悪役一家の末っ子に転生した俺、家族を守るために破滅フラグをぶっ壊す

おとら

第1話 転生?

 ……ふぅ、疲れたな。


 仕事が終わり、日付が変わるくらいに帰宅する。


「まずは挨拶っと」


 簡易的な仏壇の前に座り、静かに手を合わせる。

 そこには両親と兄と姉、そして末っ子の俺の五人で撮った家族写真がある。

 その中で八歳だった俺だけが、成長していた。


「あの事故から二十年近くか……早いようで長かったような」


 二十年ほど前、俺たち家族は旅行に行った。

 楽しい時間を過ごして、後は帰るだけになり……その帰り道で交通事故にあった。

 逆走してきたトラックに正面からぶつかられたのだ。

 その際に相手の運転手と、俺以外の家族は亡くなった。

 兄さんと姉さん、父さんと母さんは俺を守るように覆いかぶさっていたらしい。


「俺はそのおかげで生きている。ただ、情けないことに合わせる顔がない」


 生き残った俺は悲しみのあまりふさぎ込んでしまった。

 学校にもほとんど行けず、どうにか中学に上がったが友達も出来ずに卒業。

 保険金などもあったが、よくわからない間に親族に盗られていたり。


「その後は就職をして、ただ流されるように生きてきた」


 というより、考える時間もなかった。

 中卒の俺に出来ることなど肉体労働系がほとんどだったから。

 その後どうにか資格を取ったりしたが、結局はブラックな会社に勤めることに。


「一応、こんなんでも彼女とかいたんだよ? って、この話は聞き飽きたか」


 結婚を考えた恋人もいたが、結局長続きもしない。

 理由はわかってる……大事な人を作るのが怖いんだ。

 家族を作っても、また失うのではないと。


「だから人とも深く関わることも出来なかった……ごめん、同じ話ばかりで。大丈夫、どうにかやってみせるよ」


 うん、こんなんじゃダメだな。

 とりあえず、風呂にでも入ってスッキリしよう。

 そう思い立ち上がるが、身体がおぼつかない。


「……っ」


 気がつくと、俺は地面に突っ伏していた。

 そして、そのまま意識が沈んでいく……。


 ◇


 ……俺は一体?


そうか、確か倒れたんだっけ?


過労だろうか……まあ、働き詰めだったし無理が祟ったか。


 平日は終電近くまで働いて、休日は食べ過ぎて死んだように寝るだけの生活だったし。


 とにかく、風呂に入らなければ……あれ?


「ぁぅ……」


 なんだ? 身体が動かない?

 それどころか、目すら見えない。

 すると、誰かの気配がした。


「あら、セリスが起きたみたい」


「なに? どれどれ……」


「オレも見たい!」


「私も見るわ!」


 次々と声が耳に入る。

 というかセリスって誰?

 すると、今度は誰かに持ち上げられた。


「セリス〜ママですよ〜」


「パパだぞ〜」


 パパ? ママ? ……これって。

 混乱していると、誰かに手を握られる。


「お、お兄ちゃんだぞ! おぉ……小せえ」


「お、お姉ちゃんよ! わぁ……お手手小ちゃい!」


「ふふ、赤ん坊なんだから当たり前よ。二人も、昔はこうだったのよ?」


「そうだったな。いやはや、月日が経つのは早いものだ」


 ……

 状況的に考えて、おそらくそうだろう。

 それなら身体が動かないことも、目が見えないことも理解できる。

 つまりは……転生して、新しい家庭に生まれたということか?


「なあなあ! オレも抱っこしたい!」


「なに言ってるの! 次は私よ!」


「こーら、喧嘩しないの。貴方達はお姉ちゃんとお兄ちゃんになるのよ」


「そうだぞ。年が離れてるし、二人が守ってやらんと」


「わ、わかった!」


「はーい!」


 そして、交互に抱かれていく。


 すると、なんだか暖かい感覚に包まれる。


 それは……愛されているという感覚なのだと、無意識のうちに理解した。



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