第78話 世界を見に行く物語へ……

 城塞都市シフィドツカを離れながら、俺たちは自己紹介を済ませた。


 暗黒騎士のような鎧を脱ぎ捨てたアドリエン・カザルティは、俺が通りがかるのを待っていたそうだ。


「普通に立っていたら、モンスターの幹部みたいに扱われた……。もう幹部でいいだろ?」


 両手を上げたアドリエンは、抗議する。


「心外だね? これでも、ボクは平和主義者さ……。しかし、参ったね! これじゃヤンスエナ帝国も長くないかな?」


「国に帰らなくて、いいのか?」


「いいさ! ボク1人がいないぐらいで滅びるのなら、その程度……。君の用事に付き合ったら、どこかのタイミングで顔を出してみるけど」


 俺は、次のメンバーに声をかける。


「アマスティアは?」


「学院をクビになったから、あなたに会いに来た! 故郷の森は、同胞が勝手に守るでしょう」


 次に、ルイーゼロッテ・フォン・ホルムを見る。


「ホルム侯爵家には、もう顔を出さないのか?」


「ええ、そのつもりよ! 目をつぶって選んだ婚約者との式をすっぽかして、お父様はさぞや怒っているでしょう。……それより」


 ジト目になったルイーゼロッテは、俺にくっついている望乃ののを見下ろした。


 子供のような姿だが、小人族としての大人。


「聞いていたけど、本当にロリね!」

「望乃は、大人です! ジンと話したければ、妻である私を通してください」


「あなたみたいな子供は、引っ込んでなさいよ!」

「望乃が、一番ジンを理解しているんです!」


 姉妹みたいな2人が喧嘩を始めた。


 我関せずのアドリエンが、突っ込む。


「止めなくて、いいのかい?」


「気が済んだら、やめるだろう! 変に止めるほうが、こじれる」


「見ている範囲でやらせたほうが、マシか……。フェルム王国のランストック伯爵領は外れも外れだね? まさに開拓地だ。勇者の発祥とは、ボクも聞いたことがあるが」


 こんなことなら、もっと真面目に調べておくべきだった。とうそぶいたアドリエン。


「ところで、ジン? ボクも、つい最近になって魔法を使えるようになったらしい」


 片手をすくうように上げれば、手の平に小さな炎。


 誰もいない地面に投げ捨てれば、じきに消える。


「これを福音と見るべきか……。今後は、魔法を使えるかどうかで差がつく。当たり前だが、さっきのようなモンスターも使ってくると考えなくては」


 アマスティアが、興味深そうに参加する。


「精霊術とは、違うわね? 世界が大きく変わるなら、どこかで隠れ里を築いて、落ち着くまで待つのも一つの手よ? 今の私たちは自由だから、世界を救う義務はない」


「道理だね……。大混乱に陥るのは避けられないし、多少は戦えるボクたちに押し付けられても困る。ボクが魔法を使うとしても、白兵戦を有利にするぐらいだな」


 アドリエンが何かを思いついたように、話題を変える。


「女神が眠りにつき、マナは封じられた……。かつての勇者が犠牲になった少女の地へ赴き、当時のパーティーメンバーは各地を守護するように扱われた」


「今となっては、世界中よ? こんな状況で、かつての勇者パーティーの軌跡を追いかけていくの?」


 アマスティアの言葉が、全てを示していた。



 ――ランストック伯爵領


 道中にあった村落は、大半が焼け落ちていた。


 まだ食えるものなどを集めつつ、勇者の幼馴染が眠っている地へ……。


 ランストック伯爵家は通り過ぎようとしたが、家族だったパウルとギュンターはそれぞれに異形となっていた。


 巨木を人の形にしたようなシルエットに、二足歩行のライオンのような獣人。


 もはや屋敷に収まるサイズではなく、グラウンドのような場所を飾り付けていた。


『貴様か……。今は、我らこそ新たな支配者だ!』


『ふんっ! 足を踏み入れなければ、まだ生きられたろうに……』


 その周りには、腐乱死体や骨が転がっている。


 俺は、パーティメンバーを抑えつつ、前へ歩み出る。


 ロイク・マレシャル・ド・フートリエにもらった魔剣を抜いた。


『ムダだ! そのような棒切れでは――』

雷鳴トニトゥルス


 淡々と魔法を発動させ、そのスピードでパウルだった巨大なウッドゴーレムを切り裂いた。


 紫色に輝く剣身に触れた先から燃え上がる伯爵。


『父上!? おのれ、よくもっ!』


 ギュンターの丸太のような腕が、全てを切り裂く爪と共に襲いくるも、全て空振り。


 しかし、その巨大な口は呪文をつむぐ。


大爆発エクスプロード!』


 何もない空間で、大規模な爆発が起きるも――


閃光ルクル


 片手を伸ばしつつ、その先の光線によってギュンターの片足が貫かれた。


『ぐっ! おのれ!!』


 膝をついた奴に密着しながら、最後の言葉を投げかける。


「たぶん……。最初の決闘で、お前を斬っておくべきだったのだろう。父親と一緒にな?」


『貴様は……貴様は何なんだ!? 異形になるしかなかった我らを一蹴できる力を持ちながら!』


 巨大なライオンの頭が、宙を舞った。


「ああ、そうだな……。たぶん、最初から間違えていたのだろう」


 ドンッと、奴の頭が落ちる。


 ゴロゴロと転がった顔は、泣いていた。


「今からでも、俺は始めなくちゃいけない……」



 ――少女が眠る地


 辿り着いた場所は、植物に覆われていた。


 その内部は、わざとらしいほどのダンジョン。


 この先に、俺が知らなくてはいけない秘密があるのだろう。


 一緒にいるパーティーに声をかける。


「行くぞ?」


 それぞれに応じる仲間たち。



 行く手をさえぎった巨大なカマキリの一撃を避けつつ、思う。


 同じ前衛のアドリエン・カザルティが斬りつけている中で、同時に巨大カマキリを攻撃していく。


 相手の正面でフリーとなったアマスティアの精霊術によって、巨大カマキリの頭が落ちた。



 今、この世界には魔法があって、俺以外も使える。


 最強ではないだろうし、余裕もない。


 追放生活でもなく、ここにあるのは世界を見に行く物語だ……。



 ~Fin~

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【完結】イリス・レコード(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~) 初雪空 @GINGO

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