですよ?》

『あぁ、じゃあ僕の外見がメリッサさんならハーレムじゃないのかな?』

《私は構いませんが、スズキ様がどう思うか》


「子供の事を、どう考えているんだろうか。仮に全ての顔を統一し、子が生まれるとする、となると遺伝子まで変えなかった場合はどちらにも似ない子供が産まれる。そうなると、教育上、どうなるんだろうか」

『どう思う?森さん』


《私は、なんですけど、結局は序列が出来そうですよね、似てる程に自信が付くし、可愛がる筈》

《そこは教育で》

『そこ、道徳の教育はどうするの?ハーレム最高!って育てるとしてだよ、君の相手は4人、最低3人産むとして12人、その12人が全て強いとする。となると君に倣って、12人が3人の相手を娶るとすると、36人の女性が必要となる』


 そうなると、近親婚を避ける為にも出来る事なら全員が三親等の繋がりが無い方が良い。

 姉妹は勿論、姪も避けるなら、最低でも36組みの家族が必要になる。


 更に、36人の子供の子供、小林君の孫に当たる者同士での結婚も避けさせたい筈。


《はい、ですけど》

『うん、だからその為の道徳や教育って、どうするつもりなのか、是非世界の為にも教えて欲しいんだ』


《でも従姉妹同士は》

『この限られた地域で暮らし育つんだよね、つまり相手は自然と限られる、そうして従姉妹同士の結婚を繰り返したらどうなるか、知らない?ハプスブルク家の末路』


 稀に起こる従姉妹同士の結婚なら、本来は問題にはならない。

 けれど繰り返される事が問題なんだよね。


「子供の事は俺も心配だ、もし既に明確な答えを持っているなら教えて欲しい、頼む」


 文明文化、民度が高いなら、行き当たりばったりでも良いけど。

 ココはね、中世って言うか近世だし、例え現代だったとしても血縁のコントロールが難しいと思うんだけどな。


『じゃあ少し視点を変えよう。各国の独裁国家が何故、破綻したか、結局は富の一極集中だと思うんだ。それは未だに向こうに存在してるけど、その事について、どう思うのかな』


《アレは、土地が瘦せているし、教育が》

『なら、あの国を改善する方法は?まさか首を挿げ替える程度で事が収まると?蜜を吸いに集まった働き蜂には脳が無いからたった1人を殺すだけで、直ぐに良くなると思ってる?あのね、物事はそんなに単純じゃないのは分かっている筈だよね、だから数学には乱数が有るし、組織犯罪って絶えないんだから』


《それは勿論、分かってますけど》

『成程、じゃあ次。誰しもが同じ速度で学び吸収出来るなら、もっと向こうは高度に発展していても良い筈なのに、違う。じゃあどうしたら良いと思う?』


《差を付けさせない様に、下を》

『平等にするとなると扱いの差が出るよね?』


《そこを納得して貰える様に》

『向こうで出来て無い事がココで出来ると思う?』


《人員さえ、人材さえ集まれば》

『君の直轄ならね。でも、どうしても各所で利権が発生するし、全員が高い志を持って仕事に就くワケじゃない。だからこそ、何かしらの落差が付く、そうなると平等は崩れ競争が起こる。そうした問題を君は解決出来るなら、是非教えてくれないかな、方法や論を。報酬は幾らでも出すよ、僕は専門家を目指していたからね、凄く興味が有るんだ』


《あー、そう言えば知らなかったな、田中さんの専門》

『経済学部経済学科、資本主義社会の世界平和を考えるなら、先ずは学べって。祖父が政治家なんだ』

「勿体無い」


『でもさ、ほら、同性愛者だから。そうなると政治家としての道は荊の道になる、まだまだ、どうしたって同性愛者って事に目が向く時代だからね。目指すフリだけして大学の教授とかになろうとしてたんだけど、ココの方が自由だし、僕が居なくても世界って回るから』

《つまり、それだけ鈴木さんを好きって事?》


『そう言う事』

「すまん」


『いや向こうの世界は案外出来上がってるから大丈夫、しかも既に甥とか姪とか居たから、気にしないで』

「だとしても、頭も容姿も良いのに、勿体無いと思ってしまうんだが」


『それを言うなら鈴木さんもだよ、強さを持ってても奢らず慎重で、真面目で真っ直ぐで素直で。絶対、教師として出会っても教師辞めてまで口説くね、でどうにか他国に行って結婚する』

