第38話 ダゴえもん
「そうなんですか? 廃墟としては有名ですが、心霊スポットであると聞いたことは無いですね」
「……それでも、確信があるんだね?」
「ああ」
根拠と言えるほど科学的なものはない。
だけど――
「俺は最近、悪夢に悩まされてきた。その舞台は、いつもそのミラーハウスだったんだ。そこをさ迷っていたら、生首が飛んで来る夢……」
思い出すだけで、体が冷えて来る。
指先がちりちりと痺れる。
「でも、柳谷君は夢だと思っていないのですね?」
「ああ。前になかちゃんがどうのって言っただろ、あれだよ。俺自身忘れていたが、ずっと昔、子どもの頃に閉園後のザンギリこどもランドに忍び込んだことがあるんだ。そこで、実際に幽霊を見た。だから、一度思い出したら溢れ出すように、毎日悪夢を見るようになったんだ」
特に今日は注意して寝たせいか、よりはっきり思い出すことができた。
間違いない。あれは現実だ。過去にあったことだ。
思い出してしまえば、なぜ忘れていたのかと思うほど、鮮烈な記憶だった。
人間は悪いことの方が記憶に残りやすいと聞くが、そのレベルを超えて記憶を飛ばしたのかもしれない。
そうでもしないと、子どもの精神では生きていけないから……。
「しかし不思議ですね。なぜ生首なのでしょう? 今日び、落ち武者の幽霊の話なんかも聞きませんが……首なしライダーの首とか?」
「いや、マネキンみたいに見えて顔ははっきりしないが、少なくとも男じゃなかったな……だけど、そうだな。考えてみれば、現代で生首なんてヘンな話だ。よっぽど特殊な事故でもなければそんな状態にはならないだろうし……」
言われるまで気づかなかった自分に驚く。
怪談で生首は定番だが、昔は打ち首が普通にあったからそれも当然だ。
だが、現代の怪談ではめったに聞いたことがない。
「それに、はっきり覚えている夢の中で、なぜあの生首だけはぼんやりとしているのか……」
「なぜでしょうね? だいいち首が落ちるような事件なんて心当たりが……いえ、そういえば10年ほど前に聞いたような気がします」
「え?」
「ええ、ある宗教団体がギロチンで集団――」
「ストップ。話が逸れてきたよ。それは後でいいだろう。陽が沈んでしまっては、ボクたちにも捜索願が出て大事に成りかねない。ミラーハウスに乗り込む準備を始めるよ」
「そ、そうか」
正直、喉にものがひっかかったような消化不良感はあるんだが、霊子の言うことはもっともだ。
「まずはこれを我が助手に」
三色団子は布団から丸いものを取り出した。
野球ボール大の、銀色に輝く金属球だ。
「なんだこりゃ」
「まぁ、奇麗なタマタマですね」
「もうわざと言ってるだろ!!」
「なんのことかわかりませんが」
委員長はほっといて確認してみたが、わざわざ野球ボールの縫い目に似た刻印があった。
俺も中学は野球部だったしピッチャーだったから、手に馴染むサイズだ。
「鉄の野球ボールなんかなんのために作ったんだ?」
「5Qの改良版さ。せっかくなんで見た目も剛球に寄せてみたよ。名付けて【25Q】(にごうきゅう)といったところかな」
「ってことはこれをぶつければ捕獲できるってことか……なんかゲームみたいだな」
ボールでモンスターを捕まえていく感じの。
「いや、これはあくまでマーカーなんだ。それにこれで撃つんだよ」
差し出してきたのはちょうどバズーカの砲身を前後に切り取って無理やりピストルにしたような、不格好なものだった。
「流れで受け取ったが、これ合法のやつなんだよな……?」
「無論さ。これはレールガンだからね。火薬を一切使わないし、銃刀法には抵触ないよ」
それは法の穴を潜り抜けてるだけじゃないのか。
っていうかサラッとやべーもんを軍に先駆けて実用化してんじゃないよ。
だいたいレールガンという割にレールとなる銃身も短いし、また常識外れの超科学なんだろうな……。
どんどんドラえもんじみて来るなコイツ。
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