第76話 杠葉ちゃん、色々と語る

 フレムンド学院を出た俺は、フェルム王国のランストック伯爵領へ向かう途中で、小人族の女3人がいる隠れ家を訪れた。


 結界を張っている場所で、優雅に屋外のテーブルでくつろぐ杠葉ゆずりははティーカップを置いた。


「この世界も、ついに魔法が解放されるようだな? どうせだから、私も小人族の王国ナインガルドを復興するか? 前は色々と背負わされすぎて、閉口したが……」


「お前は、どこまで知っているんだ?」


「少なくとも、この世界を救う義務はないな? まあ、ランストック伯爵領に行くのなら早くしたほうがいい! ドラゴン1匹とは違い、今度は無限に湧き続けるモンスターが相手だ。お前でも、キリがない」


 息を吐いた俺は、この機会に尋ねる。


「マルティナ・フォン・ファルケンヴァング伯爵令嬢は?」

「私の弟子だ! といっても、魔法は教えていない」


「ロイク・マレシャル・ド・フートリエは、何者だ?」

「……やはり、絡んだか! あやつは、かつて女神に仕える神官の有望株でな? ゆえあって、反旗を翻した」


「なぜ?」

「本人に聞け! 本来ならば、剣技と魔法に長けた勇者たり得る器だったが……。何かに失望したのだろう。今では、人を超越した魔王というやつだ」


「そのわりに、ずいぶんと親切だったぞ?」


「自分を止めて欲しいと考えるほど、殊勝ではない! 世界を滅ぼすのと人を育てることは、矛盾せんよ? ちなみに、育ちがいいから歴代勇者の師匠になったことが多いし、下手なインテリが土下座するレベルの教養だ。しかも、実地で経験してきてな?」


 奴なりに、考えるところがあるのだろう。


 そう締めくくった杠葉は、ティーカップで飲む。


「お前は、何者だ?」


「古代の魔術師マジック・マスターの1人で、私が一通りの魔法を体系化して広めた。教育の分野での第一人者だ。ロイクの同僚……みたいなもの」


「迷宮都市ブレニッケにいた『黄金の騎士団』のロワイド・クローは、お前の正体を知っていたのか?」


「むろん! 私は魔法を教えぬ代わりに、やつのバフに努めた……。だから、あやつは、私たち3人の面倒を見ていたわけだ」


 それで、細身のわりに強かったのか……。


「あいつも、ナインガルドの関係者?」


「小人族の王国といったろう? 人間のやつは、無関係だ。望乃ののの先祖が逃れてきたプリンセスで、衣緒里いおりがお付きの子孫だったか?」


 情報量が増えてきたことで、整理する。


「お前らは、どうするつもりだ?」


「魔物がうろついていて、動けん。むしろ、お前の行動による……。変に結界を広げると、世界中から人が押し寄せてくるからな?」


 杠葉は、俺をジッと見た。


「まあ、原点に戻ってから決めろ!」


 その時に、ギャーギャーと空が騒がしくなり、暗くなった。


 見上げると、ワイバーンみたいな連中が大挙している。


 キュウウンッと甲高い音が鳴り響き、空中にいくつものサークルが回転した。


 中心に向かって収束することで、ワイバーンの群れに対する弾幕が形成される。


 たまらずに落ちていくモンスターに、唖然とするも――


「こちらは心配いらん! お前はこれまで、自分だけが魔法を使えると思っただろう? しかし、世界はそれほど単純ではない」


 杠葉がティーカップを地面に投げ捨てたことで、甲高い割れる音。


 その破片を見ている俺に、告げる。


「カップは、二度と戻らん! 魔法で戻そうが、それはよく似た、別の何かだ」


 立ち上がった杠葉が、叫ぶ。


「お前の状況も、同じ! 時間が経つほど、この世界は壊れていくぞ? お前が選んだ道だ。せめて、最後のピースを嵌めた後で悩め」



 急いで別荘を漁り、旅装束を整えた。


 驚く衣緒里と望乃に構わず、俺は過去の経験から、特定のベクトルへ加速する領域を作り出す。


 バチバチと音を立てる通路を正面に伸ばした。


 見守っていた杠葉が感心する。


「ほお? 独学で磁場と電気による加速か……。やはり、お前は天才だな?」


 頷いた俺は、力強く頷いた。


「これを潜って、ショートカットする」

「やはり、お前は馬鹿だな? だったら、素直にワープしろ」


 間違っていたようだから、最後の出口を伸ばしつつ、空へ向けた。


 杠葉は、透明のレールが見えているかのように、見上げている。


「……お前は、別の惑星にでも移住する気か?」


「少し考える」


 悩んでいたら、後ろから飛びつく気配。


「ジン! また旅立つのは――」


 望乃に背中から飛びつかれて、思わず前へ進んだ。


 バジジジ……


 一瞬で視界が変わり、少し前へ滑ったかと思ったら、寝込んだままで空を見上げているように。


「あぁああああああああっ!」

「キャアァアアッ!」


 後ろに望乃が抱きついたまま、恐るべき速度で空を飛んでいた。


 反射的に、上へ向けてブレーキになるように爆発を起こしつつ、それをかぶらないようにシールドや位置の調整。


 一気に減速する。


(いったい、何が)


 周りが暗くなり、今度は下に押し付けられるまま、加速していく。


(このままでは……俺たちは助からない!)

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