《凄い、こんな怖い惚気初めて聞いたかも?》


『本気で教師が生徒に手を出すなら、成長を待ちつつ教師を辞め、以降は子供に関わらない仕事に就くべきだと思わない?』

《ですよねぇ、本当に愛してるなら我慢しろとは思いますけど。昨今では我慢ならない程の愛、とも言い換えてる節が》


『それは餌食にしようとする大人の方便だよ、所謂詐欺師や遊び人の言い訳、マイナスを取らずにプラスだけを取ろうとするだなんて。覚悟も愛も無い、それこそ、その程度の愛だと思うけど。大丈夫?森さん、愛について考えた事は?』

《あ、いやー、食ラブ、なので》


『一緒に楽しめる人が居たら、もっと楽しくなるんじゃない?』


《それ、別に、毎分じゃなくても良くないですか?》

『そう?毎分、鈴木さんの事を考えてて楽しいよ?』


《あ、そこです、毎分平等にお相手の事を考えてるんですか?そも平等だって誰が確認するんですか?》

《それは、信頼が有ってこそで》

『信頼と言う名のプレッシャーを掛けるのって、一党独裁、独裁国家とは違うの?違うって言うならどう違うか教えてくれないかな、そろそろウチも本格的に国を樹立しようかと思って、知恵を出してくれるなら大歓迎だよ』


「田中君」

『まぁまぁ、僕らの事は後で。先ずは君の答えが聞きたいな、小林君、道徳教育と平等の監査は誰がするのかな』


《アナタに関係》

『そう怒るって事は、当ててあげるよ、取り敢えずは身内だけで何とかしようと思ってたんだよね。でもさ、監査って普通は第三者機関なんだよね、利害関係の無い第三者であるべき。じゃないと公平性が保たれているか怪しいじゃない?しかも独裁国家じゃないなら、無関係な第三者を介入させるべきなんだけど、もしかして一党独裁を企んでるの?』


《最悪は、仕方無いじゃないですか》

『そこに喜んで家族で移民する、嫁ぎに来る者がどれだけ居るのかな、36組以上孫に嫁がせられるだけの人材を揃えられる?』


《利益さえ、安全さえ提供出来れば》

『安全って、君が居る前提だよね、君が生きてる間だけ。初代が創り、二代目で傾き、三代目が潰す。売り家と唐様で書く三代目って、知らない、か。って言うか、そんな目先の利益にしか考えが及ばない者と縁組みさせるの?あ、その程度で満足する知能に抑える気かな、子供を』


《結婚が全てじゃ》

『幾人もハーレムで囲ってる人が言うと、何か複雑な心境だよね、ある意味で資源の独占をしてるも同じなんだし』


《だとしても、コレは、彼女達が》

『1つの水源を独占する事自体は、良い悪いの判断は付かない。でも世界で安心安全な水源が限られているとしたら、果てはどれだけの水源が一家に占領され、持たざる者の生活圏がどれだけ狭められるのか。あぁ、そんな事が考えられる様な教育を子にはしないのかな、君が築こうとしている国では』


《違う》

『じゃあ教えてくれないかな、僕が納得出来る答えなら、命でも何でも差し出すよ』


《アナタの命なんか、要りません》

『そう?これだけの知識や知恵を持ってる僕って、国家樹立には凄く役に立つと思うんだけど、要らないんだ』


《鈴木さんとの仲を引き裂くワケにもいきませんし》

『そうはならないとしても、要らないのかな、子供の為になるよ』


 自分に阿る味方だけ、しか受け入れたくないのは分かるよ、それこそ大きな乱数になるからね。

 けど、それだけで国が成り立つなら、向こうはとっくに平和になってる。


《もう、帰ってくれませんか》

『長居したね、また来るよ、小林君』




 確かに、僕の見通しには甘い部分が有ったけれど、僕の知能もスキルで上がった。

 それに、賛同者も居る。


 だから、大丈夫。


「ねぇ、子供達の事、確かにどうする気なの?」

《資源は有るし、教育の事も僕らで考えていけば大丈夫だよ》

『そうよね、私達はスキルで劇的に知能が上がったんだもの』


 そう、知る事さえ出来れば、どうしたら良いかが分かる。

 その筈だった。


『残念だけれど、大賢者でもアカシックレコードには触れられない、知り得ない事を活用して答えは出せない。仮にもし、そうなれば、神の領域に踏み込む事になる』


《遠藤さんでも無理なんですか》

『いや、可能だよ、けれど僕は人でありたいんだ』


 どうして大賢者の遠藤さんがその領域に踏み込まないのか、僕はもっと考えるべきだった。


 彼も結局は凡人、凡庸な人なのだと、そこで思考を止め。

 神とは何かを考えないままに、僕は踏み込んでしまった、神の領域へ。


《アナタが、神か》

『まぁ、ワシはココの神、シバッカルじゃが』

「先ずは話をしようか、小林君。是非、君の考える神とは何か、健全なハーレム運営について聞きたいんだ」


 夢の国で、そこで僕は初めて、他の神と相対した。

 でも、彼女達の見た目は、特に目の前に居る者の容姿はあまりに普通で。


《あの》

「そう、神の見た目は勿論、考え方、死生観や道徳心。神にも其々個性が有るのは、嘗て日本に居た君なら良く分かる筈。だからこそ聞きたいんだ、君が考える神とは何か、どんなものか、君はどんな神になるつもりなのか」


