わざとじゃないけどおねしょしちゃう少年の話 第3話

「ちょっと待て、どういうこと?お兄ちゃん分かんないなぁ」

 頭に乗っかる大きい手。優しく撫でられて、また涙が止まらなくなる。

「っっ~!」

「ははは、どうしたどうした。怖い夢でもみたか?それともトイレにお化けでもでた?」

「っ~~~ちがう!」

「そーかそーか。じゃあなんだろなー。教えてほしいなぁ」

「おね、しょした…」

「おねしょ?ああなるほど」

「わざとじゃっ、ない、でもしちゃったぁぁ…」

お兄ちゃんはひどい。僕が理由を言っても頭を撫でながら笑っている。

「なんで、わらうの、」

「いやごめんごめん。安心したんだよ。ほらおいで、お風呂行こう」

「う゛~…」


 廊下を2人手を繋ぎながら歩く。お兄ちゃんがムカつく。でも何でなのかはわからない。自分が何で泣いているのかも分からない。

「ほら、脱ぐぞー。バンザーイ」

言われるまま、泣いて頭がよくわからないまま腕を上げる。

「片方あげてーよし次、左足あげてー」

いつも一人でできるお着替えを手伝ってもらってる、何か恥ずかしい。でも、一人でできるとはなんとなく言いたくない。

 ざぁぁ…

あの日みたいにお兄ちゃんは腕と足を捲って、僕の下半身にシャワーを当てている。大丈夫、大丈夫って何度も言いながら。

 ふかふかのタオルで足を拭いてもらい、一緒にリビングに向かう。

「ココア飲むか?」

「…飲む」

「うーんと甘いのにしような」


「はい、熱いから気をつけろよー」

最近買ってもらった青いマグカップに並々注がれたそれ。

「立ちながらだったら落ち着かないだろ。ほらおいで」

「え…」

ぽんぽん、とお兄ちゃんの足の間を叩いている。

(ぼく、もうにねんせいなのに)

それでも、久しぶりの特等席に胸がどぎまぎしながら座る。

ココアを一口。甘い。

「おっきくなったなー」

頭の上に乗っかるお兄ちゃんの顎。おっきい手は僕の体をすっぽりと埋めてしまう。

「ぜんぜん身長伸びないし…おねしょしちゃったし…」

「大人でもしちゃう人はしちゃうよ。疲れてる日とか、なおさら」

「お兄ちゃんも?」

「ああ、お仕事はじめたてとか。たまーに」

「そう、なんだ…」

なんか、安心する。僕だけじゃないんだ。

「それよりもうしんどくないか?」

おでこに触れる、お兄ちゃんのあったかい手。するりと前髪をかきあげられて、気持ちいい。

する、する…くしみたいな手で何度も何度も撫でられる。

もっと、もっと…

ぐぅぅぅ…

「あ…」

空気読んでよ僕のお腹。

「そうだ、お腹空いてたんだったな。危ない危ない、忘れるとこだった。何食べようか」

「生姜やき…昨日食べれなかった…」

「んー…胃がびっくりしちゃうかもな…うどんにしとこう」

「でも…」

「お兄ちゃんが食べるよ。食べられそうだったら一枚あげる」

「うん、」

「さ、うどん茹でるまでにココア飲みきってしまえ」

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