第28話 新天地
「———お前には此処に行ってもらう!」
「…………俺に、ですか?」
母親を殺した1週間後。
俺はゲイルに呼び出されて、とある依頼を押し付けられていた。
気持ちの悪い笑みを浮かべたゲイルと、露骨に顔を顰める俺。
「何だぁ? この俺に逆らうのかぁ?」
「だってそこ……不毛の地じゃないですか」
俺が押し付けられた依頼は、不毛の地として知られる『名も無い盆地』に現れた蛮族の制圧だった。
しかし、問題はそれだけじゃ無い。
あの場所には不毛の地となった原因でもある『魔人の封印された祠』と呼ばれた、かつて1つの国を滅ぼした強大な魔人が封印されている。
まぁそもそも蛮族が強くて戦いたく無いと言うのもあるが。
そんな依頼を何故俺がゲイルに押し付けられているかと言うと……。
「これは当主命令だぞぉ? お前にそもそも受け無いと言う選択肢はないんだ!!」
「……チッ」
そう、これは当主から俺への命令であった。
何でも、自分の側室を殺したのだからせめてもの償いをしろ、だそうだ。
ぶっ殺すぞクソ親父が。
どんな場合でも介入しねぇんじゃなかったのかよ。
何て思うが……流石に今の俺ではまだバルガスは倒せない。
15歳になれば、まぁ命を賭けてやっと倒せるくらいか。
「……はぁ、分かりました。直ぐに出発しますよ。あ、この前魔法を暴発させて泣いていたのは黙っておいてあげます」
「っ、おい!! お前———ちょっと待て!!」」
顔を一気に真っ赤にして怒鳴るゲイルを他所に、俺は早速準備を始めることにした。
「———えっ……? 本当に名も無い盆地に行くのですか!?」
「ああ、当主からの命令だとよ」
俺がサーシャに報告すれば、素っ頓狂な声を上げて目を見開いた。
まぁ流石にそんな反応にもなるか。
それほどまでにこの世界では『名も無い盆地』が恐れられていると言うことだ。
「い、イルガ様、流石にその依頼はやめて置いた方がいいですよ! それに、依頼では蛮族と戦うんですよね? 幾らイルガ様が強いとは言っても……今回は絶対に私は反対ですからね!?」
まさかあのサーシャが此処まで反対するとは流石に予想外だな……。
これは少し困ったことになった。
今のサーシャの勢いなら『当主様にこの依頼を取り止めてもらうようにお願いしましょう!』と言いかねない。
まぁだが、サーシャの言うことも全然間違っていないんだよな。
「イルガ様!」
「サーシャ、落ち着け」
「……っ、申し訳ございません……」
俺に肩を掴まれ、正気に戻ったのかしゅんとするサーシャ。
そんな彼女には申し訳ないが、今回の依頼……当主命令を除いても決して逃せない。
さっき渋ったのは、ゲイルが傲慢的に言ってきたのが癪に触っただけだ。
因みに封印されている魔人だが……ソイツ自体は、メインストーリーに関わることのない、謂わばサブクエスト的な立ち位置だ。
しかし、ソイツを倒した時の報酬は、正直言って物凄く欲しい。
何てったって———精神力強化値ゲーム内最強のアイテムが手に入るからである。
今の俺の唯一の弱点と言ってもいいのが精神攻撃で、下手すれば精神攻撃を与えるモンスターの中でも最弱のレイスにすら負ける。
あれは幾らチートボディといえど何とも出来ない代物なので、この際珍しい精神力強化のアイテムを手に入れておきたい。
まぁ、その魔人も精神攻撃を繰り出してくる相手なのだが。
「……イルガ様?」
俺が考え込んでいると、サーシャが訝しげに俺を見ているのに気が付いた。
取り敢えず俺は適当に誤魔化す。
「いや、何でもない。———兎に角、今回の依頼は受けるぞ。なに、俺にも利がある」
「……分かりました。イルガ様のご意志となれば私に異論はありません」
サーシャはまだまだ言いたいことはあるようだが、渋々と言った感じで引き下がる。
まぁこれ以上は俺も言えないのだが。
「ですが、私達2人ではその依頼は難しいと思いますよ?」
「いや、俺達2人ではやらないぞ」
「え? ———あ、もしかして……」
「そのもしかして、だ」
俺の意図を直様理解したらしいサーシャに俺はニヤリと笑みを浮かべる。
「———師匠とセニア、2人とも巻き込むぞ」
丁度師匠には魔力のことについても文句が言いたかったしな。
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