第27話 ジェシカとアイドル・後編

「いよいよね」


「うん...」


 今日はアイドルイベント本番


 ジェシカは緊張してそうだ。


「ジェシカ、今の衣装凄く可愛いよ」


「ありがとう...嬉しいわ」


 ジェシカの今着ている衣装がかなり可愛いので褒める。


 褒めたらジェシカは嬉しそうに照れる。


 可愛い。


「ジェシカ、私が後ろでしっかり見ているからね?だから緊張しすぎずに!」


「わ...分かったわ!」


 この感じだとジェシカは口では言えるものの、体が上手く動いてくれてない感じだ。


 それなら。


「よし...よし...」


「なっ!?」


 私はジェシカに抱きついた。


 落ち着かせるにはこれが1番良いかもしれないと思ったからだ。


「何よ...」


「へへっ...ジェシカの緊張を少しでも解せたら良いなって思って...」


 ジェシカはかなり照れている。


 が、先程よりかは緊張が解れている感じが見受けられる。


「ありがとう...助かったわ」


 ジェシカは笑顔で私を見てくる。


 可愛い。守ってあげたい。


「それじゃあ...行ってらっしゃい!」


「行ってくるわ...エリムプロデューサー!」


 ジェシカは自信満々に舞台の上に上がった。


「プロデューサー...なんか良いなぁ」


 プロデューサー呼びに喜びを感じながら、ジェシカの姿を舞台の裏から見守る。


「皆さんこんに...」


 ジェシカが挨拶の途中で止まってしまう。


 一体何があった?


「ジェ...ジェシカで...」


 ジェシカの足が震えている。


 まずい。


 多分、観客がかなりいるのでそれを見て再び、緊張してしまっているのだろう。


 今日まで頑張ってきたんだ。


 私がなんとかしなければならない。


「ジェシカです...今日は...」


 ジェシカが泣きそうになってしまう。


 そこで。


「...えっ!?」


 急いで私が許可を貰って観客席の方まで移動して手を上げる。


「っ!」


 本当はジェシカの名を呼びたいが、会場の観客が疑問を抱いてしまう可能性があるので無言で手を上げ続ける。


「エリム...」


 ジェシカは笑顔になる。


 これで大丈夫だろう。


「皆さんこんにちは。ジェシカです!今日は、よろしくお願いします!」


 ジェシカは何事もなかったかの様に歌い、踊り始める。


 今のジェシカはとても楽しそうだ。

顔から見て分かる。


 そして。


「ありがとうございました!」


 ジェシカは歌い、踊り終えて観客に礼を言う。


 反応は拍手喝采だ。


「あぁ...楽しかった」


 ジェシカは私がいる舞台の裏に来た。


「それは良かったよ。ジェシカ、凄い頑張ったし私、ちょっと泣きそうになった...」


「そんなに!?」


 練習から私はずっと頑張るジェシカを見てきた。


 それが今、多くの観客の前で発揮されたのだ。


 私は見ながら泣いてしまいそうになっていたし、今も泣きそうだ。


「ふふっ...エリム、ありがとう」


「そろそろフィナーレだよ」


 イベントの最後は出場者が集まって挨拶する場がある。


 そこでスカウトの人から声が掛かればアイドルとしてデビューすることが可能になる。


「行ってくるわ」


「ジェシカ、行ってらっしゃい」


 この後、どうなるかは私には明確には分からない。


 でも、ジェシカは最高のパフォーマンスを披露したので声が掛かりそうな気がする。


「それでは本日の出場者の皆さんから1人ずつ、挨拶をしてもらいましょう。出てきてください」


 司会者がそう言うとジェシカを含めた出場者が次々と舞台の上に立った。


 出場者が次々と挨拶をしていく中、遂にジェシカの番が回ってきた。


 「ジェシカです!皆さん。本日はご来場、そして私のパフォーマンスを見ていただき、誠にありがとうございました」


 挨拶は完璧だ。


「私はある友達と一緒に今日、この日まで歌とダンスの練習をしてきました。大変でしたが、その友達は常に私を励ましてくれたので今日まで頑張ってこれました。そして、最後まで披露できたのも、観客の皆さんが最後まで見てくれたからです。皆さん、本当にありがとうございます」


 掴みも完璧だ。


「そして、この場を通して私は気づきました。誰かと何かに挑戦する。それは、この先生きていく中で一生の経験になり、自分のこれからの挑戦の支えになることです。私はこの場を機に、友達との友情、そして誰かへの感謝の気持ちをずっと大切にしていきたいと思いました」


 噛まずに長く話せている。

正直凄い。


「皆さんも自分が挑戦したいことがありましたら、勇気を踏み出して挑戦してみてください。きっとその先の経験に活かせられるはずです。本日はありがとうございました」


 ジェシカが話し終えると観客は全員、拍手した。


 その後


「エリム!終わったよ!」


「お疲れ様っ!」


 ジェシカが私の方に来て抱きついてきた。


 そして。


「ジェシカさん、お話よろしいでしょうか?」


 謎の人物がジェシカに話しかけてきた。


「はい。なんでしょう?」


 ジェシカは聞く。


「ジェシカさん。フロンティア学園卒業後、アイドルの仕事、しませんか?」


 謎の人物はスカウトの人だった。


 ジェシカには来そうと思ってたが、やはり来た。


 ジェシカはアイドルになるのだろうか?


「お話、ありがとうございます。けれど、私には夢があるのでお断りさせて頂きます。誘ってくださり、ありがとうございました」


 まさかのジェシカは断った。


「良いのですか?」


 スカウトの人は確認する。


「はい。私にはまた違う夢がありますので...アイドルのお話は別の子にしてあげてください。ですが、誘ってもらえたこと自体は嬉しかったです。ありがとうございました」


 ジェシカは断ったが、礼を言った。


「...分かりました。その夢、叶うと良いですね。では」


 そうしてスカウトの人は去って行った。


「良かったの?」


 アイドルの話を断って良かったのかとジェシカに聞く。


「えぇ。私は良いのよ」


「そっか」


 ジェシカの顔からして悔いはなさそうなのでこれ以上は聞かないでおく。


「エリム!帰りに何か食べてかない?」


「良いね!行こっか!」


 そうして私とジェシカは外食を食べにレストランに行ったのだった。

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