第42話 敵は聖都にあり

 とりあえず、捕まってた人達をみんな解放した私達は、ママが作った魔物避けの結界の中で人心地ついた。


 何でも、メラくらい強い魔物でもそう簡単に近付いて来れないくらい強い結界らしいので、安心して事情を聞くことが出来る。


「それで……やっぱりあなたが悪い人?」


「くっ……!」


 ハーフエルフの女の子や、捕まえた子たちを売り飛ばそうとしていた悪い人から順番に話を聞いていった結果、予想通り最初に違和感を覚えたエルフの男に行き着いた。なんでも、この奴隷商達に協力する形で、わざとエルフを攫わせていたらしい。


 ハーフエルフの子の家族を人質に、無理やり実行犯に仕立て上げてまで。


「ハーフエルフを利用して人攫いなんて……どうしてそんなことをした? 答えなさい」


 珍しく怒っているリーフィが、大剣の切っ先を突き付けながら問い掛ける。


 そんなリーフィに、エルフの男は「ひひっ」と引き攣った笑みを返した。


「どうして、か。そんなの決まっているだろう……? 聖都を、本来あるべき聖なる形に戻すためだ」


「ハーフエルフに罪を着せて、排斥させるのがそうだって?」


「その通りだ。穢れた人の血を受け入れたハーフエルフなど、もはや人よりも度し難い存在!! 貴様らのようなものは、聖都に生きる資格などない!!」


「…………」


 リーフィの瞳が、男の言葉で悲しそうに揺れる。


 男は男で、言葉を発するごとに黒いモヤモヤがどんどん大きくなっていて、なんというか……このまま放っておくのは良くない感じ。


 仕方ない、あんまり良くないやり方かもだけど、ここは力付くで黙らせよう。


「めっ!!」


「ぐほぉ!?」


 ばちこーん、と触手でビンタし、男にお仕置きする。


 突然の行動に周りのみんなが驚いてる中、私は更に追い打ちをかけるように口へ触手を突っ込んだ。


「ミリア!? 何してるの!?」


「なんかね、悪いモヤモヤ? が出てるから、私を食べさせたら治るかなって」


 ママにそう説明しつつ、しっかりと触手を飲み込んだところで解放する。


 結構乱暴にねじ込んだからか、白目を剥いて気絶しちゃってるけど……触手から水を出して、無理やり目を覚まさせた。


 ぱっちりと目を開けた男は、さっきまでとは打って変わり、どこかスッキリした表情になっている。


「俺は、今まで一体何を……? なんだか、悪い夢でも見ていたみたいだ……」


「自分がしたこと、覚えてる?」


「ああ……なんというか、自分が自分じゃないみたいで不思議な気分だが……覚えている」


 そこからは、特に尋問とかしなくても素直に全部話してくれた。


 何でも、聖都では今、エルフの純血を貴ぶ集会? みたいなのが定期開催されてるみたいで……そこに出てくる謎の女の人の話を聞いているうちに、ハーフエルフへの嫌悪感がどんどん溢れ出して来たみたい。


「洗脳魔法、かしら……? いえ、洗脳ほど強力じゃなくても、集団心理に干渉する何かの力が働いてるのかもしれないわね」


「じゃあ、早く聖都に行って、おかしくなってるエルフの人達を助けてあげなきゃ!」


 ママの考察に、私はふんすと鼻を鳴らして気合いを入れる。


 事件を解決して、私達は安全なエルフの友達だって示すつもりだったけど、そんな危ない洗脳が行われてるなら私達で阻止しなきゃね。


 でも一方で、リーフィはどこか浮かない顔のまま、少し離れたところで俯いていた。


「リーフィ、どうしたの?」


「うん? ……いや、ちょっとね。集団暗示系の魔法は、相手の思考を百八十度変えるような強力なものじゃないから……そんな力で聖都が染まったなら、やっぱりハーフエルフはそれだけ嫌われてるんだなって……」


「えいっ!」


「わわっ……ミリア?」


 なんだかすっかり落ち込んでしまっているリーフィに飛び掛かった私は、そのままぎゅうっと抱き締める。


 そのまま、緑色の瞳をじっと覗き込んで、にこりと笑った。


「リーフィ、私はだれ?」


「誰って……ミリアだけど……」


「違うよ。半分魔物のハーフスライム、人の敵」


「……!!」


 今思い出したとばかりに、リーフィが目を見開く。

 そんなリーフィに、それでもと言葉を重ねた。


「こんな私でも、ママとパパは命懸けでここまで育ててくれたし、村のみんなも良くしてくれてるよ。メアリーっていう友達もいる。リーフィは、私のことどう思ってる?」


「可愛い、妹分かな……」


「でしょ? だからね、リーフィもリーフィだよ。ハーフエルフでもなんでも、リーフィのこと好きな人はたくさんいるよ」


 少しでもたくさん、この気持ちが伝わるようにと、私はリーフィに頬ずりする。


 気にするなって言っても無理かもしれないけど……少なくとも、リーフィの居場所はちゃんとここにあるよって、教えてあげるために。


「大好きだよ、リーフィ」


「……ありがとう、ミリア。うん、ちょっと元気になれた」


「えへへ、それなら良かった」


 言葉通り、さっきまでよりずっと顔色が良くなったリーフィにホッとしながら、私は改めて決意する。


 リーフィのためにも……絶対に、聖都で広がってる間違った考えを正さなきゃ!

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