 僕が、もし、神になるなら。




『で、小林少年は神に昇格させたで、以降の妻達は巫女として神殿を管理するじゃろうな』

「じゃ、後は好きに楽しんで、鈴木さん」

「君は、一体」


「桜木、けど忘れてくれると助かる、あんまりメタ表現がなされる物語って好きじゃないから」

『まぁ、ワシはココにも根強くでな、どうしても困った事が有れば、呼べば良かろう』


「いやダメでしょうよ、ワシがマジでデウスエクスマキナになっちゃうじゃん」

『それが望まれたなら出すしか無かろう?』


「もしかして君はか」

「桜木、以上だ」


『全く、何処でも頑なじゃなのぅ』

「おう、もう帰る、じゃあね鈴木さん」

「あ、あぁ」


『やれやれ、相変わらずの人見知りで困るんじゃが、まぁ気は良いヤツじゃから大丈夫じゃよ』


「あの、ココは一体」

『ふむ、知らぬか、ドリームランドじゃよ。でワシはシバッカル、クトゥルフ神話の女子の守り神じゃよ』


「クトゥルフ」

『まぁまぁ、そう警戒せんで、旧神は殆ど味方じゃよ』


「殆ど」

『そりゃ性格も様々じゃし、好き嫌いも様々じゃからの、ソッチの神もそうじゃろ?』


「まぁ、確かに山の神は女を嫌う、とかは有るらしいが」

『まぁ、そう言う事じゃよね』


「はぁ」


『ふむ、お主にも銀の鍵をやるでな、遊びに来ると良かろう』

「ココに、ですか」


『先ずは、温泉郷じゃよねぇ』


 俺こそがカウンターだと思っていたけれど。

 上には上が居る、体を半ば強制的に押され、開けさせられた扉の先には。


「温泉郷」


《お、なんじゃ、随分と面白い気配じゃな》


「樹が、喋った」

《なんじゃ、お主の世界にドリアードは居らんのか?》


「いや、居るが」

《そうかそうか、まぁまぁ、入るが良い、オススメは月と瀧見風呂じゃよ》


 樹から生えた、産まれたとも言うべきだろうか。

 そうして現れた妖艶な女性に手を引かれるままに、温泉旅館へ。


 そこでアメニティを揃え、入館料を払う事に。

 けれど、俺は何も。


「すまない」

《ふむ、であれば先ずは後払いじゃな。なに、少しばかりお主の世界の事を話せば良いで、それこそ色恋沙汰じゃと、お釣りが出るかも知れんぞい?》


「その、大した事では無いんだが」

《まぁまぁ、先ずは入館が先じゃ、ほれほれ案内せい金絲雀カナリア

『いらっしゃいませ、おきゃくさま』


 黄色い羽根を持つ、翼人。

 けれど両腕には、人の腕には傷跡が。


「その傷は」

『だいじょうぶ、あえて、ありがとうやさしいまおうさま』

《ほう、魔王か、じゃからか、ふむふむ》


「アナタは、魔王を」

《まぁ、良く知っておる方じゃとは思うで、先ずは聞かせてみると良い》


「あの、女性用の更衣室は向こうですが」

《律儀で真面目なヤツじゃな、仕方無い、ほれ》


 妖艶な女性だった筈が。

 瞬きの間に、男性に。


「ココは、一体」

《広大なドリームランドの一部、クトゥルフの夢の国、じゃよ》

『だいじょうぶ、ここはあんぜんだから』


「ココ、は」

《そりゃ未開拓な領域も有るんじゃし、どうじゃ?探索者にでもなるか?》


「追々、考えさせて欲しい」

《じゃよね!》


 そうして俺は、温泉郷を満喫してしまった。

 この安らぎを皆にも、そうだ、俺は魔王なんだから温泉地を作れる筈。


 魔王の利点がまた増えた。

 まだまだ、俺は俺の事が、魔王としての俺の事は未知数なんだ。

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