第41話
春の暖かな陽射しが学園の庭を包み込む中、ストバード魔法学園の広大な講堂は新入生たちの期待と緊張に満ちていた。天井には魔法で施されたきらびやかな星々が輝き、床には校章を象った巨大な紋様が描かれている。どこか荘厳な空気が漂うその場に、新入生たちが一列に並んでいた。
僕はその列の中に立ちながら、広大な講堂の風景を見上げていた。
壇上には、学園の理事長を務める威厳ある老魔導士が立っていた。白く長い髪と髭、そして高くそびえる魔術帽が彼の長い歴史を物語っている。理事長は生徒たちの視線を一身に受けながら、ゆっくりと口を開いた。
「諸君、ようこそストバード魔法学園へ。我が学園は、歴史と伝統の上に築かれた魔法界の中心たる場所だ。そして君たちは、これからその一部となるのだ」
「ここでは君たちが自身の限界を超え、真の力を磨くためのすべてを提供する。我々が思う真の力と言うのは、力だけではない。知恵、勇気、そして仲間と共に歩む意志だ。学園の教えを胸に刻み、己を高めよ」
理事長はその後も話続けていたけれど、僕の耳にはほとんど入ってこなかった。ただ、似たような内容の事を長々と話していた。
★
入学式が終わり、僕はソフィア様と一緒に廊下を歩きつつ、次の予定について話していた。
「気に入らないわね」
「そんな……実際正当な評価じゃないですか?」
「そんな訳ないじゃない、私がクラスSでコハルがクラスBなんて」
先ほど配られた用紙には自分が所属するクラスが書かれてあった。
格クラスの基準はこうらしい。
Sクラス: 圧倒的な実力を持つトップ生徒たちのランク。魔法学園の精鋭。
Aクラス: 高度な魔法スキルを持つ生徒たちのランク。学園の中核を担う存在。
Bクラス: 基本をしっかり押さえた平均以上の実力者たち。
『ランクは常に見直され、定期的な試験や模擬戦を通じて昇格や降格が行われる』とも書かれていた。
「……速く上がって来てね。待ってるから」
ソフィア様がそっと僕の手を握る。
「やれるだけやります……」
(ソフィア様、僕が魔法使えない事……忘れてないかなぁ)
そんな考えが頭によぎったが、口に出すことはできなかった。
★
その後ソフィア様と別れて僕はクラスに向かった。
始めての道に戸惑い、道に迷っていると突如後ろから声をかけられた。
「おい、そこの淫魔」
「ひゃ、ひゃい」
突然の出来事に僕は変な声を上げてしまった。
後ろを振り向くと、そこには気品あふれる少女が立っていた。
赤い瞳がこちらを鋭く見据え、長く美しい金髪が廊下の光を受けて輝いている。
豪華な刺繍が施された赤黒のドレスが、彼女の威厳をさらに際立たせていた。まるで王族のようなその姿に、思わず息を呑む。
「迷った。道案内をしろ」
彼女は当然のように命令を下した。
「えっ?」
状況が飲み込めず、間抜けな声を漏らす僕を見て、少女は僅かに眉をひそめる。
「聞こえなかったのか? Sクラスの教室まで案内しろと言っている」
「え、えっと……」
僕は困惑しつつも、彼女の言葉を整理する。
Sクラスの教室? それなら、ついさっきソフィア様と歩いた道の途中にあったはず。
「え、ええと……分かりました、付いて来て下さい」
僕はそう言って、彼女に背を向けて歩き始める。すると彼女は何も言わずに僕の後ろに付いてきた。
「あの……名前は?」
沈黙に耐えかねて僕がそう尋ねると、彼女は少し間をおいてから答えた。
「……なぜ答えなければならない」
「ん……」
余りにも冷たい返事に僕は思わず息を詰まらせる。
「あ、あのですね。僕は仮にも道案内をしているんですよ。貴方は聞く立場なんですから、せめて名前ぐらいは教えて下さい」
僕は出来るだけ穏やかにそう話しかける。すると彼女は小さく舌打ちをした後口を開いた。
少女の赤い瞳が鋭く細められ、僕を睨みつける。
その視線には疑問と僅かな不快感が滲んでいた。
「貴様……私に口答えをするのか?」
彼女の声が一段と冷たくなる。
まるで僕が犯してはいけない大罪を犯したかのように。
彼女はゆっくりと一歩前に出て、僕の正面に立った。
「跪け、そして誠心誠意謝罪を知ろ。そうしたら許してやる」
「え?……お、お断りします!」
何が起こってるの、この人怖いんだけど。
ゼ、ゼラ!
『恐らくこいつは吸血鬼です、それも位の高い。一つ説明を』
『淫魔は吸血鬼の劣等種であり優れた血を持つ吸血鬼は力の劣る淫魔や吸血鬼、血を与えた人間などに命令を下せる能力を持っています』
『また吸血鬼は淫魔を見下す傾向があります』
僕が彼女の命令を断った瞬間、彼女の赤い瞳が驚きに揺れた。
「……は?」
冷たい声がわずかに揺らぎ、彼女はまじまじと僕を見つめる。
「お、お断りしますって言いましたけど……」
僕はもう一度、はっきりと拒否の言葉を口にする。
「…………」
彼女は眉をひそめ、静かに僕を見つめ続ける。そして、すっと細い指を動かし、まるで何かを確かめるように軽く空を払った。
(……な、何?)
まるで僕に“命令”が効いていないことを確認するような仕草だった。
「……なるほど」
彼女は小さく息を吐くと、瞳に冷ややかな光を宿して僕を見下ろした。
「貴様、本当に淫魔なのか?」
「え、ええと……まあ、一応」
「ならば、なぜ私の命令が効かない?」
彼女はじっと僕を睨みつけながら、疑念を口にした。
『コハル様が、こんなチンチクリンより強いからですよ』
ゼラの冷静な声が脳内に響く。
(いやいや、言い方……! まあでも、僕がこの人より強いから命令が効かないってことか)
「……貴様、一体何者だ?」
吸血鬼の少女は腕を組みながら僕を値踏みするように見つめた。
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