第29話 バーサーカーすぎる

「最先端科学に、倫理が追い付くのはいつだって後からなんだ。なにせその概念自体がまだ無いからね。気にすることはない。それはボクが世界を書き換えてから考えたらいいんだ」


「お前くらい前向きに考えられたら楽なんだがな……」


「天才とはそういうもの……ぐぅ……」


 話の途中で寝やがったが、今回ばかりは仕方ない。


 怒涛の時間だったからな……逆に今までよく起きていたというところだろう。


 立ったままの睡眠で倒れられても困るので、とりあえず背負う。


 5Qはキャリーバッグ形態に戻しておいたから、押して行けばいい。


「さぁ、帰りましょう」


「おう……ってソレは置いていけ」


 委員長は大人のおもちゃを握ったままだ。


「ああ」


「遊園地のチュロス感覚で大人のおもちゃ持ち歩くなよ……」


「失礼な。普通に持っていることを忘れていただけです。しかし、持ちやすいですねこれ」


 振るな。遊ぶな。


「あと、ちゃんと服着て」


「本当にいいのですか? チラリズムチャンスですよ?」


「……それは自分で言うことじゃないだろ……」


「そうですね。今は背中のおっぱいの感触を楽しみたいでしょうし」


「馬鹿野郎!! 意識しないようにしてんだよ!!」


 こいつ本当に最悪だな!!


 三色団子だと思ってるから背負えるんだよ!


 女子だと意識したら、挙動不審になるだろうが!!


「ふふっ、そういうところ、いいと思います。性欲が全くない男子高校生なんて、むしろそっちの方が怖いです。それを強がって我慢する男の子、私は好きですよ」


 にかっと笑った彼女の笑顔は、ヘッドランプの貧弱な明かりの中でも輝いて見えた。


 ギャップを見せるなよ!! 情緒が滅茶苦茶になるから!!


 というかあの怖すぎる笑顔と全然違うし、もしかしてあれふざけてたのか!? わかりにくすぎるんだよ!!


「と、とにかく帰るぞ」


 委員長の着替えを待ち――布団は委員長が持ってくれた――、廃ラブホを後にした。


 ちなみに委員長は、よりによって制服のまま来ていたことが発覚。


 懐中電灯は服と一緒に置いていて、なんでも学校帰りに家から持ってきていたものらしい。


 そのくせ着替えてないのはバーサーカーすぎる……。


 そんな狂戦士は気にしないだろうが、俺は廃墟とは言え、出るときに誰かに見られたらと思うと気が気じゃなかった。下手すると幽霊より怖がっていた気がする。


 そんな自分に気づくと無性におかしくなった。


 あれほど怖かった夜の闇よりも、幽霊よりも、世間体を怖がっている自分が居る。


 これは進歩なのだろうか。


 ただ今日は、悪夢は見ないだろう。


 あくまで肌感だが、そんな気がする。


 だが、やたらエロい夢を見てしまい、朝からもんもんとする羽目になるんじゃないだろうか。


 それはそれで解決なのだろうか?


 そんなことを考えつつ、家路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る