第14話 オーガ軍団襲来
森林同盟六州はその日、最大の危機を迎えていた。
巨木に森に囲まれた難攻不落の国、森林同盟六州。
幼いころから巨木を登り、猿のように飛び移れるエルフにとって、巨木は庭のようなものだ。
木々の葉に隠れて、矢や攻撃魔法を発射するエルフの攻撃の前に、最新鋭の戦車や戦闘ヘリも役には立たない。
長寿を誇るエルフ達は、ティアーズ大陸の五度の危機を生き残ってきた猛者が半数を占める。
豊富を越えて熟成された実戦経験を誇るエルフ達は、巧みな動きでデマルカシオンを翻弄していた。
デマルカシオンは手詰まりだと思った。
だが、強力な現代兵器は必要なかったのだ。
この世界にいるもので十分だった。
「撃てっ! 撃ち続けろ!」
アーペリ・ハフトは人の胴ほどはある太い枝に立ちながら、部下達に指示をしていた。
部下達は次々と矢を放ち、風や水魔法を放つものもいる。
エルフの矢は強力だ。
拳銃の弾も通さない分厚い熊の頭蓋骨ですら、一撃で貫通させる威力がある。
風魔法は巨大な大木を吹き飛ばし、水魔法はウォーターカッターのように戦車の装甲さえも斬りさく。
アーペリたちの攻撃は通じない。
矢は全て叩き落とされ、風魔法や水魔法は木々に隠れてかわされていく。
この世界でも屈指の屈強な肉体を保つ人型モンスター、オーガ。
筋骨隆々の肉体を隠すことなく、パンツしかはいていない野蛮なスタイル。
そのオーガが数え切れないほどの数で、森のなかを動いている。
アーペリは目眩を覚えながらも、必死に部下達に攻撃を命じる。
命じながら、この状況を振り返った。
森林同盟六州の東部で、アーペリはデマルカシオンの戦車や戦闘ヘリを撃ち落としていた。
四度の大戦を経験したアーペリにとって、未知の敵ながらも怯むことなく立ち向かえた。
デマルカシオンの最新鋭の兵器群は東部諸国を蹂躙したらしいが、森林同盟六州の深い森ではその性能を十二分には活かせない。
戦闘ヘリは木々のうえを通過を通れば、森のなかに隠れたエルフの攻撃で撃墜された。戦車は木々の間を動かなければいけなくて、樹上のエルフたちからの攻撃で駆逐されていった。
強力な火器や高い機動性、そして高い防御力も生かすことが出来ずに撃破されていった。
武装したゴブリン達も投入されたが、森を移動しながら奇襲を掛ければ簡単に撃破出来た。
ハフト家が仕えているブロマン家ととともに、東部からの侵攻を抑えられていた。
だが、数時間前に現れたオーガたちは違った。
木々に隠れながら、強力な水魔法や風魔法を回避。
足元に落ちていた石を拾い、樹上のエルフに向かって投げてくる。
ただの石が命中しただけで、エルフの肉体は四散する。
オーガの石を投げる速度は、毎秒一千八百メートル。
これは戦車の砲弾の速度に近い。
部下達は次々と四散していく。
戦況は圧倒的に不利だ。
勝てないと判断したブロマン家の当主が、「撤退しろ! 撤退だ!」と命令を下す。
未知の敵に、無策で挑んでも無駄に命を落とすだけだ。
対策を講じ、迎撃態勢を整わなければ全滅もあり得る。
ブロマン家の当主の判断は正しい。
自分と違い、五度の大戦を生き残った歴戦の戦士らしいとアーペリーは思った。
そのブロマン家の当主にオーガの石が命中し、あっけなく命を落とす。
「当主!」
ブロマン家の当主の弟が、指揮を取ろうと声を出した。
その瞬間、投げつけられた石が、当主の弟の命を砕く。
「当主の弟君までやられた!」
「うわぁ!」
部下達に動揺が広がる。
自分のように戦歴があるものばかりではない。
デマルカシオンの最新鋭の兵器群が大したことがなかったことから、甘く見ていたものも多かった。その分、自分たちの当主が討たれたのは動揺が広がってしまった
「指揮は私が引き継ぐ! 撤退だ!」
アーペリは木に隠れながら、撤退を命令した。
