第2話

「ふぁ…」

 朝、8時00分。あと15分で学校は始まるけど、今日は遅刻にならない。なぜなら今日は土曜日、休日だから。

 今日もアレ、しちゃおうかな…

ぼんやりとする頭で考える。イケナイ事、恥ずかしい事。でも、どうしてもしたくなる。

「んっ…」

シイィィィ…

自分の布団から、くぐもった音。おトイレには十分に間に合うけど、ここにするのだ。

「コウさん、コウさん…」

隣の布団で寝ている僕のお兄さんを呼ぶ。

「ん…ユウタ?どうした?」

「えっと…」

「またおしっこ出ちゃった?」

「…うん…」

「そっかそっか。じゃあシャワー浴びよっか」


「熱くない?」

「うん…」

ズボンの裾を上げたコウさんが、僕の濡れた下半身にシャワーをあててくれる。外では僕の汚したものが洗濯機でぐるぐる回っている音が、シャワーにかき消される。

「ごめんなさい…」

「大丈夫大丈夫。しちゃう時は仕方ないって思うこと。ちゃんと寝る方が大切だからな」

恐る恐る後ろを振り返ると、下がった目尻とかち合う。よかった、怒ってない。

「うん…」


「おいで、はいココア。ふーふーしながら飲めよ」

膝の上、ソファーは二人がけでもう一つ席があるにも関わらず、僕はコウさんの膝に乗る。回された右手、乾いたままの髪を撫でる左手。

 ああ、甘えられてる。ちょっとむず痒くて恥ずかしくて。でも大好きな時間。頭がふわふわして、あったかいココアがじんわりとお腹を温めて。朝だというのにまた、眠くなる。

「ごめんなさい…」

小さく呟いたその声は聞こえていたようだ。一瞬撫でる手が止まり、でもすぐに皮膚が揺らされる感覚。

気にするな、大きくなったらしなくなる、きっとコウさんは僕が落ち込んでいると思っている。

(違うんです。わざとおしっこしちゃってごめんなさいってことなんです)

悪いことって分かっている。だから、平日の忙しい時にはしない。

 でも、もしもわざとだってバレたら…

嫌われちゃうかもしれない、もしかしたらまた捨てられるかも。おねしょが原因でそんなことになるなんて、バカバカしすぎる。でも、やめたくない。やめられない。この温もりは、麻薬なんだ。


「んぅ…」

今日は日曜日。この前は土曜日だったから、今日は日曜日にしよう。

「ぁ、ふぁ…」

お布団の中が温かくなって、楽しみが始まるんだって心がふるっと震える。

いつものように、コウさんを起こして…

「おはよう」

すでにコウさんの目は開いていた。布団の下に手を入れられて、確認される。

「ぁ…なんで…」

寝てたはずじゃ…だってさっき目を閉じていたし…

「とりあえず風邪ひいちゃうから、先にシャワーな」

心なしか声が低い。どうしよう、バレた。

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