第25話:当主との対面

重厚な扉が開かれると、静寂が広がる広間があった。

足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。

結界の緊張感、そして――そこに座す一人の男の圧。


部屋の最奥、玉座にも似た椅子に腰掛けるのは、焔木家の現当主――焔木宗真(ほむらぎそうま)。


長い髪を後ろで束ね、端正な顔立ちに鋭い眼光。

しかし、その表情に怒気も嘲りもない。ただ静かに、真を見抜く者の目をしていた。


「……よく戻ったな、海人」


宗真の声は低く、静かに響く。

それだけで、空間が揺らいだような錯覚すら覚える。


海人は一歩も引かず、宗真を真正面から見据えた。


「生きて帰った。それだけで、十分な報告だろう」


「――そうか」


宗真は口角をわずかに上げる。

微笑のようでありながら、その奥にあるのは試すような視線。


「三ヶ月。あの夢幻島で何を得た?」


「……力。心氣顕現。そして“俺の立場”だ」


「面白い答えだ」


宗真の背後には数名の長老たちと重鎮、そして焔木家の記録官も控えていた。

皆が静かに海人を観察している。


「お前は六年前、内紛の芽と判断され、幽閉された。それに異議を唱える者も、少なくなかった。……だが、お前の父――厳山ですら、その処分を覆せなかった」


「それを、今さら持ち出すつもりか?」


「否。これは“確認”だ。お前がこれからどう生き、何を成す者なのか。焔木の長として、見極めるためにな」


海人の瞳に、炎が灯る。


「俺は、焔木など興味はない。俺は“焔木海人”という存在を、ただ世界に刻む。それだけだ」


「ならば問おう。お前はこの一族に帰属する気はあるのか?」


「――ない」


言い切った。


その瞬間、長老の一人が立ち上がる。


「不敬千万! 一族の恩を忘れ、帰属を否定するなど――!」


だが宗真が手をあげ、静かに制した。


「落ち着け。……言葉は慎重に紡がれた。感情ではなく、意志としての“否定”だ」


宗真は少しだけ身を乗り出し、真正面から海人に言葉をぶつける。


「では、なぜ戻った?」


「一族に屈服するためではない。“力”を見せるためだ。――そして、その力が必要だと認めるなら、俺を使え」


「使わせる代わりに、何を求める?」


海人は一瞬沈黙した後、静かに言い放った。


「“腐った焔木”を、俺に切らせろ。俺の力で、この家を壊す」


室内に緊張が走った。

重鎮たちの氣が高まり、何人かが立ち上がる気配すらあった。


だが宗真は、口元に笑みを浮かべた。


「……ならば、まずは力をみせてみよ」


宗真は手を叩き、扉の奥から数人の武装した者達が現れた。


「魔獣を1体捕獲してある。試しにお前の“価値”を見せてみろ。言葉ではなく、力で語れ」


海人は、ふっと鼻で笑った。


「いいだろう。望むところだ――」


その目が紅蓮に染まる。



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