第10話 ゆれてる
リバースドアスコープを使って覗いた部屋の中は、光が見えた。
ぎぃ、と音が聞こえた気がした。
部屋の中に光を遮る存在があった。
ぎぃ……。
ぎぃ…………。
ぷら、ぷら。ぷらり。
何かが揺れている。
それは、人影のように見えた。
ぎぃ、ぎぃ……。
人影の首から何かが伸びている。
それは上のほうにつながっている。
ぎぃ……。
人影の
足元が
足が
足が
浮いている。
ぷら、ぷらり。
わずかに人影の身体が揺れている。
嘘だ。
オレは、ソレ(・・)が何であるか理解できなかった。
いいや、理解したくなかった。
もし、もし本当に桑名だとしたら。
彼だとしたら……!
そんなことが、あるわけない。
あっていいはずが、ない。
は、はっ……。はぁ、はぁ……。はっ……。
呼吸が、安定しない。
胃の奥から何かがせりあがってくる。
「う、うえ……」
げぇ、と戻した。
吐しゃ物が桑名の家の前に落ちた。
「あ、ああ、あああああああ!」
オレは頭を押さえて叫んでいた。
違う、こんな、叫んでる時間なんかない。
オレは口元を手で拭って、ドアに肩でぶつかった。
ぶつかる。
ぶつかる。
ぶつかる。
激しい音がする。
しかしドアはびくともしない。
桑名。桑名。桑名。
まだ間に合うかもしれない。
隣の部屋から男がでてきた。
「なあ、あんた! 何してるんだ!」
オレは男を押しのけて、男の部屋に上がり込んだ。
「おい!」
叫ばれた。
オレは震える声でいう。
「な、中で人が、人が、死んで……」
「あ?」
「いや、死んでるはずがない……! でも、首、首を、つってる。はや、く、たすけなき……!」
男の部屋を通り過ぎ、ベランダへと出る。
「おい、まて!」
男が追いかけてくる。
「たすけ、なきゃ……!」
オレは隣の部屋へと続く仕切り板をけ破った。
「おまえ!」
後ろから男が迫る。
オレはベランダから中へ入る窓を開けようとする。
鍵がかかっていた。
オレは肩を男に捕まれながら、エアコンの室外機を持ち上げ、窓に向かって投げた。
ガラスの割れる激しい音がする。
カーテンをめくる。
部屋は壁に直接異様な落書きがされていた。
ゴミもたまっている。
その中央にいた。
狭い部屋の中央に近い位置に、オレの友人、桑名はいた。
嘘だ。
ぷら、ぷらり。
ぎぃ、ぎい……。
顔は膨張して紫色。不快な匂い。床には何かの液体がたまっていた。
首からは天井に向かってロープが伸びている。
以前はシーリングライトが取り付けられていた位置に縄は固定されていた。
足元には倒れた椅子があった。
嘘だ。
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
桑名。
嘘だろ。
後ろで隣室の男が息を飲む音がした。
「桑名ァ!」
倒れていた椅子の上に乗って桑名を下ろそうとする。しかし、結び目が硬くて外れない。
キッチンへ向かった。
キッチンから包丁を持ってきて、ロープを切ろうとする。なかなか切れない。
ぷつり。
ロープが切れた。
次の瞬間、桑名が床に落ちて、どちゃ、というより、べちゃ、という水音交じりの音がした。
「桑名! ……桑名!」
オレは桑名の体をゆする。
しかし、桑名は何も答えない。
「なんでだよ! なんで、なんで――!」
桑名は何も語らない。
ただ、そこに、桑名だったものがあるだけだった。
オレは床に崩れ落ちるようにして、膝立ちになった。
嘘だよな、嘘だろ桑名。
やめろよ。
どっきりだろ? そうだろ? これはよくできた偽物だろ?
しかし、きつい匂いが部屋に充満している。
オレの頭以外の感覚のすべてが、これは本物だと主張していた。
しばらくして、隣室の男が通報したのか、サイレンの音が聞こえてきた。
桑名は何も言わず、ただ、ずっとそこに在るだけだった。
警察が到着する、
「こちら警察です。何が起こったんですか?」
別の警官が無線に口を当てる。
「緊急事態が発生しています。すぐに救急隊と鑑識を派遣してください。住所は――――状況は――」
警察の声は、桑名の死をオレに思い知らせるようためのもののように聞こえた。
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あとがき
ここは読み飛ばしてくださって結構です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
カクヨムコンというコンテストに出させていただいております。
よろしければ、★やフォローでの応援をよろしくお願いいたします。
この作品はフィクションであり、実在の人物・団体などには何の関係もありません。
なお作中で行われている行為は現実で行うと犯罪として処罰されるものがあります。
絶対に真似しないでください。
もちぱん太朗。
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