ハフト家はブロマン家に仕えているが、アーペリは部隊のなかではナンバースリーだ。当主とその弟になにかあったときには、ブロマン家のものたちも指揮下に置く取り決めがされていた。
千年以上前の取り決めで活かされることはないと思っていた。
——まさか、役に立つとは。
それだけ状況が切迫しているということだ。
アーペリーは冷や汗をかいた。
戦闘で冷や汗をかくのは何百年ぶりだろうか。
このオーガたちは指揮官を判別し、狙ってくる。
自分たちの知る力が全てで、連携を考えていなかったいままでのオーガとは違う。
「ヌルミ、ハーミン、殿を務めろ! 水魔法でぬかるみを作り、時間を稼げ!」
「遊び甲斐がない。だが、やるではないか」
エルフ達の無駄のない動きを見て、オーガ達を率いるオーガシェイプは感嘆の声を漏らした。
エルフ達は引き際をよく心得ている。ただ、つまらないとも思っていた。
少しは骨がある相手がいると思っていたのだが、相手にもならない。
フィウーネ王室の生き残りが召喚した勇者というのが、少しは楽しめる相手であることを願いながら――オーガシェイプはオーガ軍団を率いて前に進む。
オーガ軍団、その数一万。
一万体のオーガが、薄暗い森を進む。
目的地は決まっている。
オーガシェイプは手にしたスマホに視線を落とす。
異世界でスマホを使うことになるとは思わなかったが、目的地に向かうにはこれ以上役に立つものはない。
デマルカシオンは人工衛星までも打ち上げているのだから、その技術力の高さには驚くばかりだ。
百メートルを超える森のなかは、光があまり届かない。
夜ではないが長時間いるとうつ病になりそうなので、早めに森のなかを抜けたいとオーガシェイプは思った。
途中、何度も攻撃された。
落とし穴に落とされたが、足の指で竹槍の先端を掴んで登った。
丸太のように太い木の枝が、転がってきたりもした。
拳で粉砕する。
いくつもの罠が張り巡らされていたが、その度にオーガ軍団は軽々と通過していく。
命を落とすものもいたが、ごく僅かだ。
そうした罠をくぐり抜け、数時間進んだ。
エルフの大部隊が四方八方から攻撃もしてきた。
枝を飛び交い、弓や魔法で攻撃してきたので、投石で対処する。
何人かの指揮官を撃破したあとに、エルフたちは撤退した。
エルフは指揮官を失うと、すぐに撤退する。
オーガシェイプとしては、もう少し粘ってくれたほうが楽しみがある。
——なにか作戦があるのか? それとも目的があるのか?
オーガシェイプはしばし考えるが、放棄する。
長寿のエルフの考えなど、自分たちにはわからない。
寿命は思考に大きな影響を与える。
時間稼ぎにしては撤退が早すぎるが、なにか策があるのかもしれない。
いずれわかることだ。
オーガシェイプは部下たちを連れて、薄暗い森のなかを進む。
やがて光が差し込んでくる。
目的地が近づいた。
森を切り開いた広大な土地が見えてきた。
オーガシェイプは木を登り、天辺から都市を見下ろした。
その全長は数百キロはあろうか。
レンガ調の建物が建ち並び、水路や畑も見える。
道路も整備されているようで、思ったよりも文明的だ。
街中のエルフたちが慌ただしく走り回っているのは、防衛の準備をしているのだろう。
森林同盟六州の都市がひとつ、タンペレだろう。
森林同盟六州で最東端の都市だ。
エルフが森を切り開いていいのかよ、と思った。
この世界のエルフは森を防衛する手段として考えている節がある。
元の世界ではエルフは肉を食べないのが常識だったが、この世界のエルフは肉を食べるらしい。農業も行っていると聞く。
――都市だからそれなりに楽しませてくれよ。
自分の目的を達成するためにも、この程度で終わるようでは困る。
オーガシェイプは期待しながら、都市の攻略戦を開始する。
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